見出し画像

詩|語られるもの

ただ通り過ぎようとした橋の上で
濃密な水の香りがした

天然の一片でありたいという思いが
じわじわと生まれた

水の滴が作り出す無数の音も
水辺の鼻にまとわりつく匂いも
ぼくの薄劣な平坦さを嗤っている

けれども川の中の詩人の声が
つぶさに聞こえるほどには
そのお喋りは近くもなく

駅へ向かう橋の上をただ通り過ぎた

聞こうとするときに
話してくれるとは限らない

ただ唐突に その声に
ふと気がついて

そのときの
近いか遠いか 
(向こうの中身とぼくの中身の)
その間合いに応じた分だけ

夜空の暗黙や
木々や川から個々に、
あるいは白色音のような、まぜこぜの音が

ぼくに語らう声がある

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?