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教師の悩み

「教師の悩み」といっても、私の悩みではありません。最近読んだ本のタイトルです。

以前にも教育界の様々な問題点を多角的な分析と深い考察をもとに書かれた「教師崩壊」を読み、noteに書評を書きました。こちらの本は教師なら一読すべき良書だと思います。

本書でも、様々な角度から学校教育にまつわる問題を取り上げ、大変興味深い内容ばかりでした。その中でも社会的にも大きな問題となっている教師の多忙化、学校のブラック化という点に焦点を当てて書きたいと思います。

学校という職場の多忙化・ブラック化

https://journal.ridilover.jp/topics/33 より引用

20年前と比べると、我々教師の雑務は2倍に増えたと言われています。

「小学校で月59時間、中学校で81時間」

これは何の数字かわかりますでしょうか。公立学校の教員の平均時間外勤務時間数になります。ちなみに月80時間が「過労死ライン」とされているので、平均的な公立の中学校教師はいつ過労死してもおかしくない状況です。

では、なぜ教師はそんなに忙しいのかというと、日本独特の教育環境があるからだと思います。

欧米では(少なくとも私が教えていた国々では)、学校は勉強を学ぶ場所であって、一般常識や規律を身につけたり、スポーツなどを通して心身の成長を図る場ではありません。前者なら家庭が責任をもって教育を行い、後者であれば地域のコミュニティの中で大人が責任をもって子どもを育成しなければいけないはずです。教師の役割は子どもたちに勉強を教えることで人としての成長を促すことであって、学習や進路のカウンセリング、生徒指導、出席や成績の管理などは各専門家が行います。

一方、日本ではそれらすべてを学校が、そして教師が引き受ける構造ができています。

理由は様々だと思いますが、社会構造として家庭や地域が教育力を失ったことが大きいと考えます。

急速に核家族化が進み、そして経済が停滞する中で共働きが増えたゆえに、家庭での教育力は失われていきました。また、人と人とのつながりが希薄になるにつれて地域における教育力もほぼ皆無となりました。(昔は悪いことをしたら、近所のおじさんおばさんに叱られるなんてことがよくありましたが、今は田舎にでも行かない限りなかなか目にしない光景だと思います)

そうやって本来家庭、地域、学校が三位一体となって子供を教育していかなければいけないところが、すべて学校に依存されるようになってしまったのです。

私は私立の中高一貫校に勤めているのですが、生徒の素行について外部からクレームを受けることがたまににあります。やれ電車の中での態度が悪い、やれ歩道を数人で広がって歩いているのでいつも迷惑をしている、などなど。(一応名誉のために言っておくと、手前味噌ですが、うちの生徒たちは素晴らしい生徒ばかりです。それでも子供ですから過ちは犯します)

はい、間違いなくうちの生徒が悪いです。それを開き直るつもりは毛頭ありません。

ただ、それは学校が教育するべきことですか?

ひどい場合、「毎朝歩道に立って、生徒を監視しろ!」なんて言ってきた人もいました。

言いたいことはわかります。でも冷静になりましょう。

人に迷惑をかけちゃいけない、って家庭で教えることじゃないんですか?

少なくとも私は自分の娘の先生たちにそんなことを教えて欲しいと思っていません。それは親の責任のはずです。

とは言っても、生徒の将来を考えるとやはり指導は必要なので、出来る限り該当者を洗い出し、その生徒たちにはしっかりと指導をします。

すみません。かなり愚痴っぽくなってしまいました(;´・ω・) ただこれが現実です。

そして、教師の多忙化の大きな原因の一つが部活動の指導です。

私は部活動推進派です。なぜなら、現在の自分を作っている大部分が部活を通して出来上がったと信じているからです。

私は幼少の頃よりサッカーをしており、中学高校ではサッカー部のキャプテンでした。個人的には部活は最高のPBL(Project Based Learning)だと思っており、部活動の経験からGrit(やり抜く力)やResilience(折れない心)などの生きていく上で必要な力を身につけ、どんな逆境でもくじけずに乗り越えてきました。仲間との友情や先輩への礼儀なども部活で学びました。

