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パフェ

娘は小学3年生のとき、宿題をやらなかった。提出の時間になると保健室へかけこんでいた。担任が気づき、ぼくが呼び出された。
仕事を早退し、小学校へ。


迎えにいくと担任教師から、娘はいつも宿題から逃れるためにお腹が痛いといって保健室へ駆け込むのだ、と伝えられた。その口調からは、ずるい事をしている、責任から逃げちゃダメだ、というニュアンスが滲み出ていた。そして、親なのだから娘によく云ってきかせろ、という。

「話はわかりました。ご面倒をおかけしますね。話はしてみますが、やるかどうか決めるのは娘なので。」
「それでは、娘さんの成績が。。。」
「それは、先生がお決めになることですよね。」

努めて柔和に話していた担任の顔は、とたんに引きつった。
親は別に宿題をやらせる係じゃない。大人が決めた枠を満たさない事が「成績の悪い生徒」になるというしくみ自体に問題があるのだ。


気晴らしに娘と二人でパフェを食べに行った。
「先生、なんて言ってた?」
「ウン、宿題やりたくないのをごまかすために、お腹が痛いって云ってるって。」
「やっぱ、バレてたか」
舌をだして笑う娘の脇に、抹茶パフェのほうのお客さま、と変な日本語を使って店員さんが立っていた。
こちらはコーヒーのほうになります。娘と顔を見合わせて笑いをこらえた。


「どうする?宿題、全然やらないから、先生困ってるってさ。」
「だって、メンドクサイんだもん。先生、すぐ怒鳴るし。」
「先生、怒鳴るんだ。」
「そう、思い通りにならないと、すぐ。」
「そりゃあ、ガキだな。」
「でしょ? 好きじゃないんだよね。」
「そうか、好きにはなれないかもな。」
「見て見て、おとーさん。抹茶ケーキも入ってるよ。」
「甘そうだな~。俺は、食えない。」
「オイシイよ。抹茶アイスとケーキ。」
「あははは、オイシイだろうな。いいね。」
「何とかするよ。メンドクサイけど。」
「メンドクサイよな~。何とかできるの?」
「うん。大丈夫。」
「そうか、でも先生が怒鳴ってどうしても嫌だったらおとーさんに云いな。出てってやるから。」
「わかった。」
その後、学校へ呼びだされることは、なかった。


数年後、その話題になって、宿題をやるようになったのか娘に尋ねた。

すると、
「うははは。うううん。全っ然! 結局やらなかったね、だってつまんなかったんだもん。わっはっは。」


娘は今、留学へ向けて大学講義を全て英語で受講している。

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