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スタンフォード大学で夢を見て、アップルパークで夢破れ、草間彌生と世界一高い木に癒される

サザンオールスターズの好きな曲にこんな歌詞がある。

マーリンルージュで愛されて
大黒埠頭で虹を見て
シーガーディアンで酔わされて
まだ離れたくない 早く去かなくちゃ
夜明けと共に この首筋に夢の跡

『LOVE AFFAIR~秘密のデート』(作詞:桑田佳祐)より引用

桑田さんの体験から生まれた歌詞かと思いきや、実際は「じゃらん」や「るるぶ」横浜版を見ながら観光スポットが記載されている記事にラインマーカーを引きながら歌詞を書いたらしい。

それゆえに桑田さん自身も「にわか」と自虐的に語っていた。「にわか」でも強烈なリアリティを感じさせるのだからすごい。

そんな横浜から遠く離れたサンフランシスコで朝を迎え、車でおよそ50分のところにあるスタンフォード大学へ向かった。

世界大学ランキングで最上位クラスに挙げられる大学の校訓は「Die Luft der Freiheit weht(自由の風が吹く)」。

緑豊かで広大なキャンパスに吹く風が、そのまま自由な気風をつくっている気がした。

大型スーパーマーケット並みの広さでスタンフォード大グッズを販売している場所もある。

それだけ愛校心が強いのか、僕のような「にわか」スタンフォード大訪問者に対する商売っ気かは分からない。

映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のように大学の授業に潜り込んで数学の難問をさらりと解いて立ち去りたいところだが、その勇気も学力もないので、おとなしく大学内のスタバに入る。

スタンフォード大学生や教授らしき人が熱心に議論したり黙々と勉強したり自由な空気が心地よい。

僕もまたウォルト・ディズニーよろしく紙ナプキンに夢のスケッチを書いてみたかったが、あまりに書きづらいので普通のノートに書く。

居心地の良い時間を味わったあと、スタンフォード大学から車で25分のところにあるアップルパークへ向かう。

今あなたがこのnoteをiPhoneで読んでいるとしたら、まさに、その製品を生み出した本拠地のような場所だ。Apple信者にとっては聖地とでもいえるような場所だ。

誰でも入れるApple StoreはVision Pro全面推しだった。

今回の旅の一つの目的はVision Proの導入検討であった。
VRが未来を変えるかもしれないとしたら映像制作を生業にする者として少しでも早く本命に触れ未来を構想したい。

だが、このデモ体験は予約制で、10時過ぎに着いたというのに17時まで待たなければいけないと言われる。「にわか」アップル信者がここで裏目に出る。

目と鼻の先にあるアップル本社は、社員や関係者以外は立ち入ることができない。

7時間もの間、全種類のTシャツを試着して過ごすか、

AirPodsの楽譜を読み取って、脳内で音楽リピート再生して過ごすか、

カフェに入ってしばし考える。どれも心が踊らない。

するとアップル店員らしき人が白い模型を前に何やらプレゼンテーションを始める。

なるほど、ここにiPadをかざすことで、Apple本社を擬似的にARで体験できるというわけか。

細部までしっかり作りこんであり、人も動くアニメーションまでついている。うん、すごいね。すごいけど、何か今ひとつワクワクしない。

それは本能的におそらくもうVRやARの台頭する時代を予感しながらも、そこに付随する「どこまでいっても擬似」ということへの違和感を感じているからかもしれない。

たとえばポートランドの朝露の匂い、
アムトラック寝台列車から見える雄大な景色、
ゴールデンゲートブリッジを歩く時の絶景と騒音、
ジョンズグリルで味わったラム肉の美味しさ、

ここ数日、五感を使ってリアルに体験する喜びを強く味わってしまったがゆえに、VRやARにそこまでワクワクしきれない自己矛盾に気づいてしまう。

あるいは単純に「7時間待ち」という現実に気が滅入っただけかもしれない。でもVRやARが現実に極めて近い「にわか」の究極だとしたら、やはりサザンの曲のように情感やリアリティが欲しいなとも思う。

もしもサザン並みの情感を感じられるときがきたら、それは僕の中のシンギュラリティになるだろう。もやもやとした失意を抱えながら、アップルパークを後にしてサンフランシスコに戻る。

訪れたのはサンフランシスコ現代美術館の草間彌生展。
「INFINITE LOVE」直訳すれば「無限の愛」だ。

全面ミラーの中に置かれた草間彌生の作品と自分が、永遠に続くように見える。自分が無限に続く世界。そんなありえない現実を現実化した空間は妙に心地よかった。

Vision ProがなくてもVRのような世界をつくりだした草間彌生さんへのリスペクトが募る。

展示会場には彼女の言葉が添えられていた。

草間彌生「INFINITE LOVE」展より(Googleレンズ訳)

打ちひしがれた心に彼女の言葉がしみる。「美しい足跡を残したい」。それは表現に身を捧げる人の根源的な欲求かもしれない。

展示を後にしてからは、UberTAXIの運転手さんに勧められた「ミューアウッズという世界一高い木がある」場所を訪れた。

……圧巻だった。
もはや言葉をはさむ余地がないくらい圧倒された。

「自由の女神」より高いと言われても今ひとつピンとこないが何となくすごく高いことはわかる。ちなみにミューアウッズに「世界一高い木」はなくて、その近くにある「ハイペリオン」という木がそれに当たるらしいが別に騙された気持ちもない。むしろ運転手さんに感謝だ。

できるだけ長くここに滞在したかったが、最終シャトルバスの時間もあるから、ゆっくりはしていられない。

それにしても長い1日だった。

スタンフォード大学で夢を見て、
アップルパークで夢破れ、
草間彌生と世界一高い木に癒されて、
まだ離れたくない 早く去かなくちゃ

とサザンの歌詞に沿わせてみても、首筋に夢の跡はつかないので、せめてnoteに今日辿った足跡を残しておきたい。

(つづく)

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