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新しいまちが目指す「テクノロジーとの共生」|「Playable Week 2023」レポート

JR 東日本は、高輪ゲートウェイ駅が3月14日に開業3周年を迎えることを記念し、3月10日から12日の3日間で「Playable Week 2023」を開催いたしました。
 
「Playable Week」は、JR東日本が高輪ゲートウェイ駅周辺で推進する「TAKANAWA GATEWAY CITY」が目指す新しいまちづくりを体験していただくイベントです。2024年度末のまちびらきに先駆けて共創パートナーとの活動や実証実験に駅で直接触れていただくことで、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」「やってみようが、かなう街」を標榜する未来の街がどのようなものとなるのか、楽しみながら参加者に想起していただくことを目的としています。3回目の開催となる「Playable Week 2023」では、「-Play×Future-」をコンセプトに、新しい街での実装を見据えているロボットやバーチャルエージェント、アバターを活用した「未来型保育園」、誰もが演奏可能なテクノロジーを活用したフリー演奏スペースなど、未来の街・駅における「ひととテクノロジーの共生」を体験できる実験を数多く実施しました。
 
今回はそこからいくつかのコンテンツをピックアップし、その背景と思いを各担当者の声とともに、TAKANAWA GATEWAY CITYプロジェクトメンバーの栄田がお伝えします。

栄田 彩
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット(次世代まちづくり創造)
 
TokyoYard PROJECTで街のブランディング・プロモーション業務を担当するとともに、「100年先へ文化をつなぐ」ミッションを持つTAKANAWA GATEWAY CITYのシンボル・文化創造棟の開業準備などを担当。

ロボット・AIも含めたインクルージョン

今回の「Playable Week」は、わたしたちが行っている実証実験が、実際にどう街に実装されていくのかを、高輪ゲートウェイ駅を訪れたみなさまに具体的にイメージし、楽しんでいただくと同時に、実装に向けた課題の洗い出しや検証を行うことを目的としています。「Charlie(チャーリー)」「LOVOT」といったコミュニケーションロボットや、障害物・ひととの衝突を回避しながら、清掃を行う業務用全自動床洗浄ロボット「Scrubber 50 Pro」、自己位置を認識しながら屋内外の規定経路を自律走行・巡回するゴミ収集ロボット「ゴミ箱 AMR(Autonomous Mobile Robot)」など、10種類以上のロボットの実験を並行して実施しました。

これまで、わたしたちは共創パートナーとともに様々な実証実験を継続して実施してきました。手探りで行ってきた実証実験も、まちびらきを2年後の2024年度末に控えるなかで、より街への現実的な実装を見据えたものへとブラッシュアップする段階になっています。これらのロボットに関していえば、個別の実証実験を行うだけでなく、異なるメーカーによる複数のロボットが、街の共通のプロトコルのなかでいかに機能するかも検証し、課題の洗い出しと精査をしていく必要があります。
 
例えば、ロボット同士やひととの衝突防止機能がきちんと機能するか、ロボットがセンシングしやすい床の素材になっているか、ロボットが作業をしやすい導線をもつ空間になっているかといった、施設環境面での観点は非常に重要になります。

また、駅やまちなどのひとが多い場所ではロボットの通信が不安定になる可能性があるため、通信環境面での検討も必要ですし、ロボットが集めたゴミの回収をどのように行うか、ロボットの保管や充電をどうするかなど運用面での観点も欠かせません。

少子高齢化や労働人口の減少、人材の不足という大きな課題が日本に突きつけられているなかで、ひとにしかできない仕事とロボットでもできる仕事を区別し相互に補い合うような、ひととロボットがともに働く社会が少しずつ当たり前になっていくはずです。そのときに、これからの社会や公共空間はロボットにとっても働きやすいものであることが重要になります。
 
TAKANAWA GATEWAY CITYには、人種や国籍、宗教、ジェンダー、嗜好、仕事など、多様な生き方や働き方が可能な器となる、というミッションがあります。ロボットをひととともに働く街の「プレーヤー」として捉えたとき、この街にはロボットやAIが活躍できる土壌が備わっているべきで、それらが活躍している間に、ひとしかできないことにより注力できる。単にひとが行ってきたことをテクノロジーによってリプレイスするのではなく、ひとの豊かな暮らしへ還元されていくことを前提としたロボット・AIとの「共生」を目指しています。

