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#248 倉瀬くんはいい奴かもしれない!

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

第十七回は、第十六回の続きから始まります。倉瀬くんは、顔鳥から託された手紙を守山くんに渡します。妓楼で出会った顔鳥が自分の妹の可能性が出てきてビックリの守山くん。そして、先日、母と妹の人探しの広告を再び出すに至った経緯を、倉瀬くんに説明します。その内容を聞いて、いよいよ確信が強まったとみえて、倉瀬くんは、ひとっ走り行って様子を知らせて来ようかと守山くんに問いますが、短刀だけでは証拠が足りないと答えます。その後、守山くんとお常さんと園田さんと小町田くんの関係を倉瀬くんに説明すると、どうやら倉瀬くんはお常さんに会ったことがあるようで、その時、お常さんは、小町田くんと内々で話したそうにしていたというのです。それを聞いて守山くん、ハハアと思い当たるところがあったようで、第十三回で展開された、小町田くんと田の次が密会した場面の舞台裏を語ります。それによると、田の次を不憫がったお常さんが、自分が住んでいる園田さんの別宅に小町田くんを招いて、出し抜けに田の次に逢わせるセッティングをしたというのです。それを聞いて倉瀬くんは「お常さんは悪気でしたわけじゃないだろう」と言いますが、それに対する守山くんの答えは…

守「勿論さうさ。お常は全体情ぶかい性分であるのに、例のシンガアは子供の時から、自分の真実の妹[イモト]のやうに、大層可愛がつて育[ソダテ]たのだから、非常にその苦労をsympathize[シンパサイズ](同感[オモイヤル])して、是非とも小町田にあはしてやらうと、ほんの実意で以てした事だが、底がさいはゆる婦人の仁[ジン]だ。かへつて小町田のためにもならねば、田の次が苦労種もます訳だアネ。」
倉「何故[ナゼ]。いいぢゃアないか。別に不都合はないぢゃアないか、僕が見聞したところに因[ヨ]ると、あの田の次といふ芸妓の如きは、中々ホワイト(しろうとといふ事か。)にもめづらしい女だ。Intellect[インテレクト](知識)も中等以上だし、品行は元来端正だし、殊[コト]に取まはしも温藉[シトヤカ]な方だ。彼[アレ]なら小町田の妻[ワイフ]にしたッて別段不都合はなからうぢゃアないか。僕の考へぢゃア縁を断つといふのが第一わからん。何の必要があつて縁を断つんだ。今までだまされてゐたといふ事か、または先方に不実があるとか、あるひは先方が娼妓であるとか、何とか名誉上に関係があるなら、是非なく縁を切るも当然の訳だが、何もその辺も心配がなけりゃア、断然縁をたつは無用の話だ。随分勅奏[チョクソウ]の官員中にも芸妓を妻[ワイフ]にしてる奴もあるぢゃアないか。総て徳義の標準[スタンダアド]は当時の輿論[ヨロン]で定まるものさ。何もわざわざと西洋[アッチ]の徳義を、東洋[コッチ]へ応用をするにゃア及ばん。それほどシンガアに実意がありゃア、今といふ訳にゃアいくまいけれど、行末[ユクスエ]ワイフにしてしまふがいいやネ。とかく小町田は苦労症だから、些細な褒貶[ホウヘン]を意に介して、怏々鬱々[オウオウウツウツ]としてゐるから、僕ア自烈[ジレツ]たくて笑止でたまらず、已に先達[センダツ]ての晩の如きも、僕が小町田を強誘[ゴウユウ]してネ、田の次を聘[ヨボ]うとまでした位さ。」

なんだか、倉瀬くんが、ちょっとだけいい奴に思えてきました!w

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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