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1等賞の人間が著しく劣勢に立たされるという不条理。世の中、繊細な人間はいつだってハズれクジを引かされる。『デタラメだもの』

1等賞というものは、誰よりも恵まれ優位に立てるもんじゃあないの? という風に信じてきた我が人生。よくよく考えてみると、以前チラッと語った飲食店の券売機同様、1等賞の奴が著しく劣勢に立たされる場面があることに気づいてしまったのだーよ。それはどこかい、と言いますと、トイレのハンドドライヤーだよ。あれこそ1等賞の奴が著しく劣勢に立たされるんだよ。

お手洗いを済ませますわな。で、お手洗いスペースから洗面スペースへ移動しますわな。もちろん現時点で1等賞。で、手を洗うわけです。キレイにキレイに手を洗うわけです。そして、ハンドドライヤーに狙いを定めますわな。送風で完璧に手を乾かしてやろうと企むわけだ。そして、ビショビショの手を少し振り振り、ハンドドライヤーへと到着。手をスポッと差し込む。送風開始。そこでだ、1等賞が劣勢に立たされるわけ。

何かって言うと、お手洗いを済ませた後続のトイレ利用者が洗面スペースへと流れ、手をキレイキレイしたかと思うと、その鋭い眼光をハンドドライヤーへ、否、ハンドドライヤーを快適に利用するこちらの背中へと突き刺してくるわけだ。

「はよ、どけよ」

と言わんばかり。眼光って喋れるんだね。眼光って口が利けるんだね。眼光って人を脅せるんだね。そんなこと言ったからって、ハンドドライヤーだって万能じゃない。数秒で手にまとわりついた滴が乾燥するわけじゃない。ちょっと待ちなさいよお兄さん。そんな哀願も虚しく、鋭い眼光はさらにセリフを変える。

「いつまで使ことんねん」

いやいや。そない言いましたかてお兄さん。いつまでって、もちろん手が乾くまでに決まってるじゃあないの。そんな数秒間の利用で滴が乾くわけないじゃないの。こっちだって完璧に乾燥させようなんて1ミリも思ってまへんがな。ちょっとでも滴が乾けば程度の願望しか持っとりまへんがな。

そしてお兄さんは眼光だけでなく、ついにはハンドドライヤーを利用するワシの方へと一歩を踏み出す。アカン。限界や。圧がすごすぎる。強烈な圧に負け、ところてんの如く押し出された僕は、ハンドドライヤーの利用目的を達成することなく、手に大量の滴を付着させたまま、トイレを後にする。

2等賞のお兄さんは、じっくりねっとり絡みつくようにハンドドライヤーを利用するに決まっている。手がカラッカラに乾き切るまで送風を堪能するに決まっている。2等賞のくせに1等賞をところてんのように押し出し、送風という名の快楽に溺れるに決まっている。理不尽だ。実に理不尽だ。なぜに1等賞が劣勢に立たされにゃならんの。

愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴。

そんなことを考えていると、優位に立つはずの者がさらに劣勢に立たされる場面に遭遇した。それは事前に予約した状態で、混雑した飲食店を訪れるときである。

近頃って、スマートフォンと呼ばれる小型万能機器にアプリケーションと呼ばれる万能道具を備えることによって、店に行かずとも飲食店の予約などができたりする時代。すごい時代よね。便利な時代よね。何だっておうちでゴロンしながらできちゃうわけだものね。

いきなり飲食店を訪れ、混雑でもしていようもんなら、待ち時間を無駄に過ごさねばならず、暇を持て余した結果、非合法な京楽に手を出してしまう可能性だって否定できない。そうなりゃ人生が台無しになってしまう。そういうリスクを軽減するためにも、事前に万能道具を駆使し、飲食店を訪問することを店側に告げ、リザベーションするわけだ。