平林 恵理子 
㈱JR東日本商事 リース・ソリューション本部(AIロボティクス) 案内AIやサービスロボットの導入推進と実証実験の運営を担当

ひととロボットの共生は、技術や施設環境、通信環境、運用の改善だけでは実現できません。高性能なロボットと環境、仕組みを用意するだけではなく、ロボットがひとの身近な存在になることが当たり前になる状況を、いまのうちから認識しておくことが必要です。今回のイベントでは、様々なロボットが稼働する様子を、お客さまに直接体験いただき、少しでもロボットを身近に感じていただけるきっかけになったと感じています。今後も実証実験やイベントなどを通して、ロボットが珍しいものではなく、どこにでもいるものとして認識していただけると嬉しいです。

なぜ音楽イベントを続けるのか

また、駅の中にフリー演奏スペースを設置し、共創パートナーの「世界ゆるミュージック協会」とともに、「音楽会」も実施しました。当日は駅のなかへの楽器持ち込みを可能にし、鼻歌でサックスの音色を表現できる「ウルトラライトサックス」やギターのようなコード(和音)が簡単に弾ける「インスタコード」など、普段楽器に触れることのない方でも気軽に演奏できるテクノロジーをつかった楽器をラインナップ。そうすることで誰もが一緒になって演奏を楽しむことができる「音楽会」を実現しました。

わたしたちはこれまで、音楽を通じた実証実験とコンテンツを継続して行ってきました。その最初の取り組みとして、一般の方々が自由に演奏できる「ステーションピアノ」を過去のPlayable Weekで実験的に設置。次のステップとしてピアノ以外の楽器も使って、音楽を楽しめる環境づくりをしてきました。本来、駅のなかでの楽器演奏は認められていませんが、どのような条件であれば駅のなかでも音楽を楽しめるかを模索することで、より多くの人が参加できるフリー演奏スペースの実現に繋げています。
 
そして今回は新たに、楽器を演奏したことがないひとや演奏することが困難なひとでも気軽に楽器に触れ、音楽を楽しんでいただきたいという想いから、「誰でも演奏ができる楽器」を活用しました。楽器を弾けない。人前で演奏に参加することが難しい。そうしたハードルをいちど取り除くことにテクノロジーを活用したのが今回の「音楽会」です。
 
音楽は、言葉の壁や様々な違いを乗り超える力を持っていると考えています。今回はそこにテクノロジーの力を加えることで、多くのひとに音楽を聴いて楽しむだけでなく、演じる楽しさにも触れていただける環境を実現しました。こうした取り組みがひと同士の新たな繋がりや、ここで音楽に触れた子どもたちの可能性を広げることにつながるかもしれないですし、さらには音楽を通して周辺の企業や団体がつながり、地域全体の活性化にもつながっていくのだと思います。そして100年先の心豊かな暮らしづくりを音楽を通して実現するために、だれもが気軽に音楽に触れて楽しむことができる環境づくりを目指していきます。

原 幸弘(はら ゆきひろ)
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット
一般社団法人高輪ゲートウェイエリアマネジメント事務局員。社団法人の事務局員としてエリアマネジメント活動全般に従事。音楽の取組のほか、公共空間利活用に向けた検討などを幅広く担当。
 
今後は、一般の方々だけでなく、地域企業・団体、行政なども巻き込んで様々な企画を実現していくことができたらと思います。将来的には、ここで繋がったひとたちと様々な形の演奏会を実現することができたらいいですね。あらゆる方々が気軽に音楽を楽しみ、素敵な音にあふれたまちづくりを通して100年先の心豊かなくらしを実現していきたいです。

アバターを活用した保育の可能性

アバター開発やアバターワーカーの派遣を展開するAVITA株式会社と協業して開催した「未来の保育園」では、新しい街に予定されている保育園における育児サポートの機能の充実に向けた実証実験として、保育士の先生が遠隔地からアバターを通しての絵本の読み聞かせ、指あそびやクイズを実施しました。

