むくろ幽介の怖い話12【サイクリング】
『サイクリング』
2018年6月20日にした話
先月、後輩がやることになったとある案件で、外部スタッフとしてフリーライターであるMさんに来社してもらいました。
Mさん、うちの会社は本当に頭上がらないくらい、今まで色々無茶を頼んでいる女性で、今回も後輩の案件を快く受けてくださいました。
後輩の話が終わったあと、ふと私の案件でお世話になった時の話になり、後輩には戻ってもらって、Mさんと会議室で少し世間話になりました。
まあ例のごとく怖い話系の仕事は引き続きやってますね、みたいなこと言ったら、
「相変わらずだねー、気をつけなよ」って。
「私、2年くらい前かなりやばいもの見たからさ」
そんなこと言われたら食いつくしかなくて「え、なんですか、めちゃくちゃ聞きたいです!」って。
Mさん、かなりのオカルト好きで、ホラー漫画や妖怪本とかでお世話になってて、まあ、そういう界隈に強い人なんです。
Mさん自身は「そんなに見える方じゃない」そうで、特段オカルティックな人でないんですけど、まあ、見えるっちゃ見えるらしく。この話も見えちゃった時の話だそうです。
「2年くらい前の取材の時、私、自転車も好きなんだけど、そのときちょうど自転車雑誌の企画で、女性の1人自転車一人旅! みたいなのがあって、取材旅行に行ったときがあるの」
Mさんは、横浜から出発して、鎌倉、伊豆半島、富士山を経由して、横浜まで戻ってくるという、結構しんどめの旅をしていたんだそうです。
「伊豆半島に、ヤバイ岬があるんですよ。有名なところ。聞いたことあるでしょ?」
私「え、いやー、なんだろう…?」
「まだまだだなー。知らないですか? 心霊スポットの岬」
Mさん、伊豆半島の有名な自殺スポットの岬に寄ることにしたんだそうです。これは完全に趣味の一環として。
「夕方くらいについて、岬の駐車場に自転車停めて、海にカメラ向けて、しばらく撮ってたんだけど、まあ何も起きなくて、側のベンチで休憩していたの。元々疲れていたし。そしたら」
Mさんの背後にピタッと車が停まったんだそう。
駐車場広いのに。
なぜか側にピタッと。
「グレーの乗用車でさ。チラッと見た限りカップルが乗ってたの。『……なんだろ? こんな広いのに寄せてきて』って気になってさ」
Mさんはドライバーと変に目線が合わないように、飲み物を飲みながらそれとなく、背後の車の運転席を見たんだそう。
「ゆっくり見たらさ、視界に入ったの。ハンドル掴んでこっちすごい形相で見てる男と、その男の髪を引っ掴んで、こっちに向けさせてる汗だくの女なのよ」
私「……え、向けさせてる? Mさんの方をですか?」
「そう。で、変なのが女は下向いてんですよ。なんか痛み切った茶髪で、表情は見えなかったな」
Mさん、瞬間的に鳥肌立って、慌てないように、それとなく目線戻して、すぐにその場を立ち去ろうとしたそうです。
さっとタオルで顔拭いて、
飲み物のフタ閉めて、
デジカメしまい、
自転車乗り込んで、
車の前過ぎた。
「でも声がしたの。中から。怒鳴り声」
私「怒鳴り声?」
「びっくりしちゃってちゃんと聞き取れなかったけど、『●●たか!?』みたいな、問いただす感じでしたね。超気持ち悪くて…。でも、まあそういうスポットだし、もしかして意を決して来た2人だったのかな……って。なんか、そんな時にこっちと目があって変な感じにしてしまったのかなぁ……って気まずくもなっちゃって」
Mさんはそう思いながら、逃げるようにその場から立ち去り、ホテルまでの道のりに再びこぎ出したんだそうです。
「しばらく漕いでたらもう辺り暗くなり始めてて、そしたらコンビニの光が見えて、寄ったんですよ。自転車停めようと、コンビニ前の駐車場スペース見たらさ、いるんですよね、さっきの車」
私「え、でもMさんの方が先に自転車で出てたんですよね?」
