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むくろ幽介の怖い話14【火野さんの話】

『火野さんの話』

2018年10月17日にした話

これ、今年の5月頃に実際に聞いた話です。遅くなってごめんなさい。

前に『老人と鱗』の話を聞かせてくれた、元風俗ライターで金髪ベリショのSさん。久しぶりに会いたくなってLINEしまして、色々飲みながら話をしました。

まあまあ酒が回った頃合に、Sさんが「この前、知り合いのヤバめの人に会って、色々変な話を聞いたよ」って言われました。

酒の力もあり、あれよあれよとその場で電話して、横浜でその“ヤバめの人”に会うことになってしまいました。

後日、Sさんと一緒に横浜に行って来たんですよ、私。

その人とSさんは、Sさんが風俗ライターやっていた時に知り合ったらしくて、風俗店の店員や、エロ雑誌のライターとか、まあ、そういう界隈を渡り歩いているフーテンじみた人なんだそうです。


で、横浜の居酒屋。

その人を待って20分くらいした時、店の入り口から「ごめんごめん」と気さくな感じの人が席に近づいてきまして、Sさんが「あー、きた」と。

見た目火野正平みたいだったので、仮に火野さんとしておきます。

ひと通り自己紹介とかをしながら飲みました。

火野さんすごい話上手くて、お酒と相性いい人間というか、いるじゃないですか、そういうある種口八丁な人。
で、30分くらいしたところで、Sさんが本題切り出しました。


Sさん「で、彼が実話怪談を集めているらしくて色々聞きたいんですって」

そしたら火野さん「じゃあ飲み代持ってね」とか言い出して、ちょっと図々しいな…とは思ったんですけど、すごい話聞けそうな予感もしてたので「わかりました」と。

火野さん、知人を含めると色々な怖い話知っているそうで、町中の電光掲示板にずっと話しかけられて鬱になった男性とか、ショルダーバッグに手入れたら指噛み付かれて、見たらバッグから子どもが覗いてて「おい、殺すぞ」と言われた女性の話とか、やばい話色々聞きました。


火野さん、本人が言うには今43歳。

その話は火野さんが7歳の時、1982年、昭和57年の話だそうです。

「俺の母ちゃん、赤ん坊のときに死んでんだけどさ、1982年だったかな、そこら辺の頃に親父がいきなり『大分県の●●って所に引っ越すぞ』って。『新しい母ちゃんに会うから』って連れられていったのよ。でもさ、俺、新しい母ちゃんの話なんてそのときまで聞いてなかったから、親父の冗談だと思ってたんだけど、本当でさ」

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「で、汚ねえ薄暗い戸建ての家に連れていかれてさ。親父が『この人がえみ子さん(仮名)。新しい母ちゃんになるから、挨拶しろ』って言われてさ」

「『あなたのお父さんは、とう(東?)の人なのよ。誇って良いのよ』ってさ、変だよな。なーんか目も合ってねぇっていうか。人に話しているときに、なんつーのかな、話してる振りはしてんだけど、話してない感じっつーかさ。気味悪ぃ女だったよ」

で、火野さん、どうすることもできずにずっとその家で暮らしたらしいんですよ、その女と父との3人で。

お父さん、引っ越すまでは会社員だったらしいんですけど、越してからは何の仕事してるのかよくわからなかったそう。

というか、家にいる日もあれば、数日家を空けることもあったみたいで、家にいる日はたまにその女と「そいつはまともに働いてないゴミみたいな奴だから、あなたは気にしなくていいの。大丈夫。ゴミとおんなじなんだから、ちゃんとすればいいだけ」みたいなよくわからないことを話していたらしいです。

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お父さんが外に出てから戻った時は、女が必ずお父さんに迫って、夜な夜な隣の部屋で情事に及ぶことが多く、寝たふりしてたけど気持ち悪くて寝られないことも多かったそうです。

で火野さん自身はというと、元々すぐに人と仲良くなれる性格だったので、転校先の学校でもすぐに人気者になり、友だちも多かったみたいです。

帰ってきて学校のことをお父さんに話すのが好きだったので、よくお父さんに話していたらしいんですが、引っ越す前と違ってあまり乗り気で聞いてくれなくなったそうです。

「話しかけられるの嫌がる感じっつーの? 『もういいよ。学校であんまり変なのと仲良くなるなよ。ゴミみたいのも多いんだから、汚されたら大変なんだよこっちは……』って、ことあるごとに言われてすごい嫌だったなぁ」

この頃から、先の情事の件もあり、お父さんへの嫌悪感が募っていったそうです。

その女と火野さんは、まあ当然仲良くなく、ろくすっぽ会話した記憶もないそうです。その女方も日中よく外出してて、火野さんは家にひとりぼっちになることが多かったそうです。

そういう日は決まって父と一緒に帰ってきたそうで、女は上機嫌なことが多かったそうです。あと服が汚れていることもよくあったそうです。


それから2年が経った頃、火野さんには1歳の妹ができていました。

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可愛い妹で、色々面倒をみたかったけど、まあ当然その女が面倒みてしまうので、どことなく寂しさを感じていたそうです。

妹が生まれてからは、家の様子も変わったそうで、父は全然仕事に行かずに酒ばかり飲むようになり、よく1人で泣くことも多く、時折急に抱きしめられて目の前で泣かれることも多くなったそうです。

女の方というと、すごく、むしろ少し気味が悪いくらいその妹を溺愛するようになっていったそうです。

である日。

父親がいつになっても帰ってこず、女だけが夕方に帰宅したんだそうです。

「『お父さんどこ?』って聞いても無視されてさ。大喧嘩になったんだよ。そしたらさ、なんか汚れた手で思いっきり俺をビンタした後にさ、その女がさ、包丁持ち出してきてさ。『妹と車に乗れ』って言うんだよ」

