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カナダ留学→厚生労働省に就職 二見朝子さんの就活とキャリア

二見さんについて

就職先  :厚生労働省
出身大学 :北海道大学医学部保健学科看護学専攻
      東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻
      博士課程修了
出身地  :茨城県常陸太田市
留学先  :カナダ エドモントン
留学テーマ:看護の研究成果を臨床でスムーズに活用できるようにする!

「北海道大学を卒業後、都内の大学病院に3年間勤務し、その後東京大学大学院に進学しました。5年半の大学院生活の中で6ヶ月間カナダに研究留学しました。留学前は研究者になろうと考えていましたが留学でキャリア観に変化が生じ、現在は厚生労働省で看護技官として勤務しています。」

二見さん1

看護師時代

中学時代から生物が好きで医療の道へ

 中学生の時から、生物の授業が好きだったんです。身体の仕組みについて学ぶのが楽しく、生命に関心を持つようになりました。そんな中、クラスメートが亡くなる、という経験がきっかけで医療の道に関心を持ちました。「人の役に立てる仕事がしたい」という思いもあり、医療の道を志すようになりました。身体のことを一番よく見るのは医師ですが、受験で点数が及ばず、次に浮かんだのは看護師だったので、保健学科(看護学専攻)を選びました。

看護の面白みを実感できなかった大学生活

 入学当初の私は、看護師というのは「身体をみる」ことがメインだと思っていたのですが、そうではありませんでした。看護について学ぶ一番初めの授業で読んだ、ナイチンゲール著「看護覚え書」には、看護というのは、「新鮮な空気や暖かさ、清潔さなどの環境を整えることで、患者さんの消耗を最小限にして回復過程を妨げないこと」と述べられているんです。今となっては、ナイチンゲールの記述は看護を的確に表現していると思いますが、当時の私には意味が理解できず、思っていた看護との違いに落胆し、3年生までは、勉強に身が入りませんでした。部活とバイトに明け暮れていましたね。(笑)

 ところが、4年生で卒業論文を執筆することになった時、研究というものの楽しさに魅了されてしまいました。元々、物事を探究するのが好きなんです。今まで分からなかったことが分かるようになる感覚が楽しくて、将来は研究者になろうと決意。それでも、一度は現場に出て働いてみないと分からないことも多いので、都内の大学病院に就職しました。

就職先の大学病院で感じた違和感

 大学病院の小児科で働く中で、看護への理解が深まり、一気に看護学と看護師としての仕事が好きになりました。ところが、現場で働くうち、別の課題が見えるように。研究と現場に、乖離を感じるようになったんです。大学では、先生方が熱意を持って日々研究をしている姿を目にしていましたが、いくら先生方が頑張って研究を重ねても、それが現場に活かされていない。あるいは、効果が見られないケアが、漫然と続けられている状況を目にすることもありました。そのケアを実施する根拠について先輩看護師に尋ねても、はっきりした答えは返ってきませんでした。ケアについて困った時の解決手段は、基本的にカンファレンス。ガイドラインや論文といった研究による知見を用いることはほとんどなく、むしろ多くの看護師は「研究」という言葉に対して強い苦手意識を持っているようでした。

 研究者も、現場で働く医師や看護師も、患者さんを良くしたいという共通の思いを持って目の前の仕事に取り組んでいるのに、互いの持つものがうまく活かされていない。そんな現実に、問題意識が芽生え、研究と現場を繋げたいと思うようになりました。そこで、3年働いた大学病院を退職し、修士課程に進みました。

「研究」と「臨床」を繋ぐことを目標に修士課程へ

 「研究」と「臨床」を繋ぐことを目標に修士課程へ入学し、修士課程修了後は博士課程に進学しました。実は元々海外に興味はあったのですが、留学をすると博士課程を3年で終わらせることが難しいことを理由に、留学を考えていませんでした。しかし教授自身がアメリカで博士号を取得する等していたこともあり、「博士課程の学生はみんな留学してください」と常々言われたんです。

 そんなに勧められるなら…と、とりあえず手さぐりに受け入れ先を探してみたのですが、なかなか行きたい研究室は見つからず。諦めかけていた博士1年の頃、きっかけとなる出来事がありました。教授がやたら感銘を受けて帰ってきたあるシンポジウムのシンポジストが、私の研究分野であるKnowledge Translationのパイオニアのカナダの教授だったんです。そのことを教授に言うと、「あら、じゃあその先生のところで学んで来たら?」と一言。日本では研究分野としては歴史もまだ浅く、分野の歴史や最新の状況について海外で学ぶ必要性は感じていたので、教授の一言に後押しされ、分野の第一人者である教授のもとに飛び込むことを決心しました。

 その教授とは何のコネクションもありませんでしたが、思い切って直接メールを送ってみました。1度目は返信をいただけませんでしたが、1週間後に再度送ってみたところ返信をいただくことができました。その後、留学目的や内容について何度かやり取りをし、オンラインでの面談を通して留学を受け入れてもらえることになりました。

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留学先のアルバータ大学

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研究チームのメンバー

カナダ アルバータ大学での留学生活

 カナダのアルバータ大学に6ヶ月間留学し、研究チームに加わりながら、Knowledge Translationの知識の習得、データ分析と論文執筆、大規模介入研究の見学、博士課程の研究計画の洗練、医療機関の見学などをさせていただきました。この留学の目的は、専門分野の知識を得ることはもちろん、日本においてどうすれば研究と臨床の距離を縮める事ができるのか、答えを見つけること。