ここでは、はじめてアバターに接する子どもたちがどのような反応をするのかをひとつの検証ポイントとしました。興味深いのは、子どもたちがアバターを介した読み聞かせに非常に集中して耳を傾け、違和感なく会話を行っていた点です。
 
わたしたちが子どものころにはなかった、画面のなかのキャラクターと話せる体験がテクノロジーによって可能になり、子どもたちがより夢中になれる楽しい体験を生み出すことができているのではないか。また、今回展示したコミュニケーションロボット「LOVOT」にも子どもたちが違和感なく接していたように、これからの世代はテクノロジーとひととの間にある垣根を越えた認知をベースに育っていく可能性が大いにあります。

これは、様々な分野での社会課題を解決していくことをひとつのミッションにする新しい街の大きなヒントになります。少子高齢化や労働人口の減少、保育業界に関して言えば現場保育士さんたちの人材不足や業務負担の増加といった課題に直面しているわけですが、アバターがその解決に有効なアプローチのひとつとなり得ます。
 
保育士さんの仕事は、子どもたちとのレクリエーションだけではなく、様々な事務作業も存在します。例えばレクリエーションを30分だけでもアバターに任せることができれば、事務作業に集中することができ、残業時間も軽減できるかもしれません。アバター(とカメラ)を使うことで、遠隔地からより俯瞰した視点で、ひとりで複数の保育園、園児を無理のない範囲で同時に見守ることも可能です。
 
また高齢者や体に抱える障がいによって、これまでなかなか自身の能力を生かす場のなかった方々が活躍できる働き方の選択肢が増え、世代や性別など、様々なギャップを越えたひとの繋がりが生まれるきっかけにもなるのではないかと考えています。

西口 昇吾(にしぐち しょうご)
AVITA株式会社 創業者・取締役COO。新卒で日本テレビに入社し、VTuber事業を立ち上げ共同代表を務めた。独立後にAVITA株式会社を創業し、アバターDX支援サービス「AVACOM」などを展開。「未来の市場をつくる100社 2023年版」、「Z世代の注目企業2022」に選定。三重県明和町未来プロジェクトマネージャーに就任し、地方創生にも携わる。
 
人間が間違える確率がAIのそれよりも高かったとしても、「ひとに任せる」ことで、ひとはある種の安心感を覚えます。技術では数値化・最適化できない、人間同士の繋がりがひとの可能性を拡げ、それこそがひとが生きる理由であると思います。それをサポートするものの手段がアバターです。テクノロジーとの共生とは、人間ができないことをテクノロジーで補い合いながら、より自分の可能性を追求し、自分の居場所を見つけられることです。そのために、年齢も場所も、所属も身体の差異も関係なく生きていける社会の実験を続けていきたいですね。

新倉 拓朗(にいくら たくろう)
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット
地域連携施策を中心に、高輪ゲートウェイ駅におけるマルシェ、共創事業検討などを担当。
 
「100年先の心豊かなくらしのための実験場」として、地域の皆さんがそれぞれ繋がりながら子どもを育てていくことは大きなテーマです。それにアプローチすることで、周辺地域のみならず、日本、さらには世界中に新しい保育のあり方を発信していけるかもしれない。そうしたことも常に見据えながら、引き続き実装に向けた実証実験を進めていきたいです。

今回の「Playable Week 2023」では、テクノロジーとの共生をテーマに様々なコンテンツを体験いただきましたが、この「共生」とは、単に社会のあらゆるものを技術に置き換えていくことを意味しません。駅・街を起点に世代・距離・時間を超えた新しいかたちでの社会や文化への参加、生き方、働き方ができる。そんな街を目指して、ロボットやAI、アバターをはじめとしたテクノロジーと人間が二人三脚で生きていくことができる、「手触りのある最先端のまちづくり」を行っていきたいと考えています。
 
取材・構成:和田拓也
撮影:山口雄太郎
ディレクション:黒鳥社


 


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