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火野さん、雨の夕方に妹と一緒に女に連れ出されて、軽自動車で数時間連れ回されたんだそうです。

「着いたらどっかの田舎道でさ。もう暗くなり始めてたよ。妹は大泣きしてるしさ。『車から降りなさい』って怒鳴られて、降りたら、女が妹抱きかかえてさ、つかつか歩いていっちゃうんだよ」

火野さん、すごく不安感を覚えて、大声で「妹を返せ」ってわめき散らしたそうです。するとその女は仕方が無い、という感じで火野さんも連れていったそうです。

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「誰もいねぇような、変な辺りでさ。そこの一軒のボロ屋、つーか廃屋だな。そこに入っていってさ。そんときだよ、おばけ見たの」

私「え、おばけ?」

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「そう、敷地の庭やボロ屋のすき間からさ、きったねぇ格好のおっさんやババアが覗いてんだよ。でも、あれは絶対におばけだね。親父もいたし」

私「え、親父?」

「死んだんでしょ、多分。どうでもいいけど」


火野さんお酒おかわりして、俺も汗拭いてからお酒飲んで、Sさん下向いてて。


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「で、中はいるとさ。あいつ『ただいま〜ただいま〜』って。雨漏りしててカビくさくてさ。もう本当嫌だよ……はぁ。ろうそくがいっぱいあんだよ。あの女せこせこせこせこ火付けてまわってさ…あとボロいラジカセのスイッチいれてさ、流れてくんだよあの曲がさ」

私「え、曲?」

「昔むかし そのむかし きつねと さると うさぎが おりましたってさ。『月のうさぎ』。知らない?」

私「えっ、知らないっす」

「まあいいや。でさ、それ流して女歌い出してさ。でも俺さ、壁中に貼られてる変な紙に目がいってさ。これ、殺されるな、って動けなくなっちゃったんだよ」

私「紙ってなんですか?」

「いや、俺もわかんねーけどさ、気持ち悪かったよ。でよぉ…ふと気づくといねぇんだよ、そこにいた女と妹がさ。で、泣きそうになってさ。親父に会いたくてさ、でもよぉ、あの泣いたときの親父の顔しか出てこねぇんだよ」

で、火野さんちょっと泣き出しちゃって、俺とSさん慌てて「大丈夫ですか!?」って。

「でも、親父が教えてくれたんだよ。二階だって分かってさ。慌てて階段上がっていってさ」

「そしたらさ、『すると うさぎは たき火のなかに 身をなげて』ってアイツが妹持ち上げててさ、床に空いたデカい穴に落とそうとしててさ。俺、泣きながらアイツにしがみついてさ、アイツ俺を思いっきり振り払って『お前じゃねーんだよこのガキが!』ってよ。で、俺よろけてさ、穴に落ちちゃったんだよ」

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「ラジカセの音とさ、雨の音とさ、妹の泣き声がぐ〜〜〜ってこう、混ざるんだよ……でよぉ、あいつの目がさ、俺を睨むんだぁ」

「で、ドン! て落ちて、多分、10分くらいかな、わかんねーけど、目覚ましてさ」

私「え、気絶したんですか?」

「たぶんな。起きたらさ、誰もいねぇんだよ。雨止んでるし、音もしないし、妹の泣き声もしねーの」

 私「え、でも…」

「知らねぇよ。でもいねぇんだよ。でさ、起きてボロボロで外出てさ。明るいんだよ外、昼なの、ははは」

私「え、え、昼?」

「外に乗ってきた軽あってさ。ガラス見たらさ……はっはっは……俺、男になってたんだよ」

火野さんここでめちゃくちゃ笑ってて。

Sさんと俺固まっちゃって。

私「え……どういうことですか?」

「だからさ、俺、落ちる前までは女だったんだよ。で、あの女と妹はそれ以来どこにもいなくてさ。家帰ると、親父、普通にいてさ。飲んだくれててさ。高校の頃に家出してよ。そっからまあ色々あって、今に至るわけよ。どう、怖いだろ?」

火野さん笑ってて。

私、本当、そのとき意味分からなくてちょっと泣きそうになっちゃって、Sさんも青ざめてて、小声で私に「ごめんね…」って、で、私も「大丈夫ですよ大丈夫ですよ」しか言えなくて。

火野さんトイレ行って、戻ってきたら最初の頃の感じに戻ってました。

その後、火野さんは女好きになっていったそうで、何度か結婚もしたらしいですが、毎回うまく行かず、いつしか水商売の世界に行って、Sさんとも知り合いになったそうです。

「でもよぉ、どの女抱いてもさ、満足しないっていうか、あの女、母ちゃんみたいな女を男は探しちゃうわけよ!」

「ありがとうございました」って言って帰ろうとしたときに、火野さんが「嘘だと思ってるだろ」って、で、「え、いやまぁそれは…」って濁してたら、火野さんかばんから紙出してきて。

「今でもよぉ、うちのFAXに届くんだよ。多分、あの女なんじゃねーかなってさ」って、クシャクシャの紙出してきて。

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これなんですけどね。

「また聞きたくなったら話してやるよ」って言ってましたが、そそくさと別れて解散しました。

Sさんには「ごめんね、あんな話私も初めて聞いたし…」って言われましたが、私も謝って変な感じになりました。

意味不明だけど、この話はこれでおわりです。


後で、調べたけど、『月のうさぎ』はこの曲っぽいです。

https://www.youtube.com/watch?v=0RsUDFcpGBY&feature=youtu.be



おわり

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