見出し画像

不妊治療のために正社員をやめるか悩んだ時に、私が心がけた一つのこと

こんにちは。不妊治療経験歴のある臨床心理士のちむです。

先月に引き続き、webメディア『オトナンサー』に臨床心理士・公認心理師としてシリーズで取材いただいています。

今回は不妊治療と仕事の両立についてです。
すでに治療と仕事の両立について書いているのですが、その時はどちらかというと「どう動くか」という割と具体的な行動について書いていました。

今回はもう少し、心に関する内容かもしれません。

特に正社員を辞めるかどうするかを悩んでいる方のヒントになれば嬉しいです。

不妊治療と仕事の両立は、想像以上に大変でストレスになりやすい!

みなさん、治療をしながらのお仕事はどうされていらっしゃいますか?

私は不妊治療と仕事との両立を考えることがかなり精神的負担になっていました。
出産適齢期はキャリア形成適齢期とも見事に重なっていて、仕事も何かと頑張り時だったりしますよね。

私は20代後半と、何年かのお休みを挟んで30代前半にかけて不妊治療をしていましたが、仕事とどのように関わるかを試行錯誤しながら日々過ごしていました。
特に20代後半の時は正社員としてカウンセリング業務にあたっており、やっと駆け出しを卒業して(勢いだけは十分な)若手カウンセラーとしてクリニックの主戦力として頑張ろうと意気込んでいたところでした。

折角正社員として働かせてもらっているし…、仕事を教えてくれる先輩もいるしで、できる限りその職場で仕事を続けたいと思っていました。

正社員なら産休も育休もあるし、その間お給料も貰えるし…。
高度不妊治療が必要なことは学生時代からわかっていたものの、不妊治療と仕事をどのように扱うかを考えることから全力猛ダッシュで逃避し続けていました。
しかし予期せぬ通院が必要になるに連れて、仕事への身の振り方を考えざるをえなくなってくるのでした。

私の場合、患者さんやクライエントさんが安心してお話しできる場所を提供するために、突発的な休みは本当に避けたいことでした。

なんとか両立できないかと上司に状況を相談しても、色々な条件が重なって、当時は不妊治療を考慮した柔軟な労働環境を整えることは難しいという結論になりました。(ほんと、交渉したんですけどね)
非常勤として働くこともできないため、退職や転職を現実的に考えなくてはいけなくなりました。

折角積み重ねたキャリアなのに、
一生懸命修行をしてきたのに、
自分は仕事を続けたいのに、
願って不妊になったわけではないのに、
なんでこんなことになったんだろう…!と思う日々。

また不妊治療は色々なことを同時に選択しなくてはならず、仕事の選択や治療法の選択、お金の工面の選択…と、日々「何かを決めて何かを手放す」ような生活で、それだけで疲れを感じてもいました。

これを読まれているみなさんの中にも、職場と相談したけれども環境調整がうまくいかないという方もひょっとしたらおられるかもしれませんよね。
(願わくば「職場の理解があったから平気だよ!」という声が多い世の中ならばよいのですが。)
ただでさえ治療で体がしんどいのに、心も頭の中も疲弊して…そんな時は本当に参ってしまいますよね。

不妊治療で働き方を変える人の割合

ちなみに、不妊治療をきっかけに働き方を変えている人はどの程度いるのでしょうか。
厚生労働省によると次のとおりです。

働きながら不妊治療を受ける方は増加傾向にあると考えられますが、厚生労働省が 行った調査によると、不妊治療と仕事との両立ができず16%(女性の場合は23%)の 方が離職をしています。 不妊治療と仕事との両立を困難にしている要因としては、精神面での負担が大きい こと、通院回数が多いこと等が挙げられていますが、企業や働いている人たちも、そ もそも不妊や不妊治療についての認識があまりないために、企業内の支援制度の導入 や利用が進まないことも考えられます。

厚生労働省 『不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック』より引用

不妊治療に取り組むおよそ4人に1人の女性が不妊治療と仕事の両立に悩んで離職しているというデータがあります。
これって結構な数ですよね。

不妊治療で正社員を辞めるかどうするかを悩んだ時にたどり着いた、ひとつの考え方。

結論から言うと、その後私は悩みつつも仕事を一旦退職しました。
当時は職場側が人員を増やす意向が無かったので、戻ることも難しい状況での退職という決断でした。
産休育休、ボーナス、社会保障(二階建ての年金)も全て手放しました。

