時の旅人

気の赴くままに詩を書いたり、それを歌にのせたりしています。 芸術にはその本分に、まどか…

時の旅人

気の赴くままに詩を書いたり、それを歌にのせたりしています。 芸術にはその本分に、まどかなものを建設する治癒力があります。 そういう性質の詩も並べていけたら。

最近の記事

詩|夏の風

心が、いつまで僕として生きているのか、わからない きっと命よりも先に、薄らいでいく 僕であるうちに 見えて動けるうちに その力で 厳かな幸いの元を 生み出して増やしていく いつか、終わりが来る前に 所詮、一人で生きるもの その果も、依るべも、己の中に 描きたいのは 当たり前の、そよぐ風のような優しさ 厳かな、それでいて飾らない強さ 誰かの後日の澄んだ心の種 岩に風が吹いて  半ば染み入り  半ば通り抜けて 岩の言葉を誘いだす 蟻が木の根の上を一列にいく 確かなものは 

    • 日常

      お互いに情の体当たり ぶつかり合うように けれど柔らかく 至近距離 直接に繋がる中で 足りないところを 微かな不安のように 感じ取っては埋め 楽しいところをもっと増やそうと、 あれこれ (言葉よりも大きな理性で) 考えている 揺れ動き不安定に形を変える 言葉の前のなにかのかたまりが 互い良いほうへ赴くように なにかを酌み交わし 笑い合う

      • 詩|座

        体が荒れていると その声で心も荒れる この場所にある静寂を 此の身に映し取ってみよ 近くにあるべき美がある  日差しがつくる影の模様が 白砂に描くのは 永久のもつ静寂の影  真を寸分違わぬ さわやかで 厳かな 優しいものの影 ただ調える力に満ちた 力あるものの姿 降り注ぐ日差しの筋の中に この空気の分子のきらめきの中に 遥かなときの音が響き、 目の前の空気の中に今が増える。 こんなにもたくさんの今の連続を ひとは見逃していないか 今を見つける事は、今に収まる事

        • 詩|夏の呼吸

          夏には夏の呼吸があって それがなんとも心地良くて エアコンの風がなくてよかったなと思う この熱のある風が 鼻腔や、瞳や、ほほを撫でて 胸に尖っていたものがあれば、平らにし 肩肘はらぬ力を置いてゆく それは、とても嬉しい力 すべての一瞬の中に 緑や花の、異なる香りが混ざり合い そのたび、心に新鮮な命が宿る そうして、また、快活なまなこが開く 夏の風が、あたりを流れて 木影は揺れながら、心をくすぐる 鳥が頭の上で、なにか話している 虫が間違って、木の幹に当たって落

          詩|春の歌

          紫のやわらかな花が開き 蜂が近づき、また離れ, 風と遊んでいる。  日差しが暖かに 緑の絨毯に降り注ぎ 梢は影で最高の模様を染める。 ただひとすじのこの光の中に 悠久の時の記憶がある。 梢を揺らす、風の音の中に 幾重にも塗り重ねられた、今がある。 それは結局この最高に美しい庭と 引き比べても決して遜色のない今である。 そんな今に立ち戻らせるために こうやってきれいなもので 美しい命の色で 世界を染めようとするのかもしれない。 ちょうど入り口を作るように 僕らの心を

          詩|春の歌

          詩|再会

          すべてが陽のもの 菌を弾く皮膚のように すべての悪い趣向の運命を 招かずにいられる 身体の中に 綺麗な水と 綺麗な食べ物と 綺麗な思いで 招かれたものが 澄んだものが 遊んでいる そのままでいてほしい たとえこの先に 交わる人々のなかに 澄んでいない思いと 澄んでいない身体と それによる歪な定めを 持つ人がいても きみは その,綺麗なものをもっていろ カタチもなく 誰も誉めず 金にもならず 言葉にもされない そういうものだとしても ぼくは ぼくだけは それを見

          モネの絵

          モネは音を描いている 空気の遠近のなかにあるものを 僕らは感じていて それも描いている 潮騒の中の遠近も感じていて それも描いている 空気に光の礫が煌めいて その眩しさも描いている それが当たり前すぎたころは気づかなかったが その贈りものを知った今は 彼の見て描いたものが見える 光も熱も音も印象にうつる その印象をかけば写真ではないが 写真よりも写実である そんな作品だと 絵を見上げて考えた

          詩|夜、寒の戻りの春

          夜の川、街の明かり 岸辺の草花と、水の匂い 外の静寂に佇めば 内の静寂もかさを増す     大きな一塊りの 泰然として動かないもの 小さな静寂であっても 集まって形になるものは 既に動じず安心できるこころの 模写なのだ 静かな夜の川がゆく 何を得ているともわからず とくに詩も生まれない 諦めて引きかえす帰りみち バスが轟音を運んで 静寂を破る 同時に、描かれつつあった 広くて大きな領域が すこしだけ欠けて 形を見せた 揺れ動いた拍子に 風景に隠れていた物が 浮き

