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スタートアップの創業者から学ぶこと

ポール・グレアム(Paul Graham)が執筆したエッセー「Learning from Founders」の日本語訳になります。

2007年

(このエッセーはジェシカ・リビングストンの書籍『Founders at Work』の序文である。)

どうやら短距離走者はスターティングブロックからすぐさま最高速度に到達し、速度を落としながらレースの残りを過ごしているようだ。優勝者は最小限に速度を落とす。ほとんどのスタートアップでもそんな感じである。初期の段階は通常最も生産的である。それはスタートアップが本当に大きなアイデアを持っているときである。Apple の従業員の100%がスティーブ・ジョブズかスティーブ・ウォズニアックのどちらかだったとき、Apple がどんな姿だったのかを想像してみてください。

この段階に関して際立つことは、スタートアップがほとんどの人たちのビジネスとはどういうものかという考えと完全に異なっていることである。あなたが「ビジネス」を表すイメージに関して人びとの頭の中(またはストックフォトコレクション)をのぞき込むと、スーツを着た人たち、真面目な顔つきをしながら会議のテーブル周りに座っているグループ、パワーポイントのプレゼンテーション、お互いに読むための厚い報告書を作成する人たち、といったイメージを得るだろう。初期の段階のスタートアップはこれとは正反対である。それなのに、初期の段階のスタートアップはおそらく経済全体の最も生産的な部分である。

なぜズレるものなのか? 私は仕事に一般的な原則があると考える。人びとがパフォーマンスに費やすエネルギーが少ないほど、人びとは補うために外見にエネルギーを費やすのだ。多くの場合、印象的に見えるようにすることに費やすエネルギーは実際のパフォーマンスをさらに悪くする。数年前、ある自動車雑誌が最速可能な状態である1/4マイルを得るためにある市販車の「スポーツ」モデルを改造した、という自動車雑誌の記事を私は読んだ。あなたは自動車雑誌がどのようにして改造したのかを知っているか? 彼らは車が速そうに見えるようにメーカーが車にボトル留めしたすべての無駄を切り落としたのだ。

ビジネスは車が壊れていたのと同じように壊れている。生産的に見えることに費やす努力は、単に無駄になるだけでなく実際に組織をあまり生産的ではないようにする。たとえば、スーツだ。スーツは人びとがよりよく考えるのに役立たない。私は、ほとんどの大企業の役員が日曜日の朝に起きて、コーヒーを入れるためにバスローブ姿で下の階へ降りたときに最高の思考をする、と賭ける。これがあなたがアイデアを持つときであるのだ。人びとが仕事でよくそのことを考えることができた場合、会社がどんな姿になるのか想像してみてください。人びとはスタートアップで、少なくとも一部の時間、よくそのことを考えている。(時間の半分は、サーバーが燃えているという理由であなたはパニック状態にある。残りの半分は、ほとんどの人たちが日曜日の朝に一人でただ座っているのと同じくらいあなたは深く考えている。)

スタートアップと大企業で通用する生産性とのほとんどの他の違いについても同じである。それでも、従来のプロフェッショナリズムの考えは私たちの心をあまりに強くつかんでいるので、スタートアップの創業者でさえプロフェッショナリズムの考えに影響を受ける。私たちのスタートアップでは、部外者が訪れたときには懸命に「プロ」であるように見せようとした。私たちはオフィスをキレイにしたり、いい服を着たり、通常の業務時間には多くの人たちがオフィスにいるように手配したりしようとするだろう。実のところ、プログラミングは業務時間にキレイなデスクで身なりのいい人たちによってやり終えなかった。プログラミングは朝2時にガラクタが散乱したオフィスで身なりのひどい人たちによってやり終えていた。(私はタオル一枚だけを身に着けながらプログラミングすることで有名だった。)しかし、そのことを理解してくれるだろう訪問者はいない。生産性を見たときに本物の生産性の見分けがつけられるはずの投資家でさえも。私たちでさえ社会通念に影響を受けていた。私たちは自分たちを完全にプロではないのに成功しているなりすまし者だと思った。これは、自分たちはF1カーを作ったが、それが見えるはずべきだった車のようには見えなかったたので、きまり悪い思いをしたようだった。

車の世界では、ハイパフォーマンスな車は、大きなリムと偽のスポイラーがトランクにボトル留めされたセダンではなく、F1のレースカーのように見えることを知っている人たちが少なくともいる。なぜビジネスの世界ではいないのか? おそらくスタートアップがあまりにも小さいからだ。本当に劇的な成長はスタートアップに3人か4人しかいないときに起きるので、3人か4人しかその成長を見ない。一方で、ボーイングやフィリップモリスがするようなビジネスを何万人もの人たちが見ている。

この本は、これまで一握りの人たちしか目の当たりにできたこと、つまりスタートアップの最初の1年に起こることを誰にでも見せることで、この問題を解決するのに役立つことができる。これが本当の生産的な姿である。これはF1のレースカーである。奇妙に見えるが、速く進むのだ。

もちろん、大企業はこういったスタートアップがすることすべてをすることはできないだろう。大企業では、常に権力闘争が多くなり、個人の意思決定の範囲は小さくなっていく。しかし、スタートアップの本当の姿を見ることで、少なくとも他の組織に何を目指すのか示すだろう。スタートアップがより会社らしく見えようとするのではなく、会社がよりスタートアップらしく見えようとする時代がもうすぐやってくるかもしれない。これはいいことであるだろう。


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