なぜならば、
自己都合で患者さんに予約を融通して頂くことが「私は」職業人として避けたかったからです。
この仕事を続けていく上でそれだけはしたく無かったからです。

また、
不妊治療のステップアップを挑戦してみたかった
からです。

考えの賛否は置いておいて、
自分がその時「譲れないこと」はなにか
という視点で判断をしました。

仕事との両立で困ったら、その時「譲れないこと」を優先させてみると、後から後悔しない

私の場合は、
子どもを授かることと、
患者さんに申し訳なく思うことをしたくないという職業倫理のポリシー
が譲れなかったので、仕事を「一旦」手放しました。

不本意ながら仕事を辞めざるを得なかったことは、当時の私にとってかなり悲しいことでした。満員電車や慌ただしい日常のストレスは無くなりましたが、自分の一部がもぎ取られてしまったような寂しさを覚えました。

ただ突発的な通院には対応できるようになったので、治療に専念できる環境にはなりました。薬で体調が悪ければ思う存分休めるので、体力に余裕がある分、心にも余裕が生まれました。
(夜ふかしの背徳感もなかなかよかったです)
満足な環境ではありませんでしたが、「患者さん・クライエントさんを第一にする」というポリシーを守り抜けたことで、職業人としての罪悪感がなく、末長く心理士を続けていきたいという熱意も高まりました。

不妊治療で正社員をやめると、妊娠・出産できるのか。仕事をやめて得たものはなにか。

不妊治療のために仕事をやめてみて、全てがストレスフリーにはなりませんでした。そして、仕事を辞めたからといって出産はできませんでした。
(実際に出産できたのは仕事を辞めた時点から7年後のことです)

しかし、世間体や「◯◯が望ましい」「◯◯すべき」というような外側の価値観に流されず、自分が大切にしたいことを大切にする経験ができたことは
大きかったように思います。

それまでは学校を出た後は正社員として働くことが良いことで、キャリアを積み重ねる上でとても大切なことと強く考えていたので、
私にとって正社員を辞めたことは、自分の人生を自分の軸で生きるにあたっての大きなターニングポイントとなりました。
その後不妊治療を一旦お休みして、非常勤として仕事に復帰することになるのですが、職場の色が場所によって違う分、正社員で働いていた職場では経験できないことを短期間で色々学ぶことができる機会となり、結果として今日開業できると思えるまでの自信をつけさせてもらうことができたように思います。

私の場合ではありますが、不妊治療と仕事の両立が辛くて正社員を辞めてみたら、得たものは子どもではなく「子どもがいてもいなくても、人生それなりに充実して生きられるかもしれない」というささやかな自信や希望でした。

不妊治療に疲れて正直働き方を変えたいと感じていらっしゃる方のなにか参考になれば嬉しいです。

私の経験はあくまで一つのケースですので、正社員の待遇をどうしても守りつつ治療も頑張りたいという気持ちがあるならば、そう感じている期間は辛くても両立したほうが後悔しないのかもしれません。

あなたが譲れないものはなんですか?

余談・後日談:産休・育休を手放してみてどうだったのか

ここからは出産後の話なので、読みたい方は参考になさって下さい。

結局のところ産休・育休なしで出産することになりましたが、それらの制度については、私自身の個人的な見解では「あれば保育園に預ける上では有利になるけれども、なくてもそれほど問題はない」という考えです。
保育認定の制度や近隣の保育園の研究を重ねた結果、保育園に子どもを預けることもでき、再び医療機関などでも心理の仕事をさせていただけることになりました。


最後に

・今後取り上げて欲しいテーマがあればお知らせください。
不妊治療当事者の方(男女問わず)でも、ご家族や職場の方でも結構です。
参考にさせていただきます。
・心理学に関するメディア取材や記事監修も承ります。
(2023年夏ごろ、オトナンサーに心理学に関する執筆記事が掲載予定です。)
ご連絡はtwitterDMもしくはtokyo.anone★gmail.com(スパム対策のため、★を@にかえてください)までご連絡ください。
よろしくお願いいたします。

思い立った時にいつでも・どこでもカウンセリングを受けられます。
臨床心理士によるオンライン不妊カウンセリング
カウンセリングオフィス東京anone

https://tokyo-anone.com/

この記事が参加している募集

#スキしてみて

524,761件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?