なので部活動は尊いのです。問題は、その部活を誰が見るかです。

世間では忘れられがちですが、部活は教師の本分ではありません。

学習指導要領には、学校で部活動を行いなさいとは一言も書かれていません。あくまでも「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」ものとされており、正規の教育課程との関連を図るという規定が入ったのも、現行の指導要領(2008~09<平成20〜21>年改訂)からです。

ちなみに顧問の先生が日曜日に大会の引率などしたときにでる手当の額をご存知でしょうか。

地方公務員たる教員は、休日に4時間以上の部活顧問を行った場合には、休日手当の代わりに文部科学省が定めるが定める「部活動手当」の3,600円が支払われます。4時間以上(以上なので8時間でも同じです)働いて3,600円って、時給900円ってことですよね・・・。最低労働賃金より低いなんてありえないですよね。

それを言うなら、「給特法」に触れないわけにはいきません。「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」—通称「給特法」—というものが存在し、公立学校の教員には「教職調整額」として給与の4%の上乗せがある代わりに、残業代が支払われない仕組みとなっています。4%を支払うだけで、後は働かせ放題という、世界的に見てもこんなブラックな環境ないだろうってくらいマックロクロスケなのが日本の学校です。ちなみに私立もほとんどの学校が公立と同じシステムを取っており、残業代は出ません。

部活動の指導に情熱を捧げている先生も全国にはたくさんいらっしゃいます。それらの先生は本業がおろそかにならないように、指導に当たってもらうべきだと思います。逆に、部活動の顧問をやりたくない先生はその希望が認められるべきです。つまり、顧問は希望制にするべきです。外部の部活動指導員やコーチを雇えばいいだけの話です。または地域のクラブチームなどを増やして、コミュニティの中でスポーツをはじめ、様々な活動を子どもができるようにすればいいのです。欧米ではそれが自然な形です。

現実として、小学校の先生は基本的に全教科を教えるため、一日中トイレに行く暇もないほど多忙な日々を過ごし、一方中高の教員は部活の指導があるため、土日も生徒のために費やし、滅私奉公しているのが日本の教師の現実です。

これでは教師のなりては減少の一途をたどるばかりです。

こちらは私が敬愛する妹尾さんが書いた記事です。上記の「教師崩壊」も妹尾さんの著書です。

記事によると、小学校の教員採用試験の倍率は、北海道(札幌市を除く)1.3倍、山形県1.5倍、福岡県1.4倍、福岡市1.9倍、佐賀県・大分県・長崎県それぞれ1.4倍と、北海道・東北、九州などでは低いところが目立ちます。東京都は1.9倍です。

2000年の倍率(全国)は12.5倍だったので、この倍率の低さは尋常ではありません。それだけ学校という職場がブラックだというのが世間に知れ渡った証左だと思います。

という感じで、ここまで学校教育にまつわるネガティブな側面ばかりを取り上げてきました。ただ、このままでは単なる愚痴で終わってしまうので、最後にポジティブなことを書きたいと思います。

まず現在日本の教育はうねりをあげて変化しています。国も日本の教育が問題だらけであることを認め、真剣に教育改革を起こそうと躍起になっています。

残念ながら150年変わらなかった教育体制を変えるのは簡単ではなく、順調に改革が進んでいるかというとそうではありません。(ゆとり教育もIB200校計画も大学入試改革もことごとく頓挫しています)

ただ、今もGIGAスクール構想という、全ての公立小中学校で生徒一人にPC一台をあてがうという計画があり、これが少しずつ進んでいます。私はこうやって失敗しながら少しずつ変えていくしかないと思っています。

国を変えるには絶対に教育を変えなくてはいけません。それは他国の例が、そして過去の歴史が教えてくれます。だから教育の力を私は信じます。

生徒も教師も安心して過ごせる場を国は作る使命があります。

我々教師は目の前の生徒たちに全力でぶつかり、彼らの将来のために、そしてこの国の未来のために、教育に従事しなければなりません。それをしなければこの国は衰退の一途をたどるばかりです。

マララさんも言ってました。

Education is the only solution. Education First.


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