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[散文写真]sakana kana

かつて魚がいたダムに出かけた
今でこそ十センチにも満たない水深だが、
子供の頃は 溺れるから行くな!
と言われるほどの水量があった
砂で埋まる はるか前のことだ

すっかり景色が変わっていたが
目を閉じると つい昨日のことのようだった
何人で出かけたのだろう
五六人、いや、もっといた
記憶の中の ダム湖はにぎやかで
広さも十倍くらい大きかった
なんといっても水の色が濃い緑で
後ろの森と一体だった

水が減ったのはいい
しかし、魚はどうなったのだと
とりとめのないことを思いながら
写真を数枚撮って帰ってきた

これがその写真である

わたしにはそれが魚に見えた

思い出がフィルムに焼き付いたのか
それとも、カメラのピントが
過去に合焦してしまったのか……

いずれにせよ
無いものは写りようがないわけで
それが魚なら、
そいつは 今もどこかを泳いでいる……

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