「綺麗にしてしまったら戻せない」。荒廃していた元精肉所を偶然見つけ、地域に根ざす本屋に改装
●三田線沿いを散策中、物件と偶然目が合って
東京R不動産サイトに並ぶ、数々の物件。大家さんから掲載依頼があったものや、スタッフが自分たちのネットワークを駆使して見つけてきたものまで、さまざまな経緯を辿って掲載されています。
そんな中、スタッフにとって一際思い入れが強くなるのが「足で見つけた」と呼ばれるもの。すなわち、自分で街を練り歩いて「これはR不動産に載せたら面白そうだ」という物件を実際に発見し、掲載するケースです。
時は2018年。仲介スタッフの緒方は東京R不動産に入社したばかりの頃、「もっと東京に詳しくなりたい」と、休日は知らない街を散策するようにしていたのだそう。その日は、文京区にある「三田線・白山駅」を訪れました。
落ち着いた商店街を歩いていると、なんだかいい雰囲気のワインバーを発見(現在は閉店)。そこを眺めていて、ふと振り返ると...お、おや...?
緒方が振り返った先には、紺色のタイル張りがかっこよく、一方でなんだか怪しげな雰囲気も醸すビルがありました。
「よく見ると、2階には意味のわからないドアがついているな...。その左側の面積がやけに広いのも違和感がある。室内は天井も高そうだし、これはもしかして...」。ビビッときた緒方は、早速そのビルの空室状況を調べ、中を見に行ってみました。
訪れてみると、この物件の正体は「元精肉店」。解体されたのちしばらく人が立ち入っておらず、歩くたびに粉塵が舞うほどに「荒れ果てている」状態でした。
しかし「場所の意外性といい、建物のかっこよさといい、全てピカイチ。東京R不動産を見ている誰かならきっと面白く使ってくれるだろう」と、緒方はこの「足で見つけた物件」をサイトに載せてみることにしました。
●見向きもされなかった物件に、突然問い合わせが続々
東京R不動産に掲載すると、「撮影スタジオにしたい」「お店を開きたい」などの問い合わせが続々と届きました。白山というマイナーな立地を差し置いてでも、物件の魅力に惹きつけられた方が何人もいたのです。
突然の内見状況に驚いていたのは、この物件の管理会社さんや大家さん。なぜならここはあまりの荒廃ぶりに誰にも見向きもされず、2年以上も空室で「どうせ借り手はいないだろう」と半ば諦められていたのです。
そうしていざ東京R不動産のお客さんたちから申込みが入ると、「今でも水道管は使えるのか」「床から飛び出ているガス管をどうするか」といった、貸すための準備に時間がかかることが判明しました。
そんな中、「全部このままでいいです。あとは自分でやるので」と申し込みをくれた頼もしいお客さんがいました。それが「工務店と併設の本屋を開きたい」という中里さんです。
「内見に来たときは、荒廃ぶりに驚きましたよ。でも同時にかっこいいとも思いました。もうこのまま借りちゃって、しゃしゃしゃっと手を加えればいいかなと」(中里さん)
●馴染みのない「白山」での本屋開業
それにしても、白山という馴染みのない土地、回遊客の見込めないエリア、そして2階に上がるまで店が見えないこの物件での開店に、不安はなかったのでしょうか。
「不安は無くもなかったです。でも、本屋としての立地は第一ではなかったんです。普段が『こもる仕事』なぶん、まちに開く空間がほしくて始めた経緯だったので」(中里さん)
さらに中里さんは『双子のライオン堂』という本屋さんが開催していた本屋開業講座を受け、「本屋は専業だと難しくても、兼業ならできそうだ」と、オープンに踏み切ることができました。
●ボロボロだった空間が、本屋になるまで
改装で大変だったところを聞いてみると、面白いことに「綺麗にしてしまうと戻せないから、どこまで手を加えるか悩みました」とのこと。
「手を入れないと汚いし。でもやりすぎるとツルツルになっちゃうし。綺麗にするのは簡単だけど、その加減が難しかったですね」(中里さん)
店内の選書に関しては、建築関係の本がむしろ少数だったのも印象的。主には哲学やジェンダー、地方や植物といった多様なジャンルの本がずらりと並び、建築に馴染みのない人も読書を楽しめる本屋さんになっていました。
中里さんは本屋の開店にあたって、「お客さん本当に来るのかな?」と不安な気持ちも少しあったそう。しかしお客さんが来店してくれる様子を見て「なんでだろう?不思議だ...。とにかく、あ〜よかった」と安堵したと言います。
店を開いておきながら「なんで来てくれたんだろう」と不思議がる中里さんに、私たち取材班も思わず笑ってしまいました。
「開店当初はオープン日も不安定で、やったりやってなかったり。それでもSNSをゼロからコツコツやっていたので、どこかで話題になったのかもしれません。でもやっぱり、本当にお客さんが来てくれるなんて不思議です」(中里さん)
●「根ざす」の重みを知っている本屋
最後に、工務店に併設されているからこそ感じる、本屋への想いをお聞きしてみました。
「工務店の仕事では商業店舗に携わることが多く、日々お店が生まれたり消えたりするのを目の当たりにしています。そんな中で、『地域と一緒にやっていける何か』っていいなあと思うようになりました。まちに根ざす、そして住んでいる人と繋がっていく。そんな本屋でありたいと思っています」(中里さん)
「自分も何度かここに来店しているのですが、毎回お客さんがいて、椅子に腰掛けて読書を楽しまれています。本屋としてこのまちに定着しているんだなと感じますね」(緒方)
中里さんは、本屋に訪れたお客さんと話すことも多いそうで、「お客さんと話すと『こんないい人いるのか』と驚くほど、みなさんいい人ばかり」なのだそう。
開店するとお客さんが来てびっくり。話しかけるといい人でさらにびっくり。そんな中里さんからは、お客さんとの交流を心から楽しんでいる様子が伝わってきました。
長らく誰にも見向きもされてこなかった物件も、しかるべき人の手に渡ることでそのポテンシャルが最大限に生かされ、地域に根ざす店として生まれ変わるのですね。みなさんも開放的な空間でゆっくりと読書をしに、ぜひplateau booksまで足を運んでみてください。
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