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 亀麿様が出やすいとされる槐の間。旅館に到着してすぐに見学したときは、特に何も感じることはなく、撮影した写真や動画にも不思議な点は見当たらなかった。
 午後九時を過ぎて再び槐の間に行ってみると、私以外に人は誰も居ない。他の宿泊客は、もう少し時間が経ってから検証にやってくるのか。そんなことを思った。ただ部屋の様子が違う。床の間にポツンと薄明かりだけが灯されており、幻想的な雰囲気に変わっていた。どうやら、午後九時を過ぎると消灯になるようで、ただし見学はいつでも可能なので小さな照明だけは点けているとのことだ。

午後九時を過ぎた槐の間。デジカメで撮影。橙色の照明が床の間を照らす。

 座敷わらしの存在はともかく、照明一つで日本の座敷は雰囲気がガラッと変わり、風情があって良いものだと直感した。写真を一枚撮ってみる。だが、部屋の景色は変わっても、写真は相変わらず。デジカメとスマホでは機器が違うので、写り加減もやや異なる。スマホの方は照明が濃くは写らない。

スマートフォンで撮影。

 今度はフラッシュを炊いて撮影してみる。

フラッシュを炊いて撮影。

 光の加減で埃が反射することもない。写真や動画では今のところ不思議な様子は見られない。では、気配や音に異変はあるか。
 ・・・残念ながら、ただ時間が過ぎるばかりで、何も感じない。先程、自分の部屋や槐の間で撮れたようなオーブも写らない。結局、一時間ほど粘って検証したが、今回は成果を得ることができなかった。また出直そうと思い、私は部屋に戻った。

 部屋でのんびり過ごす。テレビを観たり、お茶を飲んだりして、敢えて検証らしくない普段の生活感を出してみるが、何も変化はない。風船が、突然、動かないか、風船との睨めっこをしたり、「亀麿さーん」と呼びかけたりして反応を窺う。時折、物音がするようなこともあったが、座敷わらしによるものという感覚はない。部屋の軋みぐらいよくある話だ。
 不思議なことが起こらず、部屋で寛ぐだけの時間が過ぎた。時刻は十一時半になろうとしていた。そこでもう一度、槐の間に行くことにした。

 僅かな照明が灯された廊下を期待を込めて歩き、槐の間へ向かうと、スリッパを脱ぐ座敷の手前から窺うに、ぼんやりとした部屋に変化はなさそうだった。しかし、足元に一足のスリッパが置いてある。人の気配を感じる。おや?と思い視線を部屋の右側へ向けると、人影が見えた。宿泊客のどなたかがいらっしゃるようだ。少し動揺した私は、一旦、隣の休憩スペースの様子を見に行った。こちらもまた照明は薄明かりで、宿泊客が撮影した不思議な写真を映したテレビも電源が消えていた。

槐の間の隣にある休憩スペース。消灯している。

 この部屋でもしばらく様子を見ていたが、特に変わった現象も起こらず、せっかくの良い機会なので、槐の間に先に来ていた宿泊客と交流を図ることにした。床の間に近付くと、薄明かりに居たのは一人の女性だった。

「こんばんは。隣、失礼いたします。何か撮れましたか?」

 そんなご挨拶をすると、これまで撮れた不思議な写真についての話が始まった。仮にこの女性をAさんとするが、曰く、「デジカメよりもスマホの方がオーブが写りやすいですよ」とのこと。どの機種で、照明を焚くかどうかによっても写り方は違うと思うが、結論から言うと、私の場合は、今回の検証でスマホでは一枚も不思議な写真は撮れなかった。これまでの投稿で公開した不思議な写真は、御案内のように全てデジカメで撮影したものである。
 話が弾んできた。Aさんは奇跡的にも一週間前に予約が取れたらしく、連泊の予定だという。半年前から予約をしていた私のような宿泊客もいれば、空いた日に滑り込むようなかたちで予約を取れることもある。Aさんのように、細かい話は電話予約のほうがチャンスがあるのかもしれない。Aさんは、最近、運気が落ちているなあと感じていたそうで、リフレッシュも兼ねて来たそうだ。当時の私は横浜に住んでいたのだが、Aさんも近い方面から来られたそうで、これまた邂逅に驚いた。私の自宅の最寄り駅の名前をご存じで、やはりこの旅館にはご縁や何かを引き寄せる力があるのではないかと思った。

 楽しいお話をしながら、しばらく二人ともカメラを回してみたが、変化は見られなかった。時計の針は十二時を過ぎていた。丑三つ時でもないので、もしかしたら、まだ時間が早かったのかもしれないと思った私は、また後で来るかもしれませんとAさんに告げて、退散した。(続く)

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