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いにしえより伝わりし「オタクあるある」が集結した腐女子活動の歴史書『腐女子になって四半世紀経つとこうなる~底~懐古編』

エッセイコミックを中心にオタクの生態を描く「オタク漫画」は一大ジャンルになりつつあります。

「オタクあるある」を描くものから自分の体験記を描くものまで幅広く、御手洗直子先生の『腐女子になって四半世紀経つとこうなる~底~懐古編』(一迅社)もそのひとつ。

ツイッターもピクシブもない時代に、腐女子はいかにその情熱を表現していたのか。かつての同人誌即売会はどんな雰囲気だったのか。経験者も、そんな時代を知らない人も、オタク(特に腐女子)の歴史を垣間見たい人に必読の歴史書です。

腐女子は四半世紀、いったい何をしてきたのか

御手洗先生は『31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる』(新書館)や『おたくマンガ家ママデビュー! つっこみが止まらない育児日記』(ベネッセコーポレーション)などを手がける漫画家です。どの作品も鋭いツッコミ視点で面白く、その御手洗先生がかつてのご自身の同人活動を振り返られたのが今回の『腐女子になって四半世紀経つとこうなる~底~懐古編』です。

もちろんこの同人活動は「原作を読む→萌える→たぎる思いを漫画/文章で表現する」または「原作を読む→好みのカップリングを見つける→神々の作品を読む」というサイクルです。

しかし、なんといってもタイトルにあるように「腐女子になって四半世紀」の方のお話なので、もはや今の腐女子の活動では消えてしまったもの、レアになってしまったものが相次ぎ登場します。懐かしいと思う人と、宇宙人の言葉を聞いているように思う人と、世代や関わったジャンルによって受け止め方が大きく分かれるところです。 

インターネットが登場する前、オタクは同人誌の発行情報をどこでキャッチしていたのか。作家はどこで作品を公開していたのか。ファン同士はどこで同志を見つけて情熱を交わしていたのか。そしてインターネット登場後、腐女子はインターネットの海をどう泳ぎ回っていたのか。なぜ一定以上の世代の女性はホームページを作ることに抵抗がないのか。御手洗先生の幅広い経験から、素晴らしいサンプルが提供されます。

オタク女子の「個人サイト」という名の深い海

興味深いのは同人グッズの変遷です。御手洗先生の時代は、「レインボー便箋」「ラミカ」ですが、今は紙モノからマグカップ、マスキングテープ、ノート、ポーチ、キーホルダーとすごく豊富になっています。

個人的には同人サイトがすごく懐かしかった(もちろんいまでもあります。最近は同人サイトからピクシブに移行する人が増えております)。私自身は、もはやどこで同人サイトを見つけたのかはっきり覚えていない(おそらくコミケのカタログから)のですが、とある個人のサイトからランキングサイトに飛んで、さらにランキングサイトに登録していない人のサイトへ相互リンクから飛んでーーーとしていると読める作品が無限に増えていくのです。

ガラケー時代に、ついつい旅行先で読み始めた作品が素晴らしすぎて、翌月の携帯電話代の請求が10万円を超えたことも思い出しました。(このとき使っていたのは、ソニーのSO902i。今から思うとあんな小さな画面でよく読めたと思います) 

高山先生のコミケに関する貴重な証言

御手洗先生はすでに当時から印刷会社で同人誌を作り、イベントに出られていたので、コミックマーケット(以下コミケ)など即売会の思い出話も豊富です。コミケについては運営側も「正史」を出していますが、参加者側の視点はまた面白い。東京ビッグサイトで開催されているコミケに、私たちは今や電車やバスといった公共交通機関で行くことができますがコミケが晴海開催の時代は最寄り駅はなく、バスか30分以上歩いて会場に向かったとのこと。

なお、特に大手と言われるサークルの活動に興味のある方は、コミケの大手サークルの1人だった漫画家・高河ゆん先生のインタビュー漫画は必読です。都市伝説は伝説ではなかったことを実感できます。 私は「自分オンリーって何ですか・・・」となりました。

残ってほしい…多種多様な同人活動の記憶

同人活動については、コミケのカップリング表記の分析から、これまでどういった作品のどのようなカップリングが人気で、コミケでどのような作品を頒布するのがオタクの間で人気なのか、を調べる研究が有名です。

しかし個人活動が中心である同人活動の歴史は、誰も語らなければ忘れられてしまう。

特にインターネットなどで、個々の活動が可視化される前の時代については記録が少なく、ともすれば歴史が書き直されてしまうことすらあります。

その点で、御手洗先生らの「体験/記憶」を共有していただけたのはありがたい。腐女子を含め、オタクにはそれぞれの活動史があり、今後もっとその共有が進めば面白いなと思います。

コミケのない2020年こそ、コミケの思い出を読みたい

 新型コロナウイルスのまん延で、残念ながら2020年5月の「コミックマーケット98」は中止、冬に予定されていた「コミックマーケット99」は21年のゴールデン・ウィークに延期になりました。結果的に「2020年はコミケが開催されない年」ということになります。

一方で、新型コロナの感染が続き、リアルな場所でイベントが開催できない間も、ツイッターなどでエアイベントが開催されました。オンリーイベントなど小規模な同人誌即売会は少しずつですが復活の兆しが見え、オリジナル同人誌即売会「コミティア」は11月の開催を予定しています。『腐女子になって四半世紀経つとこうなる』で過去の史実に思いをはせながら、どんな環境でもオタク活動ができる幸せをかみしめたいものです。

WRITTEN by bookish
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