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炎症を抑えるためのアイシング活用方法

私は現在、スポーツ整形外科クリニックに勤務し、理学療法士と連携しながら患者の症状に合わせた運動を指導しています。手術後の社会復帰を目指す方や競技復帰を目指すアスリート、慢性疾患による身体の不調を抱えた方が多く来院します。

日々、多くの患者に対応するなかで、アイシングをうまく活用して痛みをできるだけ早く緩和させる重要性を改めて感じます。特に手術をされた方は術後の痛みが強く出てしまい、回復に難渋するケースが多いです。逆に術後に出る痛みや腫れを緩和させて、炎症をコントロールできるとリハビリテーションを円滑に進めることができます。

痛みや腫れなどの炎症があるときはアイシングを積極的に活用していき、病院でリハビリを行うときだけでなく、患者が自分自身で行ってもらえるようにしてほしいと思っています。しかし、アイシングに関して正しい理解をされていなかったり、うまく実践できていなかったり、そもそもアイシングの有効性を理解していなかったりして、「上手に活用してもらえていないなぁ・・。」と感じています。

そのため、今回はアイシングの効果や意義、実施する際のポイント、注意事項についてお伝えします。アイシングへの理解を深めて、炎症の緩和を図るための有効なツールの1つとして積極的に活用してもらいたいと思います。

炎症とは?

アイシングの効果の解説に入る前に、炎症と組織の損傷の流れについて触れておく必要があります。

炎症とは、刺激に対する身体の局所的な組織レベルの反応のことで、①異物に対する身体の反応②壊れてしまった組織の排除③正常な組織に治すために修復を促すという3つの目的があります。
そして炎症には、①疼痛、②熱感、③腫脹、④発赤、⑤機能障害の5つの兆候があります。

外傷における初期対応はこの炎症反応をいかに抑えるか?を考えなければいけません。ただ炎症は組織が治ろうとしている大事な反応であるため、炎症を起こさないのではなく、最小限に抑えることが重要です。そして組織の損傷が広がらないようにすることが大事なポイントです。

組織の損傷について

組織の損傷は外力によって直接的に引き起こされる「1次的損傷」とその1次的損傷後に周囲の組織に発生する「2次的損傷」があります。

2次的損傷は、1次的に損傷した組織の炎症反応の影響を受けることによって起こるとされています。これを「2次的低酸素症」と呼び、損傷した組織の周囲が酸欠状態となり、壊死してしまいます。

【組織損傷の経過】
組織が壊れ、内出血を起こす→組織が腫れて、内圧が上がる→循環が悪くなり、低酸素状態になる→血管が拡張する→さらに内出血や腫れが広がる

組織が損傷を受けると、上記のような流れで炎症が広がっていきます。

こちらは社会人野球チームに所属する投手の膝に打球が直撃し、お皿の周りがひどく腫れてしまった写真です。その後の検査で骨折していることが明らかとなりました。

身体の組織が何らかの形で損傷を受けるとこのように患部が腫れて、熱を持ち、赤くなってきます。この炎症をできるだけ早く抑えることが本当に重要になります。

アイシングの効果とは?

アイシングは冷やすことによって一時的に患部とその周りにある細胞の代謝を下げるために行います。そうすることで2次的低酸素症を最小限に抑えることができ、炎症反応を抑制します。

先ほども書いたように炎症は組織が治る過程において必要なものですが、それが大きくなればなるほど2次的な損傷が誘発されてしまいます。アイシングを行うことで血管が収縮し、血流が制限されるため、炎症反応である腫脹や熱感、発赤を抑えることができます。さらにアイシングによる冷却には、感覚を麻痺させて痛みを一時的に感じにくくさせる役割があり、痛みの軽減につながります。

アイシングを行う際のポイント

アイシングを行う際の重要なポイントは4つです。

①安静にする
②固定と圧迫を確実に行い、患部に密着させる
③心臓より高く上げて、循環を促す
④20分を目安に、皮膚が冷たく感じなくなるまで冷やす

①|安静にする

アイシングを行う時は必ず運動を中止し、全身の血液循環を抑える必要があります。患部を動かさず、安静を保つことでアイシングの効果が高まります。

②|固定と圧迫によって患部に密着させる

氷を入れた氷嚢やビニール袋、アイスパックなどを患部にしっかり固定・圧迫することで冷却効果を高めるだけでなく、損傷を受けた部位からの内出血や腫れを最小限にとどめることができます。

アイシングをしっかり固定せずに、自身の手で支えて患部を冷やす方を時々見かけますが、そのような方法では高い効果を期待できません。ただ単に冷やすのではなく、患部に固定し圧迫することがとても重要なのです。

