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#020 イギリスでもボロクソです!

ハンフリー・ウィリアム・フリーランド(1814-1892)という男がいました。イギリスの中流階級の家庭に生まれ、オックスフォード大学を卒業し、法廷弁護士の資格を得て、自由党の国会議員となった男です。彼は1862年に王立アジア協会の会員となり、日本の留学生とも交流していました。その中に、イギリス留学生監督として渡英していた中村正直(1832-1891)という男がいました。幕府の廃止によって帰国することになった中村に、フリーランドは餞別として一冊の本をあげました。それは、1859年にジョン・マレー社より出版されたサミュエル・スマイルズ(1812-1904)の『Self-Help』です。

帰国後、『西国立志編』という名で翻訳されたこの本は、和装木版刷り全11冊で刊行され、瞬く間に人気を博し、教科書としても使用され、のちに明治天皇の蔵書にもなる明治最大の啓蒙書となりました!中身は、全13章で構成され、300人以上の欧米人の成功談を集めたものとなっています。

ここから先は、三川智央氏の「『西国立志編』と明治初期の「小説」観(1)(2)」という論文を中心に進めていきたいのですが、まず、三川氏は、『西国立志編』本文中で「小説」という単語が使われている文章を拾い上げます。

「小説」という単語が使われているのは、全部で10箇所、その中で、三川氏は第11章24「稗官小説の害」を取り上げます。

このタイトルを見て、もうわかりますよね?w

当時のイギリスでも、小説は害なんですよ!ww

もう少し具体的に見ていきましょう。

『西国立志編』の第11章24「稗官小説の害」は以下の通りです。

稗官小説は、人の戯笑に供し、その心志を蕩散するものにして、教養の事を穢すこと、これより甚だしきはなし。今世にかくの如き書を著すものありて、時人の好み投ぜんと欲し、卑俗を嫌わず諧謔を避けず、人倫の法を破り、上帝の律[オキテ]を慢[アナド]ること、眞に厭い悪むべきなり。ドーグラス・ジーエルド曰く「人生は端荘厳粛なるものを存せざるべからず。然るに人或いは萬事を以て、戯笑の具と為し、戯文戯画を作り、神明を藝瀆し、一世を病害するものあり。嘆息に堪えず」と云へり。ジョン・スターリングまた曰く「稗官小説、遍く世人を害し、就中心志未だ定まらざる人を害すること、疫病よりも甚し。恰も水を臭壊する悪虫の飲む者を病ましむるに似たり」と云へり。抑も労苦の業を做すもの、暫くその精神を休養せんが為めに、小説を讀まんと欲せば、意義文辭の佳美なるものを擇[エラ]び取るべし。然れどもこれを以て多分の時を費やすは大に不可なり。蓋し小説を讀むこと癖習となるときは、壮旺の情壊、これが為めに麻痺し、健安の心思、これが為に衰耗することなり。怕[オソル]べし。一の快活なる人、嘗てヨークの教大長に向って「我往て悲戯を聴しことなし。その吾が心を費し盡すことを怕れてなり」と云へり。設け作りたる痛ましき談話は、人をして憐愛の心を起さしむれども、これに合[カナエ]る行状に導びかしむること能はず。吾が心に一時情感を受くれども、實事と相ひ干係せざれば、久しき後には消滅して、跡なきに至るべし。たとへば、剛鐡の如し。次第にその本質、刮り去られて、跳返えすことの力を失なうことなり。教大長バットラー曰く「假造の談を聞くは哀憐の行いを習うこと能はず。故にこれを聞くごとに、次第に感動すること薄くなりて、後には頑然無情に至るべきなり」と云へり。

もうね…イギリスでもボロクソですよ!ww

しかも、中村正直は、翻訳するにあたって、「小説は害である」事を強調するために、改ざんまで加えているのですが…

それは、また明日、近代でお会いしましょう!




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