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NYのトップモードから最も遠い存在

今回のテーマ:ファッション

by らうす・こんぶ


私は長年、雑誌などのライターの仕事をしていたが、女性誌の仕事はほとんどして来なかった。ファッション、コスメ、グルメなどの女性誌ネタにことごとく疎かったからだ。

で、今回のテーマはファッションということで、また正攻法のエッセイはかけそうにない。トホホ。

これまでにも、ここではない私がひとりでやっているnote (https://note.com/rausu999) にはしばしば書いてきたが、ニューヨークに行ったばかりの頃の私の服は、ほぼ全て古着屋で調達したものだった。ヴィンテージものとかブランド物の古着、などではない、ただの「古着」である。

ニューヨークにはスリフトショップと言われるリサイクルショップがあって、そこでは服、靴、バッグ、アクセサリーなどから家具、食器、レコードに至るまで何でもかんでも売っていた。いらなくなったものを買い取るのではなくただで提供された物を売る店なので、そこに並んでいる服はドライクリーニングどころか、洗ってさえないようなものがほとんど。店の中にはもわっと人の体臭が立ち込めていた。

そんな中から着られそうな服を選んで買う。もちろん安い。Tシャツならせいぜい5ドル。1ドルで買ったこともある。パンツ、セーターなども15ドルもあれば買えた。そして、持ち帰って洗濯してから着るのだ。

コロナ禍の前くらいまで、ワシントンスクエアの近くによく行く古着屋があった。そこでの一番高い買い物は20ドルのダウンジャケットだった。と言っても、多分中身は高いダウンじゃなくてフェザーだろうと思う。それでも人気ブランドの製品だし、色もスタイルも可愛いし、冬物のジャケットが20ドルなんて買わない手はない。

ダウンジャケットなのでクリーニング店に持って行ったら、ドライクリーニング代は40ドルだと言われた。20ドルのジャケットに40ドルのドライクリーニング代をかけるのはばかばかしいし、それ以上に当時の私に40ドルは大金だったので、無謀にもクリーニングには出さずに自分で洗うことにした。

ちょうどその頃、ニューヨークのコミュニティ紙の取材で、ニューヨークのドライクリーニング店の人にダウンジャケットを自分で洗う方法を聞いた(よくこんな図々しい企画を立てたものです、私じゃないよ)ところだった。それによると、ダウンジャケットをふんわり仕上げるコツは、洗濯機で洗った後、それをスニーカーと一緒に乾燥機に入れて乾かすのだそうだ。スニーカーがドラム式の乾燥機の中でドタンバタンとジャケットを叩くので、それでダウンが均等に広がってふんわり仕上がるのだと。

でも、私には乾燥機の中にスニーカーを入れるなんて野蛮な真似はできなかった。音がうるさいし、ランドリーの人に文句を言われるに決まっている。それで、ランドリーで洗濯だけして、川に落ちてびしょ濡れになったマルチーズみたいに哀れなぺっちゃんこ姿になったダウンジャケットをアパートに持ち帰って、少し干してはモップの柄か何かでバシンバシンと叩いてみたが、中のフェザーが団子になっているので、それを指で細かくバラすようにしては干し、またバシンバシンを叩いては干して……という根気のいる作業を繰り返して、やっと着られるような状態に仕上げた。

このジャケットはすごく気に入っていたので5シーズンくらい着た。ということは、私はこの手作業のクリーニング作業を5、6回行ったことになる。我ながらよくやったなあと思うが、それ以上に、このジャケットは5、6回も私の虐待によく耐え抜いたものだ。古着屋で安くは買ったけれど、元々物はよかったということだろう。

いつごろだったか、ニューヨークにユニクロが進出してきた。それ以来、私の古着屋詣でもめっきり減った。60ドルも出せば上等じゃなくても冬物のジャケットが買えるようになり、私のクロゼットにも古着より新品の割合が増えて行った。

とはいえ、古着から卒業してユニクロに移行しただけ。こんな私にファッションを語れと言われましても〜。



らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote: 

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