「うん。まあでも、知らぬ間に追い抜かれたのかも、って」
私「…でも、なんでその車ってわかったんですか?」
Mさん急に私の方見て、ため息ついて。
私、思わず「えっ」って。
でも話続けて。
店内は人気もまばらで、Mさんはそそくさと食べ物買い込んで出ようと思ったそうです。
「で、棚曲がったら、あの男がいてさ、こう、コンビニの棚じゃなくて、私に背中向けて、向こう見てるのよ」
「うわっ、ってなったけど、何してんのか気になって目線の先見たら、女の子の店員さんがしゃがんでて、すごいその子を見てるのよ。そしたらバッ! って振り返って私の横抜けていって、私も慌てて避けて。失礼な男だと思いません? これ?」
私「え?」
「失礼だと、思ったんですよ」
私「え…あ、はい」
「会計済ませて出口に向かう時に、コンビニの灯りの脇、出たすぐ横の暗闇に男いて、まためちゃくちゃびっくりしちゃって、小走りで自転車のとこ戻って、そこからそっと男見たんですよ。すごいやつれた顔してた、なんか、誰かに謝っているっぽかったですね…」
私「え……男は1人なんですよね、電話で、とかですか?」
「私も最初電話かと思ったけど、なんていうのかな、違う感じでしたね」
私「違うってどういう…」
Mさんは私の問いには答えてくれず、その後またホテルに向けて自転車を漕ぎだした、と続けました。
暗い夜道。
ポツポツとまばらに立つ街灯。
Mさんはヘルメットのランプを点ける。
時折スマホでホテルまでの道のり調べながら、かれこれ一時間くらい。
「それくらいした時にね、ガーーッていう車の音が聞こえて、『えっ!?』ってなったのよ。だってライトも点けてなくて、結構な速度でこんな山道走る車なんか普通ないじゃない」
私「めちゃくちゃ危ない! 大丈夫だったんですか?」
「私は自転車止めてスマホ見ていたから大丈夫だけど……その車がさ、目の前で停まったのよ。あの車だったのよ」
私「え」
「街頭と私のヘルメットのライトくらいしか明かりなくて、車内も真っ暗で、アイドリングしてる車のエンジン音と、山の虫たちの音だけでさ。もう汗がめちゃくちゃ出てきて、心臓バクバクしてた…。私、絶対この車の横走りたくなくてさ、でも全然動かないし、もう行くしかないなぁ…と。というかそのとき、そう思いたくなかったんだけど、私に用があるよね…この状況…ってなって……」
私「……用がある? え、近づいたんですか…?」
「側通り過ぎようとゆっくり自転車押しながら脇抜ける辺りで、バンッ!! てでかい音して、固まっちゃったの」
「見たらさ、さっきの男でさ、暗い車内からぼんやりとしか見えなかったけど、窓叩きながら何か叫んでるのよ」
私「……え…」
「でも、何にも聞こえなかったの。でも、男はバンバン窓叩いてて……」
ここでMさんなんか黙っちゃって、なんか変な空気になって。
私「あの、で、逃げたんですか…?」
「…うん。その後、男が髪引っ掴まれて、暗闇にグッと消えて、代わりにあの女が出てきて、目が無くてさぁ」
私「え!」
「窓に張り付いてさ、ニオイ? なのかな…それで私を必死に探しててさ。私慌ててホテルまで自転車全速力で漕いでさ、部屋で持ってたお塩、あ、いつも小さいの持ってるんだけど、それ置いて寝たんだ」
私「え…寝たんですか」
「あれはダメだよねー。あの男絶対死んでるよ。許さないもん。あんな男。私なら許さない」
Mさん私のこと見てなくて。変な間で。
そしたら、パッといつものMさんに戻りました。
「めちゃくちゃ怖いでしょ? まあ、ほとんど冗談ですよ!」って。
「じゃあまた!」ってエレベーター行って、私、頭下げてて、パッと顔上げたら、Mさん真顔でこっち見てました。
おわり
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