井上智公

ライター/編集者/構成作家。『ROCKIN’ON JAPAN』等に寄稿。元『週刊少年ジ…

井上智公

ライター/編集者/構成作家。『ROCKIN’ON JAPAN』等に寄稿。元『週刊少年ジャンプ』編集者。ブログ『泣きながら一気に書きました』https://tmykinoue.hatenablog.com/

マガジン

  • 不条理短篇小説

    現世に蔓延る号泣至上主義に対する耳毛レベルのささやかな反抗――。

  • 名文引用箱

    読んだ本の中から名文を引用し箱の中に放り込んでゆきます。

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最近の記事

短篇小説「部活に来る面倒くさいOB」

「お~いお前ら、遅いぞ走れ~!」  退屈な一日の授業を終えて昇降口から外に出ると、ひどく細長いノックバットをかついで校庭のマウンドの土を退屈しのぎに足裏で均しながら、声をかけてくる薄汚れたウインドブレーカー姿の男がいる。部活に来る面倒くさいOBだ。  監督はいつも遅れ気味にやってくるが、部活に来る面倒くさいOBはだいたいいつも先にいる。時にはベンチで煙草を吹かしながら、「お前らは吸うなよ~」と矛盾したことを平気で言ってくる。よほど暇なのだろう。週に三日はコンスタントにやっ

    • 短篇小説「面接の達人」

       先日、私はとある企業の採用面接を受けた。特に入りたい会社ではなかったが、こちらにだって特にやりたいことがあるわけではない。私はいつもの如くエントリーシートに、それらしい自己PRと志望動機を書き込んだ。もちろん本当に思っている内容など一文たりとも含まれてはいなかったが、もしも律儀にそれをしたならば、「自分には特に何も能力はない」「何もせずにお金が貰いたい」と表明することになってしまうのだから、こんなところに本音を書く手はない。  一週間後、そんな嘘まみれのエントリーシートが

      • ChatGPT短篇小説「とにかく穿かない安村」

        【※以下の小説は、題名以外すべてChatGPTに依頼して書いてもらったものである。】  安村はとにかく穿かない男だった。彼は何かしらの理由で、常にパンツやズボンを穿くことを拒否していた。友人たちは彼のこの奇妙な癖に首をかしげつつも、彼の個性的な生き方を受け入れていた。  ある日、安村は仕事の会議に出席するため、会社の上層部との重要な交渉が待ち受けていた。しかし、安村は相変わらずズボンを穿くことなく、大胆にもスーツの上からボクサーパンツを露わにして会議に臨んだ。  最初は

        • ChatGPT短篇小説「ヒップホップ奉行によろしく」

          【※以下の小説は、題名以外すべてChatGPTに依頼して書いてもらったものである。】  江戸時代、秋田藩。藩主の命により、藩内に新しい文化を広めるべく、奉行として知られる者が選ばれた。しかしその奉行は、通常の武士らとは異なり、ヒップホップ文化を愛する異色の存在であった。  奉行の名は桜井韻蔵。彼は着流しに金のネックレス、そして江戸っ子のようなリズム感を持ち合わせていた。韻蔵はまず藩内の広場で、ヒップホップのリリックを披露し、人々にその新しい文化を紹介した。  最初は戸惑

        短篇小説「部活に来る面倒くさいOB」

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          短篇小説「魔法の言葉」

           よく晴れた朝だった。門を抜けて通りに出た一歩目で、わたしは靴に襲われた。誰かに蹴られたという意味ではない。それは雲ひとつない空から降ってきたのだ。  しかしそんなことがあるはずはなかった。雲は雨や雪を作るが靴は作らない。だいいちそんな雲さえ、この日の空にはひとつも見あたらなかったのだから。 「痛っ!」  靴の奇襲攻撃を受けたわたしは、蹲って素直な感想を口にした。すると道の反対側から、片足を上げたけんけん走りで寄ってきたスーツ姿の男が、満面の笑みを浮かべてわたしにこう言

          短篇小説「魔法の言葉」

          短篇小説「新語・流行語全部入り小説2023」

           下心にまみれた男たちの懐に潜むなけなしの10円パンを、頂き女子が無慈悲にカツアゲしてまわるこの現代社会。そんな新しい戦前の時代に革命を起こすべく誕生した新しい学校のリーダーズには、様々な裏稼業を請け負う「別班」――ここであえて「VIVANT(ヴィヴァン)」と発音してお洒落国フランスに憧れるのをやめましょう――と呼ばれる闇の組織が存在する。これはいわば公然の秘密である。  本家の首振りダンスに対して、別班は首狩り任務ばかりおこなっていると揶揄されることもあるが、彼女らは表舞

          短篇小説「新語・流行語全部入り小説2023」

          短篇小説「迷惑系ユーチューバーひろし」

          〈迷惑系ユーチューバー〉のひろしが、今日も他人様にしっかり迷惑をかけている。他人に迷惑をかけているからこそ、彼はそう呼ばれているのだ。だがその肩書きが、本当に現在の彼にふさわしいのかどうかは誰にもわからない。そもそもそんな「系」など、つい最近までこの世に存在していなかったのだから。少なくとも、我が銀河系には。  そんな〈迷惑系ユーチューバー〉ひろしのもとへ、ある日一通のメールが届いた。 《迷惑を、かけてほしい人がいるんです》  件名にはそう書かれており、差出人のアカウント名

