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2030年の世界地図帳①

前回に続き、現代の魔術師と呼ばれる落合陽一氏の著書の感想になります。かなり難しい内容だったので、こちらの書評を書くまでに数か月がかかってしまいました。(書きやすい本について先に感想を書き、この本は後回しにしていました・・・)とても勉強になる部分が多く、付箋を貼りまくりました。

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ちなみに落合氏の肩書を見ると、何が本業なのかわからないほどマルチタスクをこなしながら生きているようですが、魔術師と呼ばれるほどの才能があればこその所業だと思います。彼の著書やNewspicksのWeekly Ochiaiなどを見ていると、「異次元で生きている人だな」と感じることもあります。

著者について(AMAZONより抜粋)
落合陽一
メディアアーティスト。1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学図書館情報メディア系准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表・JST CREST xDiversity プロジェクト研究代表。大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。2015年World Technology Award、2016年Prix Ars Electronica、EUよりSTARTS Prizeを受賞。Laval Virtual Award を2017年まで4年連続5回受賞、2019年SXSW Creative Experience ARROW Awards 受賞、2017年スイス・ザンガレンシンポジウムよりLeaders of Tomorrowに選出されるなど、国内外で受賞多数。専門は計算機ホログラム、デジタルファブリケーション、HCI および計算機技術を用いた応用領域(VR、視聴触覚ディスプレイ、自動運転や身体制御)の探求。

というわけで時代の先駆者の一人である彼が2030年の世界をSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)をベースに様々な切り口から描いたのが本書です。SDGsについては、私は毎年授業で取り扱っているので、改めてその授業について詳しく書きたいと思います。

それでは、本書の書評を始めたいと思います。まず、2030年の世界はいったいどのようになっているのでしょうか。今からたった10年後の話ですが、思い返してみてください。10年前に今の時代を想像できたかを。

何度も言っていますが、テクノロジーに関しては言えば、だれもが想像できないほどの恐ろしいスピードで進化を遂げています。スマホは電話という機能を果たすだけでなく、我々の生活になくてはならない生活必需品として世界中の人々の生活を支えるようになりました。AI、IoT、ブロックチェーンなどが進化することによって、社会の様相も変わってきました。単純労働が機械に取って代わられ、Uber(個人タクシー)やAirbnb(民泊)などの新しいビジネスもすごい勢いで誕生しています。

また、10年代は「アラブの春」に代表されるような民主化運動が世界的にも広まった一方で、トランプ氏のアメリカ大統領就任やBrexit(イギリスのEU離脱)のような反グローバル化・ナショナリズムがここまで進むとは10年前には私は考えられませんでした。

ですので、10年後の世界がどうなっているかと予測するのもある意味ナンセンスなことかもしれませんが、「現代の魔術師」による示唆に富んだ10年後の展望を知ることは極めて興味深いと思い、この本を手に取りました。

まず本書では第1章に「2030年の未来と4つのデジタル・イデオロギー」について説明がされていますが、これが本書の肝だと思いました。

上にもテクノロジーの圧倒的な進歩について述べましたが、この10年でさらに加速度的に進化していくと言われています。その根底にあるのが、「5つの破壊的テクノロジー」(①AI、②5G、③自動運転、④量子コンピュータ、⑤ブロックチェーン)です。これらのテクノロジーが我々が抱える食料問題、健康問題、資源問題、都市問題などを解決していくと期待されています。

そして、「4つのデジタル・イデオロギー」とは何かというと、

1.アメリカン・デジタル

2.チャイニーズ・デジタル

3.ヨーロピアン・デジタル

4.サードウェーブ・デジタル

になります。

アメリカン・デジタルとは、GAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)を中心としたイノベーション生み出し続けるアメリカの中心に発展したイデオロギーで、これからも衰退の兆しは見えません。

チャイニーズ・デジタルとは中国政府のかごの中で市場を席巻したBATH(Baidu, Alibaba, Tencent, Huawei)のような企業が主導する、国家の力を後ろ盾にした資本主義です。巨大な人口を糧にして、アメリカのイノベーションを徹底的にパクり、国家として圧倒的な躍進を遂げました。(日本は2010年にGDPで中国に抜かれ、今では背中も見えないほどに置いてきぼりにされています( ノД`)シクシク…)

一つ飛ばして、サードウェーブ・デジタルについて。これは面白いです。これまで貧困に喘いでいたインドや一部のアフリカの国々は21世紀に入り飛躍的に経済発展を遂げました。本来国家の発達段階としては「封建的社会⇒近代⇒現代」というステップがありますが、その「近代」をすっ飛ばして一気に「現代」にたどり着いてしまったのが、サードウェーブ・デジタルです。彼らは『リバース・イノベーション』という、先進国では今まで見過ごされてきた価値を再定義した製品により新種のイノベーションを取り入れたりして、社会を改革しています。

リバース・イノベーションの例として私もよく授業で生徒に話すのが、ケニアの「Mペサ」です。先日下記の投稿でバーコード決済のことを書きましたが、アメリカではスマホによるバーコード決済がほとんど普及していないのに対して、中国ではAlipayを中心に一気にバーコード決済が普及しました。アメリカはクレジットカード文化があまりに成熟しすぎていて、なかなか入り込む余地がなかったのに対して、中国では現金やクレカに対する信用価値がそこまでなかったことで一気にバーコード決済が広がったと言われています。

ケニアでも同じことが起こりました。そもそもアフリカの人々がスマホ(携帯電話)を持っているのかと思う方もいらっしゃるかと思いますが、2020年におけるアフリカでの携帯電話普及率は54%と言われています。Mペサに関して知りたい方は下記のサイトをご覧ください。日本では現金志向が非常に強いため遅々として進まないキャッシュレス化が、ケニアではすごい勢いで進んでおります。(余談ですが、よく高齢者が強盗に現金数千万円を奪われた、なんてニュースを目にしますが、そのような現金主義がまったくもって理解できません・・・)

そして、3番目のヨーロピアン・デジタルなのですが、実はこれが今後の日本の未来を考えていく上で、非常に重要なイデオロギーのモデルとなると落合氏は主張しているのです。

この辺でいつも自分が基準としている3000字になったので、いったん切り、次回続編を書きたいと思います。よろしければそちらもご覧ください。

よろしくお願いいたします<m(__)m>


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