がはははは。なんて効率的な方法ですこと。自分の番が呼ばれるまで混雑した待合スペースで待つこともなく、ノンストレスで飲食を楽しめるなんて、なんて素敵なこと。胸を躍らせながら指定の時間に狙いを定め飲食店を訪問した僕は、地獄のような仕打ちを受けることになる。それは、万能道具を利用せず、突撃訪問で飲食店を訪れたがために、長時間待たされるはめになった客たちの容赦ない圧力という名の暴力。

事前にリザベーションしているため、指定の時間に足を運ぶ。当然、店に入るや否や、座席へと誘われるわけだ。ところが、待合スペースからは待ち時間にストレスを感じまくっている客たちの視線。

「このガキ、後から来といて、なんでワシら抜かしてケツかるねん」

尖りきった視線はまたも暴言を吐く。いや、視線だけじゃないね。実際に小声でブツクサ呟いている客もいるはずだ。突き刺さりまくる殺意が物語っている。

いやいやお兄さんたち。そない言わはっても、事前に万能道具を駆使したこちらのほうが優位に立つに決まってますやん。世の中そういうルールですもん。店側もそういうルールのもと、小型万能機器に備える万能道具を用意してくださってるんだもん。それを律儀に利用しているほうが、愛社精神ならぬ愛店精神があるってもんじゃないの。それを何よ。殺意を持って睨みつけるなんて。

大量の視線で切り刻まれながら、死ぬほど恐縮して彼ら彼女らの前を通過する。とある客は僕が転ぶようにと足を出す。とある客は僕の足に唾を吐きかける。とある客は僕の一生を強制終了させようとナイフを突き立てる。と、そんな妄想ばかりが脳内を占拠する。思わず僕は心の中でこう呟いた。

「なんか、すみません」

おかしくないだろうか、この仕打ち。優位性を持った奴が圧倒的な劣勢に立たされるのって、おかしくないか。瞬間的にここまで人から嫌われることってあるだろうか。どうせ皆さんと店内ですれ違ったりしても、「順番抜かしたあのクソガキや」と、心の中で吐き捨てられるんだろう。解せぬ解せぬ。

愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴愚痴。

そんな経験を連発した僕は、拗ねた。1等賞になるもんか。優位になんて立つもんか。残り物にこそ福がある。そんな生き方に変えてみた。するとだ、ビュッフェに行けば優位に立った連中に大好物の食材が喰い荒らされ、結局ありつけず。映画館に行けば妙な角度でしかスクリーンが観られない座席へと追いやられ。新幹線では通路に立たされ。ライブ会場ではちょうど柱でステージが見られない位置に立たされるはめに。

残り物に福なんてないじゃあないの。

僕は拗ねた。さらに拗ねた。そうして外界との接触を遮断し、小型万能機器だけを信じ、自宅でゴロンしながら指先だけで世界を操ることに決めた。なんというノンストレス。わざわざ外界に足を運ばずとも、欲しいものも配達してくれるし、電子データで何だって受け取れるじゃあないの。極楽極楽。これぞ待ち望んでいた世界よ。

と思っていた矢先、どうやら小型万能機器が故障したらしく、渋々、外界に足を運ぶはめに。小型万能機器を買い換えるために、カウンターに数名の男女スタッフが並ぶショップを訪れた。

めっちゃ混んでるやん。

まぁ仕方がない。極楽な世界を取り戻すためだ。これくらいのストレスは甘んじて受け入れないと。と思い、受付番号をにゅるりと吐き出す機械に手を伸ばし、小さな紙片を取ろうとしたところ、ド厚かましいおっちゃんが横から手を突き出し、先に紙片を奪い取った。

おるねんおるねん。こういうガサツな奴。まぁ怒っても仕方がない。ゆっくり待ってあげようじゃあないの。そう思い、待合の座席に座っていると、ド厚かましいそのおっちゃん、強烈なクレーマーだったらしく、スタッフ総出でおっちゃんの対応にかかってしまった。不条理に吠えまくるおっちゃん。宥める総出のスタッフ。待たされる僕。小さな紙片を見つめ思わずため息をつく。はぁ、日が暮れてしまいそうだよ。

デタラメだもの。

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