          詩|夜、寒の戻りの春

          詩|茶室

          雑多な人や物の 気配から程よく隔絶をされ ただそこにいることが 密になる時間 明る過ぎず 暗過ぎず 正しいものへ 思いを巡らせることができる 水の音も 障子紙にうつって、揺れる葉の影も 尖ったものを除いて 身体の中の、正しい明るさを 明る過ぎず じめっともせず ただ休息の中に強いような 趣味のいい力を 本当の善に近い力を 既にそこにあることで 招き込むように 人を染める 影の間をうめる陽の力 光を抑える影の色 水の流れる音、 木々の微かな音 かすかな鳥や人の気配

          詩|猫の口

          ほら、夜空にチェシャ猫が笑うよう 黄色くひかる口で ニンマリわらってる 楽しいね この世界は 苦労してる人々もいる たくさんの苦しみ けれど空には ニンマリ、黄色い口 一歩、下がって見てみたら 意外に、清々しいんじゃない? あんなふうに 世界を笑えるんじゃない? 正しさなんか 義務なんか せまくるしいね 世界はもっと広くて いろもゆたかで そんな見落とした数々を 楽しんでご覧よ あの宙に浮かんだ 口のように 詰まんないものに しばられず 無駄なものたくさんもっ

          詩|猫の口

          詩|伸縮する命

          命は平面ではない 命は縦横無尽だ  空間に満ちる いのちを平面に集めるな 広い視野 音でも光でも触覚でも 広い角度が見えること それすなわち 広い角度が見える心を 生きていること ある母親が 3歳くらいの子供に 携帯を見せている 電車のなかで

          詩|伸縮する命

          詩|ある対話

          大きなひとと会った 身長は180センチくらい 体重は100キロは超えそうだ でもどこか、角ばって不安定な存在感 繕ってなにかを守っている これで何度目かの、同じような人種との出会い あなたは、日本のことが知りたいのだろう? ある満たされた、西洋にない、 孤独と隔絶した、ある理性をしりたいのだろう 西から来たあなたに、どう伝えればよいか、 考えているところだ あなたは、どんな人だろう。 あまりに輪郭がはっきりしている。 己でこんなひとだと、定めすぎる ひとえに、言

          詩|ある対話

          詩|川と太鼓

          木々の情緒 冬枯れの木でさえも それを心に写し取るとき 僕を前より、少しだけ優しくする 川の上空を、隊列を乱しながら鳥が舞う 川向こうから太鼓の音がする 冷たい風が川面に踊り この曇天すらも 僕の精神を健やかに変える 人の心は自然と対峙する中で あるべき美しい形を 見いだせる 心の在処を知っていますか 出来上がったものではなくて 生まれてくる因果を知っていますか なんでもない石の手触りでさえも 心をひとつ深くする 世界の実在を離れるな 貴方であり続けるのならば

          詩|川と太鼓

          詩|語られるもの

          ただ通り過ぎようとした橋の上で 濃密な水の香りがした 天然の一片でありたいという思いが じわじわと生まれた 水の滴が作り出す無数の音も 水辺の鼻にまとわりつく匂いも ぼくの薄劣な平坦さを嗤っている けれども川の中の詩人の声が つぶさに聞こえるほどには そのお喋りは近くもなく 駅へ向かう橋の上をただ通り過ぎた 聞こうとするときに 話してくれるとは限らない ただ唐突に その声に ふと気がついて そのときの 近いか遠いか  (向こうの中身とぼくの中身の) その間合いに

          詩|語られるもの

          詩|無風

          ヤジロベーみたいに 全体が微妙な調和の上に 小さな点の上に乗っている 静かに目を瞑って 小さな息をしている 力で留まるわけでなく けれど上手に調和している 数多くのキセキが集まって    ここに結晶したのだろう 愛をくれた人の形    命の新しい純な勢い そして何をも破らぬ ハリのある静寂の力 少しずつ深く眠りに落ちて 風も吹かぬような静けさを纏い 君は眠りの世界へ赴いていく 全ての活動をやめて 却って表に現れる 心身の理想形 手を伸ばしても 伸ばさなくても

          詩|残香

          秋の入り口 暮れ始める頃  夏の最後の陽気が作り出す 植物たちの濃い香りに包まれる 一瞬の偶然 美味しい空気のなかに 子供の昔から知っている 1番健康な情が、遊び始める 言葉で表そうと 向きあった瞬間に 味の大半が 居場所を失くす だから言葉は選ばない 丸ごと味わえば、言葉も溢れる 選ばれた言葉ではなく 全体の上に貼られた ラベルのように 記号の本質は いつでも、その後ろの 表も内も豊かに調和している まきれもない、一つの印象なんだ 少し弱くなった日差しが