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湯治場で、年を越す②【飯坂~鳴子へ】

<前回はこちら>

 飯坂での投宿は「伊勢屋」へ。
特にあてがなかったが、以前奥会津を湯巡りした際に利用した「宮下温泉 ふるさと荘」が同経営者だっとことを思い出した。

 今年7月にリニューアルオープンした「ふるさと荘」。
会津若松から小出へ抜ける道中、じゃらんで一人泊が可能な宿を検索し辿り着いた。そもそも選択肢がなく大した期待をしていなかったが、良い意味で期待を裏切られた。
 
 母屋のすぐ横に湯小屋があり、濃厚な褐色源泉がかけ流しで配湯されていた。民宿風で良心的な値段、フロントのおじさんも親切な方だった。
館内にはテレサテンの曲が永遠と流れており、理由を問うと「彼女が下積み時代に宿泊したから」との快答。

 その後もフロントで暫く対座。施設自体は町の所有物で、指定管理で伊勢屋が内側の運営をしていると伺った。意外とこんな些事を覚えており、縁が生まれたりするものだ。

 伊勢屋は想像以上に巨大な旅館だった。舞台付きの宴会場や、コンサート会場まで備えているほど。調べると現経営者の手に渡るまで、68年に渡り営業していた老舗旅館だったそうな。

 趣のあるロビー。何故か広末涼子の等身大パネルが置いてある。

 「話すケータイから、使うケータイへ。」
懐かしきiモードの広告だ。宿と何の関係があるのかは結局分からず。


 部屋は一人泊には十分な広さで、縁側にテーブルと四脚椅子があった。
到着後はここで数時間業務をこなす。典型的な駅前温泉街なので、夕食はノーアイデアで食事処を探しに出た。

 歩いて数分。目に飛び込んで来たのは某有名餃子店。円盤餃子の元祖であり、食べログ百名店の常連だ。土日には行列が出来るほどの人気店だという。

 平日の18時、開店直後とあって店内は誰もいない。
駅前にある場末感漂う定食屋でもよかったが、明日から自炊生活が中心となるためこちらに入店してみることに。着席の後に知ったのだが、この店にはライスがない。餃子でご飯を掻き込むつもりだったので少々肩透かし。

 素養の問題だろうか、、私にはこちらの円盤餃子(一人前1,200円、半人前を注文)の旨さがあまり分からず。地元企業の雄「餃子の満州」のダブル餃子定食(650円)の方が胃も舌も満たされるようだ。

 
 伊勢屋に戻ると宿の湯へ。敷地内に自家源泉を保有するこの旅館。大浴場にはかけ流し循環併用の高温源泉が注がれ、こちらもビリビリとくる。共同浴場では感じられなかった石膏臭を僅かながら捉えた。

 翌朝。宿からほど近い八幡神社を参拝。いつものように平癒祈願し立礼。少々身体が冷えたところで、共同浴場「八幡湯」へ行った。

 平屋コンクリ造りのこの浴場。入口には何故か枯山水のように松の木が一本。石碑も横に並んでおり、素朴な共同浴場でありながら格式を感じさせる。

 場内はタイル敷で割と広く、楕円形の7~8人サイズの浴槽が中央に。
T字型の配管から二方向で源泉が落ち、縁からタイルを舐めるように湯がオーバーフロー。共同湯好きには堪らない造りだ。


 地元民が3名おり、加水用ホースから水が差されていて45度程度になっていた。熱さを耐え5分程浸かっていると、一人の好々爺から声を掛けられた。地方の共同湯ではよくあることだが、少々訛っている上に声が籠りほとんど何を言っているか聞き取れない。

 
 失礼を顧みず何度か反問すると、「熱いのによく入っているね」と仰せ。この2年間、疫病拡大により浴場での会話は禁じられ、外来者は断られることも多かった。予断を許さない状況は続くが、このような交流が浴場での愉しみであることは間違いないだろう。

 
 9時過ぎに宿をチェックアウトし、鳴子温泉へと向かう。
数年ぶりに訪れた飯坂は、愛おしき共同湯が残る素晴らしい温泉街だった。バブル期のような栄華栄耀を取り戻すのは難しいだろうが、この文化は悠久であってほしい。


 温泉街からほど近い高速入口へ、一気に仙台を超え大崎に入った。
数日前に降雪があったと聞いたが、積もるほどではなかったようだ。遠く山形方面に見える山には冠雪が見られた。

 
 鳴子駅前に到着し、まずは定石通り温泉神社の参拝。
共同浴場「滝の湯」横の階段を上り本殿へ。伽藍は小さいが、周囲を見渡すと何本か湯煙が上がっているのが見える。ごれぞ温泉神社。
 
 五円を投金し、ここでも平癒祈願。

 「宜しくお願い致します」

 これから2週間この地に滞在し、新年をここで迎える。改めて気が引き締まる思いだ。入植の儀を済ませたのは、予定より少し早い12時前だった。

 滞在先の高東旅館チェックインまであと1時間。自炊生活が待っているため、近くのドラッグストア「薬王堂」に食材を買いに行く。

 
                          令和3年12月25日

飯坂温泉 伊勢屋
鳴子温泉神社 湯煙が上がる
本殿
伊勢屋ロビーにて

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