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#9.夢見る少女じゃいられない

―連載マガジン『ポンコツだらけの音楽会~私の夢の叶え方』第9話。
全話はこちら第1話第2話第3話第4話第5話第6話第7話第8話

バンドメンバー募集の掲示板で知り合った社会人バンドで、
ボーカルをさせてもらえることになった。

初めての練習スタジオ。

すべてが新鮮だった。
エコーのないスタジオマイク。
自分の声がダイレクトに耳に入ってくる。
ドラムやベース、そしてギターの音。

高校の軽音部とは全然違う光景が、
そこにはあった。

「じゃあ、始めようか」

そういうと、ドラムがリズムを取り始めた。
ギターが鳴り、ベースが身体に響く重低音を鳴らし始めた。

練習曲は、相川七瀬の「夢見る少女じゃいられない」
まだ歌詞を完全に覚えていない私は、楽譜を見ながら唄った。

バンドの音色に合わせて唄うことが、
こんなにも楽しいなんて思わなかった。

私は確かな何かを感じていた。

これだ…と。

それから毎週水曜の20時が楽しみで仕方なかった。
少ないバイト代からマイクを購入した。
自分だけのマイク。なんだかプロっぽくて嬉しかった。

日に日に練習曲は増えていった。
「夢見る少女じゃいられない」
「トラブルメイカー」
「B'coz I Love You」
「My Sweet Darlin'」

この4曲を重点的に練習した。
私以外のメンバーは経験者だったので、
私のペースに合わせて練習をしてくれた。

なかなかうまく唄えない時も、
優しくフォローしてくれた。

しかし、この楽しい時間も長くは続かなかった。

半年が経過したある日。
ギター担当のメンバーが掛け持ちのバンドに集中したいと
脱退を申し入れてきた。

そろそろライブに出てみようと、話をしていた矢先だった。

どうしていつもいいところで、
あと一歩というところで、
私の夢は叶わないんだろう。

まるで神様が、
あなたは音楽に縁がないから、諦めなさい。と
言っているかのようだった。

メンバーが新しいギター担当を探してくれたが、
なかなか見つからなかった。
そうして、またバンドは自然と解散になった。

私はまたアルバイト三昧の日々に戻った。
やりたいことができないもどかしさを、
夢が叶わない悔しさを、
今にも爆発しそうな気持をどこかにぶちまけたい。

それをアルバイトに没頭することで紛らわせていた。

私の夢は叶わない。
夢見る少女じゃいられないとは、まさにこのことだ。

そこから私の中で何かが変わっていった。
もっと現実を見よう。
違う方向を向いてみよう、と。

高校を無事に卒業し、大学に進学した私は
そこで運命的な出会いをする。

夢見ることをあきらめ、
早く大人になりたいと考え始めていた私に
彼女は沢山のことを教えてくれた。

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