夏祭り【Summer festival】
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あの日を思い出す。
西日が強くなる夕暮れ時、辺りは喧騒に包まれ皆
がやがやと楽しそうだ。
人混みが嫌いな私も夏祭りが始まる前の
この感じは言いようもなく好き。
色で言えば、黄色と赤の混ざったオレンジ色。
今日は8月31日。
そう、夏祭りの日。
「あっ射的しようぜ」
隣にはアラタがいる。
うん、とちいさく答えるとすぐさま、「しゃてき」と書かれた屋台へと駆け出す。
アラタとは幼稚園からの幼馴染で同い年。
もう10年くらいになるだろうか。
「うわっ一個も当たんなかったわ~」
と言いながらハニかむアラタ。
不本意ながら、わたしはこいつのことが好きだと言わざるを得ない。
言わないけれど。
交代して、アラタから射的の銃を渡してもらう。
可愛いぬいぐるみを狙ったつもりが、隣にある不気味なお面が代わりに落ちた。
「相変わらずスゲーなヒナタ」
いや外れたんだけれど。
「わたしコレ要らないからアラタにあげる。不気味だし」
「いいの?これ結構有名なんだよね!やった」
不気味なお面を貰ってアラタは喜んでいる。
なんというか昔から変わってないんだよねアラタ。
その後は適当にかき氷を食べたりイカ焼きを食べたり
リンゴ飴を食べたり・・・
「ヒナタはよく食うな~」
「うっさい!」
という会話を挟みつつも金魚すくいに、輪投げ、くじ引きと色々遊んでいるうちに
だんだんと暗くなり、花火を上げるにはちょうど良い闇が訪れた。
ぼっ、ひゅーーーーー、どーーーん。
ぱらぱらぱら。
花火が上がる。
夜空に開花する無数の花を、とくに会話もせずに、ぼーっと二人して眺める。
「きれい」
「だね~」
まったりとした時間が流れる。
1時間くらい経った頃だろうか。
ふと、前見た恋愛マンガのことを思い出した。
そのマンガでは、告白するも、花火の音に声がかき消されたというシュチュエーションだった。
なんか面白そうで真似てみようと思った。
聞こえなくても聞こえても、どちらでも構わない。
いや聞こえないほうがいいかも。
ぼっ、ひゅーーーーー、
花火が開花するのに合わせて声を出す。
どーーーん。
ー好きなの
「えっ今なんて?」
上手くいったかな。
「いや何でもない」
お祭りの終了を告げるアナウンスが流れる。
さっき上がったのが最後の花火だったらしい。
花火の打ち上げが終わり、さっきまで賑やかだった空に静寂が訪れた。
「あの…さっき、好きなのって聞こえたけど」
「はっ?!今なんて?って聞いたじゃん!!」
「それは念のために、もう一度聞いておこうと思ってですね」
「思いっきり聞こえてるじゃん!」
「だってヒナタいつも声デカいんだもん」
アラタはそんなこと言いながら、嬉々として笑っている。
辺りは帰り支度を始めて、ざわざわしてきた。
なんかめちゃくちゃ恥ずかしい、穴があったら入りたい気分。むしろ自分で掘っているけども。
「まっヒナタの好きがどういう”好き”か分からないけどさ…」
神妙な面持ちになって切り出して、言葉を繋げる。
「好きだよ。俺もヒナタのことが、ずっと前から」
こころなしか、顔が赤くなっているように思えるけれど、まっすぐとわたしを見て、そんなことを言ってくる。
いつもはナヨナヨしてるのに、決めるところは決めてくるから、ずるい。
突然、お面を被るアラタ。
「どしたの急に?」
「いや、ちょっと今の顔見せられない」
「お面の顔よりずっとマシだと思うよ?」
「そうかな、へへ」
「だってそのお面の顔すごいもの」
その後は、がやがやしている通りを、ふたりして笑いながら帰った。
夏祭りの終わりの話。
夏の終わり、わたしの夏が始まって、大きな花が咲いた。
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おわり
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