Vol.3 コミュニケーションツールの回帰
**前回のあらすじ*******
そんなこんなで自身の身に着けた知識を元手に細々と作成したあくまで趣味の「ホームページ」が私の人生を大きく変化させ。ある日突然舞い込んだ一通のメールが私を東京へと連れだしたのである。そして辿り着いた先はビットバレー。今となっては懐かしいその呼び名が熱く燃えていた時代、その燃え盛る温度にもいまいちピンと来ていないような地方都市出身の若者は、そのまま故郷を離れ長い時間を大都会で過ごすことになるのである。田町と田端の区別がつかないまま。
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「インターネットは回帰している」
そんなフレーズが頭の中で繰り返されるようになったのは、ついこの間のことです。
その大きなきっかけは、ある大手EC企業が始めたとあるサービスを知った時でした。
その内容についてはまたあらためて記すことになります。
ただそれ以前から、いくつかそう考えるきっかけは存在していました。
たとえばネット上でのコミュニケーション手段の変化や、それに対するユーザのスタンスがそれです。
2016年現在、プライベートからの視点であっても、ビジネスからの視点であってもSNSの存在の重要性を認めない人はいないでしょう。
特に東日本で大きな震災が起きて以降、遠く離れた知人とのコミュニケーションが取れる手段であり、また知らない人に対しても自身の身に起きていることを広く告知できる手段としてのその有用性は広く認知されるようになったと思います。
もしネット上のコミュニケーション手段が2000年の時代のままで止まっていたなら、今年4月に起きた熊本での震災においても大混乱が起きていたでしょう。
BBS、e-mail。
それがすべてだったあの時代、私たちは自分の手元に届く情報のフィルタリングを今ほど厳密に行っていませんでした。
「はじめまして!」で始まり、「よろしくお願いします!」で終わる書き込みやメールなんて、今では見向きもしないことでしょう。
しかしあの時代は違いました。
リアルな世界でしか新しく友達と出会うことはないと思い込んでいた私たちは、インターネットという手段を手に入れた途端広がった世界の可能性に無邪気でした。
知らない人と知り合える。
遠く離れた街に住む人と知り合える。
言葉の壁を越えれば、国外の人とだって知り合える。
そんな嬉しさから、身元もよくわからない人から届くメールにわくわくし、ブックマークしたホームページを毎日巡回して、会ったこともない人たちとBBS上でコミュニケーションを取っていたのです。
もちろんそれ以前にも手紙という手段はありました。ペンフレンドなんて言葉も懐かしいですね。
しかしインターネットの凄いところは、リアルタイムコミュニケーションだったことです。
当時関西に住んでいた私は、あるホームページのBBSでやりとりをするようになった友人ができました。
しかも、その友人の住む街は、はるか離れた北海道。
しかし二人は毎日のようにお互いの日常を伝えあうことができました。
それこそがインターネットの醍醐味でした。
ちなみに私はいまだに人生の中で、北海道を訪れた経験がありません。
しかし北の大地には友達がいるのです。
インターネットをコミュニケーションツールとして見たとき、その登場は、人類が初めて砂糖の精製に成功したことにも匹敵するほどの大きな革命でした。
人は目の前に美味しそうなお菓子があると、それを食べたいという欲求にかられます。
そして最初は純粋にその甘さに酔い痴れます。
ただその感激がいつまでも純粋なままに続く人ばかりではありません。
何度かその味を味わって、たしかにこれは美味しいものだと確信を持ったとき、そのお菓子を売ることを考える人が出てきます。
こんなに美味しいのだから、これを食べるためにお金を払う人がいるだろうと考えるのは自然なことです。
しかしその販売方法すべてが清廉潔白だとは保証できません。
なぜならば、利益は多いほうがいいからです。
金儲けだけが目的になった人の中には、買う人の幸せを押しのけてでも自身の利益を増やそうとする人が出てくるのが世の常です。
インターネットを使った詐欺、山のように届くスパムメール、BBSに書き込まれる業者の宣伝書き込み。
カキコなんて言葉も懐かしいですね。
そしてそれらが本来の利便性を覆い隠してしまったとき、不特定多数の相手とコミュニケーションを取れることを武器に爆発的に普及したBBS、e-mailというツールはここで一旦、主役の舞台を降りることになりました。
ただそれには、もうひとつの大きなきっかけがあります。
そのかわりになるものが誕生したのです。
人は一度知った甘い味わいを忘れることはできません。
もし代わりになるものがなければ、多少の不便に目をつむってでも、私たちは今でもBBSやe-mailを主役として使い続けていたでしょう。
しかしもっと美味しい新しいお菓子が現れました。
それこそが今、ネット上のコミュニケーション手段として主流のSNSです。
さてそれではなぜSNSは美味しいのかを考えてみましょう。
それこそがインターネットが原点回帰しているという話の答になるからです。
私たちはそのSNSを使って、誰とコミュニケーションを取っているでしょうか。
それは知人です。
学生時代の友人、職場の仲間、近所の人たち、仕事で知り合った相手。
SNS上で「繋がる」相手は、リアルな世界でも面識のある人たちなのです。
そもそもインターネットというものが登場する以前、私たちには知らない人と連絡を取る手段などありませんでした。
何のつながりもない相手とは、たとえおなじ街で生まれ育っても、コミュニケーションを取る機会などなかったのです。
その壁を崩したのがインターネットでした。
その最初の手段がe-mailやBBSでした。
そのツールを悪用することに人類が気づいた結果、生まれたのがSNSです。
「私は誰です」
まず自身のプロフィールを明らかにして、さらに相手が誰なのかを確認したうえでつながっていくツールこそがSNSなのです。
知らない人と出会いを広げることを主目的にしたものではないのです。
2016年現在、SNSのアカウントを持っていないという人は少ないでしょう。
皆さんはまったく何の面識もなく、自分の友達の友達でもない人から届く「友達リクエスト」をどうしていますか?
無視ですよね。
インターネット登場以前もそうでした。
街で突然知らない人に「友達になってください」といわれたら、どうでしたか。
基本的にはまず警戒したでしょう。
むしろそういうケースでも誰とでも友達になりました、という人はちょっとどうかと思います。
つまり自身のプロフィールを登録し、友人関係を公開したうえで友達を増やしていくSNSでの行動は、インターネットというツールがあってこそなのに、インターネット登場以前の価値観の上に成り立っているのです。
「知らない人についてっちゃいけません」
子どもの頃いわれた言葉を思い出させるではありませんか。
インターネットは回帰している。
少なくともコミュニケーションツールとしてのインターネットは、IT以前の時代に回帰した価値観を取り入れることで、成熟したといえるのではないでしょうか。
ちなみに最後に付け加えておくと、BBSで知り合った北海道の友人とは、初めてネット上でやりとりをしてから実に10数年の時を経た2014年、初めて東京で会うことができました。
これはあの無防備にインターネットにのめり込んだ時代の、大いなる遺産だと思います。
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