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あなたの教室 レティシア・コロンバニ著  齋藤可津子訳 早川書房

「インドは世界最大の児童労働市場」

とても美しい表紙だったため、おもわず手に取った。だが、表紙とは裏腹に、彼女たちの生きる世界があまりにも違うことに驚きを隠せなかった。

「インドは世界最大の児童労働市場」。カースト制度により、身分の低い家庭に生まれた子供は、教育を受けることなく幼い頃から働いている。

とくに女の子は男の子より劣るとされていて、カースト制度外という位置付けの「不可触民」の家庭に生まれた場合は不運中の不運である。

社会から排除され、穢れている者として触れられることはない。

「強姦は国民的スポーツ」

日々のニュースにおいて、インドでの強姦事件を見たことがある。ニュースというマス•メディアだと、どうしても遠い国の出来事だと感じてしまう。書籍というフィルターを通すとなぜか現実味を帯びてくるから不思議である。

彼女たちは、社会から排除され、他者から触れられることはなくても、こと「強姦」に関しては別物である。この国では強姦は国民的スポーツであり、加害者が捕まることはなく、起訴もされない。

私たちの国は、法律を守らなければ処罰の対象になる。ルールがあり、それを守る国民がいることで、あらゆる犯罪から身を守ることができる。一方、法律があっても守ろうとせず、罰せられることがなければ、被害者は泣き寝入りをするしかない。

本を読む娘は悪い妻

教育を子どもから取り上げることで、読み書きできず、余計な言葉を覚えることもない。自分の意見をいう機会を失ない、大人の命令をただ聞くだけの人形と化する。

生まれながらにして生きる道は一つに絞られ、教育を受けることもなく、身を粉にして家族のために働くこと。それは身分制度による貧困からくるものだと思っていた。

しかし、そうした国の制度ではなく、その村の昔からの風習が子どもの未来を閉ざしているのだとわかる。生まれてきた時点で、逃れられない自分の運命を、苦い薬のように飲み込んでいるだけだった。

この国に生まれて

最後まで読んで、深い感動と共に、自分の置かれた環境を振り返る。大学まで教育を受け、無事に就職し、おいしいものを食べて眠る。教育を受けたことで、本を読み視野を広げて物事を追究することができる。

もちろん著者が言いたいことは別にあるが、個人的に、そういう毎日が訪れることへの感謝とありがたみを感じずにはいられない。たとえ、未だに男女格差が解消されていなくとも、格差を乗り越えるチャンスは与えられている。

著者と作品

レティシア・コロンバニはフランスの小説家、映画監督で俳優である。2017年のデビュー小説『三つ編み』はフランスで150万部を売り上げた。2019年には、パリに実在する困窮者の保護施設を題材にした女性たちを描いた『彼女たちの部屋』もSNSで話題になる。本作は3作目である。


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