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“ 年上のお友達 ”が教えてくれたこと


ふた周りほど年上の、私のお友だちの話です。

その人を思い出すと、真っ先に
たんぽぽみたいな笑顔が浮かびます。
丸いショートカットにくっきりな二重、
親しみやすい雰囲気で、
くりぃむ色が似合うその方は
「文代さん」といいます。

便箋を探しに
地元の工芸品でもある和紙を求め、
和紙屋さんを訪ねたときのこと。

紙漉き機や大釜のある工房に並んで
古民家を改装した店舗がありました。


中には葉書や便箋だけでなく、
名刺に冊子、掛け絵や
のれんほどの大きさをした和紙まで
揃えてあります。
紙そのものに厚みの緩急を持たせ
模様を作り出しているため
窓辺に掛けられた大きな和紙は
外の光に、濃淡の絵を美しく
浮かび上がらせていました。


私は、紅いもみじがき込まれた紙を
手に取りました。

「父と母に手紙を書こうと思っているんです。
このもみじ、とても綺麗、、。」

思わず店員さんに話しかけました。

「これも裏にある山で採れたものなんです。
自然の赤みなんですよ。一つ一つ作るので
そっくり同じ柄のものはふたつとありません。
それにしてもご両親へお手紙、素敵ですね。
私の息子にも教えてやりたいくらいです。」


包みを受け取り、
和やかな空気のなか
その日はお店を後にしました。

「あの和紙、こういう風にアレンジしたんです。
父も母も、嬉しそうに受け取ってくれました。
素敵な和紙を、ありがとうございました。」

図々しいかなと思ったものの、
またお店に寄って
あの店員さんにそう伝えました。
和紙をあしらって作った
メッセージカードの写真を見せると、
驚いたように喜んでくれて。
来てよかったと、こちらまで嬉しくなりました。


それから
何度かお邪魔してお話をするうちに
距離が縮まり、
相談ごとまで聞いてもらうように。

「こんな素敵なものをつくっているって、
やっぱりすごいです、文代さん。
今の私には何も無いから、、
羨ましい。
時々、仕事をしながら
何してるんだろう自分って思うんです。
誰かを楽しい気持ちにしたり、
やさしい気持ちにしたり、
本当は私、そういうことがしたいのに。
ただ、漠然としているから
思い切りもつかなくて、、」


そう打ち明けると、文代さんは

「私ね、結婚した時は
ごく普通のサラリーマンのお嫁さんだったの。
この仕事をするなんて
これっぽっちも思っていなかったのよ。
あの人、急に家業を継ぐって言い出して、
仕事を辞めてきてしまってね。
私は和紙の作り方なんて分からないし、
それでもやるしかないし、とにかく戸惑ったわ。

それからはねぇ、、本当に色んなことがあった。
明日のおかずを買う余裕もなくて、
必死に和紙を売って回って。
まだまだ足りないから
冬には干し柿を作って売ったりね。

私もまだ若かったから
もうだめだと逃げ出したこともあって、、
周りの人がみんな敵みたいに見えていたの。
あの頃は、、、本当に、、」


しだいに潤んでいく目を見つめながら、
私は静かに言葉を待ちました。
文代さんはところどころ呼吸を置いて、
溢れそうになる気持ちを整理しながら
話をしてくれます。

「でもそうして日々を重ねていくうち、
少しずつこの和紙のことを
知ってもらえるようになって、私も徐々に
作業や環境に慣れてきて。
何より、周りの人たちは
自分の味方だったんだと分かったの。
皆に支えられて生きているんだなあって。
苦労はあったけど、これもひとつの人生かなって
思えるようになってね。

綺麗なものを作る仕事だから
いいなって、そう言って下さる方もいるけど
いろいろ・・・・、よ。」


「羨ましい」という言葉を
簡単に言ってしまった自分に反省しながら、
文代さんの、
迷い、苦心しながらも
懸命に乗り越えた月日のことを
想いました。

「私がそうでなかった分、
思いを託すみたいであれだけどね。
もし、少しでも心が向く方があるんだったら
ぜひそっちへ進んでほしいな。
あんなに素敵なメッセージカードを
作れるんだもの!可能性はいっぱいよ!

まだ確かなものを掴めない時は
ちょっと外に出て、何かを見たり聞いたりする、
そんなことからでいいのよ。
いつ何に出会うか分からないのが人生だからね。

私なんかがアドバイスなんて、
おこがましいけど。」


文代さんはそう言って微笑んでくれました。
今度は私の方がうるうるして
急いでバッグからハンカチを取り出して、、

言葉は
胸に染み、
じんわりと心が熱くなりました。


「いいなあ」と、

輝いている人を見るとつい
思ってしまいがちですが、
その背景にある苦労を
私たちはどれくらい知っているでしょうか。

皆、弱いところ、見られたくない部分を隠して
気丈に振る舞っているだけなのかもしれません。



『いつ、何に出会うかわからないのが
人生だからね。』

文代さんが言うその言葉は
何よりも深く、心に残りました。


「応援してる!だって、お友達だもの。」


あの時もらった言葉と笑顔に
背中を押されながら
今、少しずつ明確になってきた夢を胸に
歩いています。

思いきりのない性格も
この際、味方にして
じっくりじっくり自分の道を歩く。

またいつか良い報告ができる日を
待ちわびて。


特別な、私のお友達。

このご縁に、感謝の気持ちでいっぱいです。

これからもあたたかい記事をお届けします🕊🤍🌿