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むくろ幽介の怖い話7【町工場1955】

『町工場1955』

2017年9月7日にした話

その日、やっとこさ今の家に引っ越しまして、飲み屋で父と話していたら「実はあの家幽霊いた」とか言い出して大慌てになりました。確かにジメジメとやる気を吸い取られる薄暗い家ではあったんですが。

そのときに聞いた話です。

前の家、湿気と埃まみれ、挙句日は差さずという、築70年のボロ家だったんです。父の実家。

前々から何となくマジで嫌な空気はあって、父にその話をすると「実はさ……」と物々しげに語り出すので、私が頑なに訳を聞くの拒否してたんです。それでも事あるごとに漏れ聞いていて、今日やっと引っ越したので、タイミング的に今かな、と思って聞いて明らかになった話です。


父が小学生だった1950年代のこと、集団就職で、 父の家の向かいにあった工場の“●●製作所”にも、東北から若者がたくさん来ていたんだそうです。

この製作所は、バイクの部品を作る中小企業で、私の破天荒な祖父も、その昔勤めていたことがあって、隣人という枠を超えて、何かとお世話になっていたそうです。

父は当時好奇心旺盛で、日々隣から聞こえてくる金属をカットする作業音に耳そばを立て、窓から隣を覗いていたそうです。

ある日、窓から隣を覗いていたら、20歳くらいの作業員のお兄さんが「坊主興味あるか?」と声をかけてくれ、それ以来作業の合間に金属の加工テクを色々教えてもらったんだそう。

父は削りカスから手裏剣を作り、お兄さんのアドバイスで焼き入れを庭で実践するくらいの悪童には育ったそうです。

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「五寸釘を線路に並べておけば、一瞬でナイフできるよ」というお兄さんの囁きに負け、電車を脱線させたり(もちろん事実は定かではありませんよ)と、仲が急速に縮まっていたある日の夜。

隣の製作所から叫び声が聞こえ、近所がにわかに物々しい雰囲気になったそうです。

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警察のパトランプが赤々と光り、近所の人が家から出てきている。
いつも夜遅くまで働いていた私の祖父もその日は早帰りしており、いつもと違う空気に気がついて家族ともに表に出たそうです。

当然好奇心の塊だった父も、当然野次馬に埋もれながら、隣の様子を伺ったそうです。

父「そしたらさ、真っ赤に染まった大きな布の塊をさ、警察が工場の前でビニールに包んでんだよ」

私「えぇ……工場で事故?」

父「いや、近くの線路。 跳ねられたみたいでさ、3つに弾けたんだと。で、警察が身元確認で来たんだよ」

私「3つの塊…」

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亡くなったのは、父と仲がよかったその20代の青年だったそう。

退勤後、線路で跳ねられ、即死だったそうです。

父は祖父に「お前は帰っとれ」と怒鳴られ、現場にいた祖父、祖母、兄貴たちと分かれ、一人家に帰って二階の寝床に行ったそう。

それから数十分後、寝付けない父は、二階の部屋から出て、裸電球が角にポツンとあるL字型の階段をトントントンと降り、階段の前にあるトイレに向かったそうです。

父「みんな遅いなーって思っててさ、丁度その時だよ。俺の名前を後ろから呼ばれたんだよ」


「え?」

「おーい」

「……死んだじゃん…」

「……そうか……はあ、そうなのか」

「え?」

「…………」

「…ト、トイレ行くから」

「おう」

父「で、トイレ入ってさ、思い返したんだよ。『階段座ってたなー』って。『ドアの向こう、こっち階段から見てるよな』って。急に怖くなってさ、ドアノブ握りしめて家族の帰り待ってたんだ。そしたら玄関開く音が聞こえて、みんな戻って来たんだ」

父「みんなに泣きついて説明しても『不謹慎よ。バカなこと言うんじゃないの』『ちょこまか行って現場見ちゃうからよ。お兄ちゃんちゃんと止めなさい!』とか騒ぐだけでさ。まあ、信じてくれんのよ」

私「いつも使ってたあのトイレだよね……?」

父「そう。ま、これだけなんだけどさ」

以降出ることはなかったそうです。

私、前の家での自分の部屋が当時父が使っていた部屋で、寝るために二階上がる時、なんとなく後ろ振り返りたくない感じは、今思うとしていました。

階段上がり、自分の部屋のドア閉めるまで、何かに追われている焦燥感があったというか。


この話自体はここで終わりなんですが、この話をTwitterに投稿してからしばらくして、フォロワーさんにこんなようなことを言われました。


「『線路の人』ってこの人…?」
「線路で下半身しかない≒身体がバラバラってねえ…事故のあった線路は例の線路なのかな」


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ちなみにここです。


おわり

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