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不条理短篇小説

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現世に蔓延る号泣至上主義に対する耳毛レベルのささやかな反抗――。
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2021年9月の記事一覧

短篇小説「匂わせの街」

短篇小説「匂わせの街」

 冒険の途中でふと喉の渇きをおぼえたわたしは、夕暮れどきに立ち寄った街でカフェのドアを開けた。

「いらっしゃい! そういえば最近、夜中になると二階から妙な物音がするんだよ」

 カウンターでカップを拭っている髭のマスターが、ありがちな挨拶に続けてなにやら唐突な相談を持ちかけてきた。さすがに気になったので、初対面ではあるが、わたしはボタンを押してもう一度話しかけてみた。すると、

「いらっしゃい!

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145字小説「駆け出しのAI」

145字小説「駆け出しのAI」

 私の自動車にはAIが搭載されている。私はその実力を試すように、崖の手前に差しかかったところでAIへ指示を出す。

「アホクサ、ブレーキかけて」
「はい、かしこまり」

 すると自動車のブレーキが、脱兎のごとく駆け出した。私は奈落の底へと沈みゆくマイカーの中で、この文章を書いている。

 アホクサに漢字は難しい。