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17:00 よりみちパン屋さん

かるい気分転換にと
ほんのり暮れていく町を
気まかせに散歩していた時のことです。

大きな通りを折れ、
路地を少し入ったところに、ぽつんと
みかん色に灯っている窓が目に入りました。

ふつうのお家のようですが
よくよく見ると看板が立っています。
黒い板に白いチョークで書かれているのは
「本日のぱん」という文字と
英文字のメニュー。

あら、こんなところに、
隠れ家のようなパン屋さんです。



木製の扉、土塗りの壁、ランプの光。
オリーブの木は
店前の庭で、さらさらと
葉擦れの音を立てています。

窓から漏れる
あたたかな明かりに誘われて
私は、パン屋さんの扉を押しました。


カラン、とカウベルが鳴り、

「いらっしゃいませ。」
ベレー帽の女性の方が
ニコリと微笑んで
迎えてくださいました。

店内は、三畳ほどの広さで
正面にパンの並ぶショーケースがあり、
床や壁に使われた木の風合いが
くつろぐ雰囲気をつくっています。
ところどころに飾られた
花と緑がアクセント。
奥は、厨房に繋がっているようです。

「お寒いなか、ありがとうございます。
今日は残りがこれだけなのですが、、
すみません。」


ケースの中を覗くと
むっちり丸いブルーベリー入ベーグル、
濃厚な色のカンパーニュ、
それから
じゃが芋とゴーダチーズのフォカッチャが
肩を寄せるように並んでいました。

「でも、この3つもモチロン自信作です。
うちのパンはどれも
小麦と酵母にこだわって
身体にやさしくと思って作っているんですよ。
ながく、ながく愛していただけるパンを
お届けしたくて。」

「大切に作られているんですね。」

三種類も食べられる、
なんてラッキーだと思いつつ
私はその3つのパンを
すべて包んでいただきました。



「フォカッチャはアルミホイルにくるんでから
トースターで温めていただくと
よりもちっとした食感で
お召し上がりいただけますので
よろしかったら、ぜひ。」

パンの包みと一緒に
店主さんの朗らかな笑顔を受け取って
私は、店をあとにしました。




パン屋さんでも、喫茶店でも、雑貨屋さんでも
こうした、
想いがぎゅっと詰まった個人のお店は
その町に、
和やかな風情というか
人の温もり、柔らかな色合いを
加えてくれます。



今はもう、大抵のものは
おおきな商業施設ひとつで
求めることができますが

どんな品物を買うか、どんなお店で買うか、
または、何を買わないか。
消費者のささやかな一票は
その町の色を左右する
もっとも身近で、大切な一票。
意思表示になると思います。


小麦の香りがする紙袋を
胸に抱えて歩く、帰りみち。
大切にしたいお店に出会えた日。
また来よう、そうしよう。

私はすっかり、
やさしい店主さんが営む
隠れ家パン屋さんの
とりこなってしまいました。


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