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猛暑の新潟湯治②【素晴らしき五十沢源泉~弥彦へ】

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 五十沢いかざわ温泉の源泉は、元々は井戸水の確保のために掘り当てたものだという。日本有数の豪雪地帯である魚沼地区、公道の中央には消雪パイプが地中を這っている。降雪時には温水を流し路面の凍結を防止する。

 ゆもとかん旧館の駐車場の一角、カラーコーンで4隅を固定された鉄板。
この下から滔々と、超が付くほどの美肌源泉が揚がっている。一体前世でどれほど徳を積めば、家の敷地からこれほど良質な源泉が噴き出すのだろうか。

 宿の浴室は極めて小さく、晴れた日は斜光を弾くように湯面が輝いている。化粧水の様なph9.4のアルカリ性単純泉はたまご臭を帯び、肌の表層がグングンと磨きがかかるようだ。
 高温である故、長湯が出来ないのが玉に瑕。猛暑であるこの時期、10分程でサッと湯浴みを切り上げ頭から冷水シャワーを被る。 

 到着日の魚沼においても、日中の暑さは都内とさほど変わらない程だった。だが陽が沈んだ後は涼やかな山風が吹き、窓を開け扇風機を回せばほとんど不快指数を感じなかった。
 持病の激痛から重度の不眠症を患って長く、毎日の睡眠時間は3時間程度、この日は4時間は寝ていた。

 
 翌朝

 野猿が出るほど穏やかなこの地。リハビリのため6時から散歩を始め、芒洋な田圃を歩いて川を目指す。三国川の橋梁に立ちボーっと山を見渡し、暫くして宿へと戻る。近所に住んでいるという女将さんが玄関にいた。
 

私  「おはようございます。9時頃に発つ予定です」
女将 「そうですか。今日も暑くなりそうよ」

私  「この辺でお米買うならどこかよいですかね?これから暫く自炊湯治だから」
女将 「弥彦の米が美味しいよ」
私  「あれれ?魚沼じゃないの??」

 一瞬戸惑った。ここは日本一の米処南魚沼、特A評価「コシヒカリ」ブランドの総本山だ。石打塩沢や六日町に出れば米屋はいくらでもあり、私はその中で安くて良質な米を窺ったつもりだった。

女将 「弥彦の直売所があるんだけど、そこの米が美味しい」
私  「へえ、女将さんが言うんだったらそうなんでしょうね」
女将 「おにぎりと豚汁のセットがあって、400円あればお釣りがくるの。具はなくて、藻塩が振ってあるだけなんだけど」
私  「ここからは下道で阿賀野まで上がるから、寄ってみようかな」
 

 こちらの女将さん、自宅の裏に田圃を持っており米を育てている。外には出しておらず、1年をかけて自分で全て消費する程度を作っているそうだ。
 しかも田植えから口に入るその瞬間まで一切農薬を使わず、虫の駆除も全て手で対応しているという徹底ぶり。専業の農家でも、ここまで拘っている方はそこまで多くないだろう。

 
 言下に「弥彦」と答えた女将さん。食指が動き、私は阿賀野の出湯でゆ温泉に向かう途中、多少迂回はするが弥彦を経由することにした。

 朝風呂を経て午前9時。この日は朝食を取らず、宿を出ることにした。無論、おにぎりに備え腹を空けておくためだ。

私  「では行きますね。雷電様で湧水を汲んでから、弥彦に向かってみます」
女将 「そうですか、ではお気をつけて」
私  「熱中症気を付けて下さいね。団扇だけじゃ大変。水分沢山摂ってください」
女将 「そうだね。じゃあ、今度は新米の頃にでも」

 
 表まで見送りに来た女将さん。私は車から手を振りゆっくりと走り始めた。田圃道を数百メートル、最初の交差点で停止しバックミラーを確認。女将さんはまだ宿の駐車場に立っていた。

 
 「見送りなんかしなくていいのに」

 小さくて鄙びた3千円台の宿。きっとまた、私はここにふらりとやって来るだろう。次回は弥彦のおにぎりの感想から、だらだらと話をしようかな。

つづく

                           令和4年7月13日

岩の間に綿あめ状に湯花が付着している
岩風呂 日帰りは11時~
裏から見たゆもとかん旧館
6畳間二間の部屋 前回は24畳の部屋だった
何故かテレビのリモコンが二つある
純和室 中は綺麗です 鍵はかかりません
この道を通って帰って行く

写真撮影、ブログ掲載につきましても許可をいただいております

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