固定する道具としては布製のバンテージやアイシングラップ、アイシングサポーターがあります。それぞれの道具の特徴がありますので、アイシングを行う環境に応じて使い分けしましょう。

〇布製バンテージ
バンテージとは伸縮性のある包帯のことで、アイシングを用いる際によく使われる道具です。使用する度に巻き直す手間がかかったり、洗濯したりする必要がありますが、何度も使うことができ、患部の圧迫や固定にとても有効です。また保温性に優れ、冷却効果の高さが学術研究で明らかになっています。可能であれば、布製バンテージでアイシングを行うことを推奨します。

〇アイシングラップ
アイシングラップは環境を選ばず、だれでも簡単に巻くことができます。使い捨てとなるため、衛生面に配慮する必要がありません。スポーツ現場での業務で大変重宝される道具です。ただ布製バンテージと比較すると、保温性に劣るため、冷却効果は低くなってしまいます。

〇アイシングサポーター
患部に巻いてマジックテープで固定するだけなので、だれでも簡単にアイシングを行うことができます。こちらもアイシングラップ同様、保温性に劣りますが、比較的安価で手に入りやすいことから、家庭内でよく使われます。

③|患部を心臓より高く上げて、循環を促す

物理的に患部への血流を緩やかにして、循環を促すことがとても重要です。そうすることで患部の内出血を抑えて、炎症を最小限にとどめることができます。

肩を冷やす場合は椅坐位で、足首や膝は仰向けに寝て、足の位置を少し上げた状態で冷やしましょう。

下の写真は足首をひねった11歳のサッカー少年がアイシングを行っている様子です。このとき周囲に足を挙げられる物がなかったため、私のお弁当バックを支えにして、足を挙げてもらいました。このように冷やす部位を心臓より高く挙げると循環が促され、炎症を早くに引かせることができるのです。

④|20分を目安に、皮膚が冷たく感じなくなるまで冷やす

1回のアイシングでどれくらい冷やすか?がとても重要です。身体の部位や人によって皮下脂肪の厚さに違いがあり、一概に言うことができないため、身体の部位に合わせてアイシングの時間を変える必要があります。

1回のアイシングにつき、20分~30分を目安に行いましょう。時間に加えて、自身の皮膚感覚でアイシングの時間を決めると良いと思います。

アイシングをすると時間経過とともに皮膚感覚に変化が生じます。

・開始~数分間:強い冷感、痛み
・開始10分~12分後:血管拡張により血流増加→温かい感覚
・開始15分~17分後:再び血管収縮、皮膚が冷たい感覚を感じなくなる

皮膚が冷たいと感じなくなるまでアイシングを行うことで、深部組織への冷却効果を十分に期待できます。10分ほどでアイシングを止めてしまう人をよく見かけますが、それでは冷却効果を見込めません。

アイシングの時間をしっかり考慮して、アイシングの効果を引き出せるといいですね。

アイシングの注意事項について

アイシングをすることでアレルギー反応や循環障害を起こす人がまれにいるため、注意が必要です。アイシングの適応にならないため、実施しないようにしましょう。

【アイシングの適応にならない人】
・寒冷刺激によって湿疹が出る人
・寒冷刺激で末梢の血流が低下し、チアノーゼ状態になる人
・神経症の疾患を持つ方で、もともと皮膚感覚に鈍さがある人

また回復を早めたいという理由で就寝中にもアイシングを行う人がいますが、凍傷の危険性が高くなるため、やめましょう。保冷剤を使用したアイシングも直接肌に当てると凍傷になりやすいため、注意が必要です。どうしても使用しなければいけない場合は直接肌に当てず、布か紙を1枚介してアイシングを行ってください。

まとめ

今回はアイシングの効果や実施する際のポイントをお伝えするとともに、そもそも炎症とは何か?炎症を長引かせることでどんな悪影響が及ぶのか?について解説しました。

アイシングはあくまで炎症を最小限にとどめるために行うものであって、生体にとって決して悪い反応ではありません。組織が一生懸命治そうとしているなかで起きる自然な反応ですから、その修復過程を邪魔しない、回復を遅らせないことを念頭にアイシングをうまく活用できるといいですね。

今回の記事をお読みになった方がアイシングへの理解を深めて、症状の早期回復に役立ててくれたらうれしく思います。

<今回紹介したアイシング道具>

〇アイシングセット

〇バンテージ

https://www.lindsp.com/p/search?sort=priority&keyword=%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B8

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