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新聞記者、本屋になる 落合博著 光文社新書 2021年9月30日発行

ある書店で本を探していたとき、目にとまったタイトル。
「新聞記者が本屋さん??」

私はいま、図書館司書の資格をとるべく勉強に明け暮れている。
大学の通信教育で1年間とはいえ、アラフィフシングルマザーで働きながら副業しながらなので体力的にキツい。すべてをこなすには、体をいたわりながら、とにかく時間をみつけることにある。

そんな中でも、好きな読書は私の「こころの栄養源」である。
論文をよむことに疲れはて、たまっていた傍らの積読書を手にとった。なんど見てもこのタイトルに惹きつけられる。読み始めると、著者の生き方に深くのめり込んでいった。

著者の落合さんは、新聞社で30年以上、スポーツ関係の記者を続けていた。定年を目前に、ずっとやりたかったことの準備を始めていた。それが本屋さんである。
なぜ本屋さんなのかではなく、本屋を始めた方法を伝えたかったと本書には書かれている。

1995年にWindows95が発売されて以来、インターネットが急速に広まった。その翌年、1996年を境に出版業界は本が売れないという不況におちいる。町の小さな本屋さんも、どんどん廃業に追い込まれていった。

本が売れないといわれ続けていたにも関わらず、落合さんが記者を辞めて本屋を立ち上げたのは2017年4月23日。スペイン発祥の、バラの花と本を贈る「サンジョルディの日」である。

看護師の奥さまの反対を押し切って、物件をさがし、改装し、出版社から届いた本を並べて開店にこぎつけた。なにが驚いたかというと、すべての本を「買い切り」で取り寄せていることである。

一般的に書店は出版社から本を取り寄せるとき、「委託販売制度」というものを利用している。書店で売れなかった本を一定期間内であれば返品できるというシステムである。これをすることにより、在庫をかかえず次々に新しい本を仕入れることができる。例外もあるが大型書店はこのスタイルである。

先ほどの「買い切り」とは、出版社から直接本を仕入れ、書店で販売したあとは返品を認めないことで、Amazonがこのシステムを利用している。書店の取り分は委託販売より良い。ただし返品ができないから、売れ残るのを覚悟で買い取らなくてはならない。

もう一つは、いわゆるベストセラーや文学賞、本屋大賞になっている本をあえて置かないところが面白い。売れていないからといって、つまらない本だとは限らない。大型書店で返品された本の中からセレクトしたものを店頭に並べて、他店にはない本との出会いを提供している。

落合さんが書店を経営するにあたって、本の粗利は薄く、本だけを売っていては厳しい。売上の柱は複数あったほうがいいという。
では、どうするか。

ここで30年以上の記者歴が活きてくる。ライティングの個人レッスン、作家のトークイベント、落語会、短歌教室、演劇、ワークショップなど本当に幅広い。オンラインで参加することもできるが、実際にお店に来てもらうほうが売上につながるという。

図書館学でも、どうすれば図書館に来て資料を利用してもらうことができるかという永遠のテーマがある。本を読むだけのイメージを払拭するために、地域利用者の年齢層や土地柄を調べて、興味のありそうなイベントを開催することが図書館の活性化につながるといわれている。

ただ、落合さんのように本を買いに来てくれるお客さんの趣味嗜好を考え、バラエティーに富んだアイデアを生み出さないかぎり、いつまで経っても同じことを教科書に書き連ねることになるのではないかと危惧している。


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