むくろ人形の怖い話2【車窓】
『車窓』
2017年3月13日にした話
ちょっとややこしいんですけど、この話は父が照明関連の会社に勤めていた時、その同僚のNさんが、前職で営業マンをやっていたことがあるそうで、その時に、Nさんの同僚の“佐々木さん”(仮名)が体験したという話です。
佐々木さんが40歳の頃、小雨降るその日も、都心の雑居ビル街を営業車で走っていたそうです。
営業周りは後数件、これが終わればちょいとビール飲んで休憩だ! とサボりに胸を踊らせていた佐々木さん。車内のラジオは付けておらず、響くのはワイパーのカチャコンカチャコンという規則的な音と、フロントガラスをざぁざぁと叩く雨音だけだったそうです。
しかし、ある路地を左折した時に、そうしたもの以外で、印象に残る変な音を聞いたんだそうです。
アッハッハッハッアハハハハハ!
それは大きな女の笑い声だったそうです。
曲がった先の路地は、大通りまで結構距離があるように見えたそうですが、それでも佐々木さんの耳には、雨音とワイパーの音を掻き分けてこの笑い声が届いたそうです。
「うわっ通行人か?」と思った佐々木さんは飛び出しを警戒して、とっさに車を急停車したそうです。
雨音とワイパーの音、そしてまだどこからか聞こえる笑い声。
アハハハハハ!!
じっと路地を見ていると、その声の正体がわかったそうです。
トレンチコートきた女が、建物の影、路肩の水たまりで跳ねていたんだそうです。
靴は履いておらず、ストッキング(もしくは裸足?)で、路地を横切るような目線で、笑いながら跳ねているんだそう。
「うわー気持ち悪ーなんじゃありゃ…」と思ったそうですが、その路地は通らねばならず、急な飛び出しを警戒しながら、徐行運転でそばを通り過ぎようとしたそうです。
「本当に近づきたくなかったよ」と佐々木さんはNさんに語ったそうです。車がゆっくり女の側を通過する時、ふいに笑い声が止んだそうです。
緊張しつつそっと横目で見ると、女は真顔でこちらを目で追っていたそうです。佐々木さんは、アクセルふかしてそこからすぐに逃げたそうです。
さっさと営業周りを済ませた佐々木さんは、楽しみにしていたビール休憩も取らず、一目散に会社に帰り、Nさんにこの出来事を話したんだとか。
しかし、問題はここからだったそうです。ここからの話、不可解なんですがNさんが佐々木さんから聞いた通りに語ります。
女を目撃したその日の帰り、佐々木さんは駅に向かう路地を歩いていました。
道には夕方までの雨が残っていたそう。あの女のことを考えながら歩いていると、ふと路地の先の通りを、その女が横切ったそうなんです。
慌てて家に帰ると、佐々木さんはそのことを奥さんに話しました。すると奥さんは、共感するでもなく、ただ汚いものを見る目で佐々木さんを見つめ「そんな話…私に話してどうするの?」と言ったそうです。
いつもなら「怖いねー…」とか「なんか薬でもやってたんじゃないの…」とか興味を持って受け答えしてくれる妻なのに。
佐々木さんは違和感を感じたそうです。
それ以来、佐々木さんは歩いていると、たまにあの笑い声を聞くようになったそうです。
それからの3ヶ月、佐々木さんは営業先の住所を間違う(メモの住所が何故か風俗街になっていた)、取引先の温厚な社長を激昂させてしまう(佐々木さんは何も言っていないのに相手が「私の妻になんてことを言うんだ!」と怒鳴り出す)などのミスがたたり、営業成績は最下位になってしまったそうです。
佐々木さんはみるみるうちにやつれていき、ついに勤めていた会社をクビになったんだそうです。
それから数ヶ月後。
Nさんは噂で、佐々木さんと奥さんが離婚した。別れた奥さんがビルから投身自殺した、ということを聞いたそうです。
佐々木さんが会社を辞める前、Nさんは佐々木さんとお昼に行くことがあり、身の上を聞いたことがあったそうです。
そこで佐々木さんはこう語ったそうです。
「うちの奥さんにさー、最近すごい罵倒されるんだ……。『汚らわしい浮気野郎』って。やっぱり“あれ”が原因だったのかなぁ。俺どうしたらいいんだろう…」
「あれってなんだよ?」とNさんが聞くと。
「前話したあの女、あいつの声なんだよね、奥さんの声」
「えっ…」
「あの声でさー、罵倒してくるんだよ、目の焦点合わさずにさ。あの時のあれがいけなかったのかなぁ」
「え、ちょっと待てどういうこと?」
「あの女見たとき、横普通に通ったんじゃないんだよ」
「は?」
「あの女の横通る時、あいつが一歩踏み出したんだ。でさ……俺、軽く跳ねちゃったんだよ…。でも、すぐ起き上がったんだぜ。でもさ、俺のことずーっと睨むんだよ。で、怖くなってさ…もう行っちゃおうとしてさ、でも怖くてバックミラー見たら、あの女の足元、裸足で踏みつけてる水溜りがさ……赤くてさ……あいつの股から血が出てたんだよなぁ…」
佐々木さんは今68歳らしいですが、実家で独り、身よりもなく暮らしているそうです。
おわり
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