 移民の国カナダらしく、研究チームのメンバーは中国、ドイツ、南アフリカなどの様々な国や研究分野から集まっていて、とても多様なメンバーでした。研究チームのメンバーとは、帰国後も連絡を取り合ってお互いの研究成果を報告し合ったりしています。

 中には医学や看護学を研究する人だけでなく、社会学者の方もいました。カナダで驚いた事のひとつは、研究者が皆、自信満々で持論を展開していたことでした。私の中では、研究をすればするほど、世の中分からないことだらけだということを痛感し、何か発表するときも「本当なのかな」と発言に自信を持てなくなったりしていましたが、カナダで出会った研究者で、自信無さげに話す人は居ませんでした。どこからその自信がくるのだろうかと始めは疑問に思っていましたが、次第に気づいたのは、勉強量とそれに比例する知識量が圧倒的に多いんですよね。講義の中でも、事前に読むべき文献の量が非常に多く、知識量に裏付けされた自信なのだと感じました。

 エドモントンは自然も豊かで、人々はとても気さくで、素敵な街で楽しかったです。いかにもアメリカンな食事が3食付いた寮に住んでいたので、嫌気がさしてしまい何も食べたくなくなってしまった時期もありましたが(笑)、エドモントンには日本食屋さんや中国系スーパーもたくさんあるので、何とか乗り切れました。

カナダの医療体制から得た気付き

 留学を通して、カナダではエビデンスを現場で生かす体制が整っていることに気付きました。例えば、カナダでは看護協会がガイドラインの作成を後押しする等、最新の研究を現場で活用するための取組が行われています。国としても、Knowledge Translationの研究に多くの研究費が投じられている等、国全体としてKnowlege Translationを後押しする雰囲気があり、日本と非常に異なることを感じました。一方で、他の研究者やナーシングホームで働く方のお話しを聞いて、患者さんをケアするという看護の本質は、他の国でも変わらないのだということも実感しました。

 留学する前は、博士課程を終えたら研究者として研究を続けようかなと思っていました。しかし留学を経て、いち研究者として研究と臨床を繋ぐことに取り組むよりも、まずはカナダのように国として研究と臨床を繋ぐ体制の後押しをすることが必要なのではと思い、厚生労働省への就職を決意しました。

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ケアの質改善の取組について
ナーシングホームのスタッフが紹介している場面

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カナディアンロッキーの壮大な景色

看護技官として厚生労働省に入省

 昨年から厚生労働省の子ども家庭局母子保健課に勤務し、妊娠や出産に関わること、自治体での乳幼児健診や育児支援などに関する業務に取り組んでいます。看護技官は実務経験が7年以上ある人が担う仕事で、主な役割は、施策や制度を作る時に、それが現場に即したものになるよう専門的な部分をサポートすることです。行政においては、Evidence-based Policy Makingといって、研究等から得られた知見に基づいて政策立案をする事が、ここ数年で推し進められています。その過程では研究者と協働することが不可欠なので、修士・博士課程で得た研究スキルが非常に役立っていますし、知見を活用するという視点は、これまで研究してきたことと本質は同じなので、非常にやりがいを感じています。また、厚生労働省では医師、看護師、薬剤師、栄養士、獣医師など、色々な職種の技官だけでなく、各自治体から出向している人などが働いていて、多様性溢れる職場です。

 今後の目標として、研究成果を臨床でスムーズに活用できるよう繋げたいという想いは今も変わっていません。そのビジョンを実現するための方法はまだ模索中で、まずは厚生労働省に来た、という感じなので、これから先も最適な方法を探しながら、ビジョンの実現に向かって活動していきたいと考えています。そして、それが日本の看護をより良くすることに少しでも寄与できたら嬉しいです。今はコロナ禍で制限がありますが、いずれは海外にもまた足を運びたいと思っています。看護にはあまり関係ないですが、特にエジプトの歴史と死生観に興味があるので、現地に行って遺跡を見たり、空気を感じてみたいですね。

二見さんの就活タイムライン

二見さんスケジュール

こちらが二見さんの就活タイムラインです。大学卒業後、都内の大学病院で3年間働いた後に大学院に進学し、6ヶ月間カナダに留学したそうです。

二見さんからのメッセージ

私は留学に行ったことで、研究者になるのではなく看護技官として厚生労働省に入省しようと、自分のキャリア観が変わりました。他にも、留学したことで自分を受け入れられるようになったことは大きな変化でした。カナダは移民が多い国なので、本当に多様性に溢れていて、研究チームで出会ったメンバーも色々なバックグランドを持っていました。日本は、基本的に同じ民族なので、小さな違いを気にしながら生きることも多いですが、カナダでは各々が母国に誇りを持って、互いのありのままを受け入れていて、私自身も、ありのままで良いんだなと、肩肘張らずに生きるマインドに変わったと思います。日本の看護学生・大学院生は留学する人が少ないと思うので、留学して海外の看護を持ち帰って来たり、日本の看護を海外で発信したり、そんな交流がもっと増えると良いなと思います。留学中にも、メンターから「日本人は英語で論文を書く人が少ないよね」と言われて、そういう認識をされているんだなとショックを受けました。海外に飛び込むのはとても勇気のいる事ですし、準備も大変ですが、得られるものはとても多いと思うので、是非留学してみて欲しいなと思います!

二見さんの留学についてもっと知りたい人へ

トビタテ!留学JAPAN公式ホームページで公開されている留学大図鑑から体験談を読むことができます。
※留学大図鑑とは…海外にトビタった経験を持つ1757人(2021年2月現在)の留学体験談をもとに、計画の立て方や課題の解決方法を検索できるサイトです。留学を検討している人は是非活用してみてください!

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