          短篇小説「迷惑系ユーチューバーひろし」

          短篇小説「ピンと来ない動詞」

           今朝、わたしはふと気が生えたのでした。わたしの言葉が、どうもわたしの動作を的確に茹で上げていないということに。  いつものように、わたしは駅へと歩を注いでいました。もちろん、わたしを会社員として抱き締めた会社へと潜るためです。潜るといっても、わたしはスパイではありません。れっきとした正社員なのですが、なぜかいまは潜るという言葉しか芽吹かないのです。  前にはびこる乗客に続いて、わたしはパスケースで自動改札を奪いました。これは「唇を奪う」というような意味でありまして、あん

          短篇小説「ピンと来ない動詞」

          短篇小説「弁解家族」

          「なんだよ、観てたのに」  酔っぱらった末にソファーで横になっていた夫が、急に喋り出したので妻は驚いた。夫は咄嗟に妻の手からリモコンを取り返すと、テレビに向けた。 「観てたって、何を?」  再び叩き起こされた画面に映し出されていたのは、真夜中の通販番組であった。元グラビアアイドルが、台本どおりの大袈裟なリアクションで矯正下着を売っている。しかし実際に下着を着用しているモデルは、どうやら素人の体験者のようだ。通販番組に出るような段階のタレントは、もう絶対にそのような姿でテレビに

          短篇小説「弁解家族」

          「新語・流行語全部入り小説2022」

           とある昼下がり、頭から色とりどりの女性用下着をかぶった顔パンツ姿の中年男性五人が、中華料理屋の回転テーブルでガチ中華を囲んでいた。そこは店の前に猫よけのペットボトルが並び、軒先にカラスよけのCDが吊されているような古びた中華屋であった。  全員が薄手の布をかぶって向かい合うその様子はまるでスパイ組織のようでもあったが、彼らが読んで育った漫画は残念ながら『SPY×FAMILY』ではなかった。彼らはいわゆるOBN(オールド・ボーイズ・ネットワーク)、つまりかつて『BOYS B

          「新語・流行語全部入り小説2022」

          時事コント「まさかり問答」

          空港の保安検査場。ひとりの男が、セキュリティゲートを通過する。 金属探知機「ピーッ!」 保安検査員A「ちょっと失礼します。なにか金属製のものはお持ちですか?」 男「特にないよ……あ、もしかしてベルトかな?」 男、再びセキュリティゲートを通過。 金属探知機「ピーッ!」 男「もう何もないぞ。機械の故障じゃないのか?」 保安検査員A「いえ、そんなはずは……」 保安検査員Aの上司らしき男が、異変を察して近づいてくる。 保安検査員B「どうしたの?」 保安検査員A「こちらのお客

          時事コント「まさかり問答」

          短篇小説「二次会の二次会」

          今夜も我ら「二次会」は大いに盛り上がった。「二次会」といっても正確にはまだ「二次会」の一次会で、これから我々はいよいよ「二次会」の二次会へと向かうところだ。 我々が言うところの「二次会」というのは二次的、つまり各所で副次的な役割を果たす人間の集まりで、副部長、副店長、副支配人、副キャプテンなど、その肩書きに「副」の字がつく人々が一堂に会するサークルである。それぞれが副次的な役割に甘んじているがゆえに、そこは自然と愚痴の温床になる。ゆえにサークルというよりは、いっそ秘密結社と

          短篇小説「二次会の二次会」

          短篇小説「芝生はフーリッシュ」

           どうやらわたしは公園のベンチで、サングラスを掛けたまま眠り込んでいたらしい。おかげで昼か夜か、起きてすぐにはわからなかった。サングラスを外すと、これまでに見たことのないような、色とりどりの世界が目の前に広がった。色とりどりにもほどがあった。それはつまり自動的に、夜ではないということになる。  正面にフーリッシュグリーンの芝生が広がり、それを囲い込むように配置されたオールドスクールレッドのベンチの脇には、ミートボールブラウンの土に満たされた花壇が並んでいる。  花壇のそこ

          短篇小説「芝生はフーリッシュ」

          書評『無理ゲー社会』/橘玲

          読み終えて残るのは、ディストピア小説の読後感である。だがこれは、フィクションではないようだ。この先に透けて見える未来像が現実になるかどうかはわからないが、少なくともスタート地点がいまここにある現実であることに、間違いはない。そう、残念ながら。 いかにも近ごろの新書らしい、狙いすぎのようにも感じられるタイトルに釣られて安易に手に取ってみたが、読み進めてゆくうちに、現代社会の問題点を容赦なく炙り出すその内容から目が離せなくなった。 一章目のつかみに『君の名は。』を持ってくるあ

          書評『無理ゲー社会』/橘玲

          ショートショート「感謝しかない」

           今朝はあやうく寝坊するところだったが、スマホのアラームがちゃんと鳴ってくれたお蔭で予定どおり起きることができた。スマホには感謝しかない。  それ以前にベッドがあるお蔭で、僕は寝坊するほどに眠ることができている。ベッドにも感謝しかない。  もちろん寝るために必要なのはベッドだけじゃなかった。枕にも布団にも感謝しかない。シーツはもうところどころ破れかけてはいるけれど、破れないように頑張ってくれているのがわかるから、結局のところ感謝しかない。  羽毛布団からは頻繁に羽が飛び

          ショートショート「感謝しかない」

          短篇小説「ワンオペ村」

           同期一の出世頭と目されていた業田作一郎が、ある日仕事で重大なミスを犯した。彼はその責任を負わされて、このたび離島のワンオペ村へ飛ばされることになった。ワンオペ村はその名のとおり、何から何までワンオペでおこなわれると評判の村である。彼は転勤前から、その噂に戦々恐々としていた。何から何までというのが、どこからどこまでなのかがさっぱりわからなかったからだ。  転勤先のワンオペ村支店に出社する当日の朝から、作一郎はさっそくワンオペの洗礼を受けることになった。この村では、まず新居で

          短篇小説「ワンオペ村」