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教師のバトン

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 荒れに荒れていて、まさにスラム街みたく荒んでいた学生時代の英語の授業のワンシーン。

 その教師は最初の頃はやる気満々の熱血教師だったのだが、どんどん時が経つに連れて生徒の態度にやつれていき、途中からは授業はしているけど、何一つ生徒に伝えようとはしない、そんな抜け殻のような授業を繰りかしていた。

 その日も、その教師に覇気もなくやる気もなくただ垂れ流すように英語の授業をしていた。

 そんな時、一人の生徒が自分の出す問題に手を上げた。

 不良で配布されたプリントをすぐさまゴミ箱に投げ捨て、授業は始終、ゲームをして過ごし、自分に対して嫌がらせ以外では一切関わらないそんな生徒。そんな生徒が「先生」と自らの手を上げ挙手していたのだ。

 教師は歓喜に震えていたのかもしれない。

 「不良が。屑が」と内心、軽蔑していた生徒が自分の授業に手を上げてくれた。質問なのかもしれない。あるいはいがみ合っていた自分との関係修復を求めているのかもしれない。

中学生とは子供だ。素直になることは難しい。もしそうなら。自分が大人と教師として、年長者として人間としてリードしてあげなくてはならない。

「もういいさ」と軽く笑い。許してやる。そうしなければならない。

爽やかな風が心中に吹く。もう憎しみはない。
「教師をやっていてよかった」
教師はそんなことを思っていたのかもしれない。

そして、挙手をした生徒の名を呼び「なんですか?」と続ける。舌から編み紡ぎだす言の葉に大人の威厳と教師の責務と人としての優しさを乗せながら…。教師が想定するのは、教師と生徒の熱い会話。いままでの苦渋が報われる瞬間のはず…だったはずだが…。

「帰れ」

帰ってきたのは余りにも短く、そして残酷な一言。
それに呼応するかのような、それを聞いていた生徒達による蔑むような哄笑。

教師の顔は固まっていた。氷ついていたといのが適当か。

それ以来、教師は完全息の根を止められた。
生徒がなにをしようと気にしなくなったし、できるだけ痛い目を見ないように振舞うだけだけとなった。
熱血だった教師が人として威厳も誇りもなく堕ちて行った。

ドラマに出てくる架空の教師にでも憧れたのか?
ありもしない理想に恋焦がれたか?

彼が最後に残した言葉は卒業式で涙を流し、「嫌な事も嫌な事も嫌な事も嫌な事も沢山有りましたが、楽しいこともすこしだけ有りました」

 その言葉を遺言のように残し、その英語教師は僕達の前から姿を消した。寂しいう後ろ姿で。

 忘れられない先生という記事をまだ募集中だったので、また書いてみました。しかし、地方とはいえ、本当にロクでも学生時代だったな。と感じます。


こちらもよろしければ、どうぞ。

先生にトイレに連れ込まれた話。

https://note.com/todorero0620/n/nf78387e86406

 

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