むくろ幽介の怖い話9【怒鳴る女】
『怒鳴る女』
2017年9月7日にした話
父から聞いた怖い話3つ目。
これは父が元同僚と飲んだ時に聞いた話です。短いしお化けじゃないです。
父の元後輩の林田さん(仮名)が体験した話です。
林田さんは大学生の娘と奥さんの3人暮らし。
父に色々と恩義を感じてくれていて、たまに、独立した父の今の事務所にも挨拶に来てくれるんだそうです。その日もお昼頃に来て、昼飯を食いがてら色々話していたんだそうです。
その時は、父が電車で厄介なサラリーマンに難癖つけられて、喧嘩になりかけた、みたいな話で盛り上がっていたんだとか。
父「押されて当たったから『申し訳ない』って言ったら『チッ…ジジイが…』って言われてさ、あったまきて軽く言い合いになっちゃったよ」
「あー、ありますよね、電車で変な人。僕も数ヶ月前にあって、しばらく電車乗るのやめてたんですよー」
父「そこまでいくか? 変な奴いたら俺なら文句言っちゃうかもなぁ」
「いやいや危ないですよ、マジの人は」
「ある夜、仕事帰りに電車乗ってたんですよ。満員ってほどでもないから、比較的にゆったりと本読んでたら、左側、車両の端からなんか怒鳴り声が聞こえたんです」
父「喧嘩か?」
「いえ、喧嘩じゃなくて、片方が一方的にまくし立ててるんです」
「『だからお前はクズなんだよ。え? お前は孤独なんだよ!! 謝れん人間は一生!! クズ!! え、なあ、クズ!!』って、立っている奴がつり革にぶら下がり、覆い被さるような形で席に座るサラリーマンに怒鳴ってるんですよ」
「本読んでて気がつかなかったんですけど、その怒鳴っている奴、小声でずーっと罵詈雑言言ってて、たまに声荒げる感じというんですか? その大きな声が耳に入って気がついたんですよ」
「いかつい体格のボウズ頭で、斜め後ろから見ていたから男だと思っていたんですけど、どうやら女みたいなんですよ。あれ、あれに似てます、あの森三中の大島!」
父「あー、凄みありそうだなぁ」
「ベージュのダルダルキャミソールみたいなの着てて、とにかく小汚いんですよ。後で気づいたけど、臭いも結構してましたね」
「とにかくえらい怒気で、体もゴツいからなんとなく間に入るのも戸惑われるというか、怒鳴られている方の細身の中年のサラリーマン、怯えちゃってて…まあ、僕もだったんですけど」
父「怒鳴られてる方もなんで怒らないんだろうな」
「うーん、説明が難しいんですけど、すごい圧力のある女で、萎縮してしまったのかも…」
「脂汗かきながら下見てましたね、怒鳴られてる人。その時は車内も異常な緊張感で、僕もずっと見ていたんですよ」
「そしたらその女、話してる途中で突然黙ってこっち振り向いたんですよ」
父「え、どういうこと?」
「いや、文字通り突然。誰も何も言ってないのに、バッ! てこっち見て、誰か探すようにしてんですよ。なんというか、呼んだやつ探してるみたいな。で、俺目合っちゃって…」
父「いやだなぁ」
「ええ…案の定『お前か、今の!!』って言ってきて、俺も慌てて目線逸らして知らんぷりしたんですけど『このカス野郎! 覗いてんじゃねーぞ!! え!? わかってんのかよその意味!!』とかなんとか怒鳴られまして」
「それからしばらく、音だけで様子伺っていたんですけど、なんかブツブツ小声で言ってましたね。多分悪態の類」
父「気味悪い奴だなぁ」
「嫌な感じでしたね。そしたら降りる駅着いて、慌てて目線合わさずにそこ降りたんですよ。帰りに嫌な目にあったなぁって思いながら」
「気持ち悪かったんで足早に自宅のマンションに向かいまして、玄関開けるや家族にその話してひとしきり『不気味だねぇ』だの言い合ったんですよ。で、段々と気持ちも和らいできて、お風呂とご飯食べたらすっかり元気になりまして、タバコ吸おうとタオル首にかけてベランダ出たんですよ」
「火つける前にふと下の通り見たら、いるんですよ、そいつ」
父「いる?」
「はい、いるんです。暗い通りの真ん中で、ビニール袋片手にこっち見てるんです」
「ベランダ開ける音に反応してたみたいで、咄嗟にしゃがんで、パネルの隙間から見てたんですけど、ギリギリ見つかってはいなかったんですけど」
父「なんだそれ…」
「結局、そいつが立ち去るまで待ってからゆっくり中戻りました」
「終電無いんですよ、その時間。ずっと僕のこと探していたんでしょうね。たぶんつけられてた。部屋バレてたらヤバかったかもしれないですね」
父「気持ち悪いなそれー…」
「翌日、マンションの一階の玄関のところにビニール袋置いてあって、排泄物のついた下着が入ってました」
林田さん、その後しばらくは電車に乗らないようにしていたのもあり、それ以降女を見ることは無かったそうですが、電車に再び乗るようになった今もずっと怖いそうです。
おわり
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