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どんなに「ブラック」と言われても、やってる本人はハッピーな仕事もある『どうらく息子』 本人次第で人生の満足度は激変するんです。
※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)
【レビュアー/堀江貴文】
私は落語を、それもホールで一度しか見たことがない。席が遠かったのが悪かったのか、それとも前日夜更かしして寝不足だったのが悪かったのか、ほとんど寝ていた覚えしかない。
そんな落語をもう一度見に行きたいと強烈に思わせる漫画がこの『どうらく息子』だ。
作者の尾瀬あきらさんは『夏子の酒』という感動的な漫画で本格日本酒ブームを作り出したといっても過言ではない人物。とにかく涙を誘う物語作りでは定評がある。奈津の蔵や蔵人などの日本酒ものならばわかるのだが、最新作はなんと落語ものであった。
保育園でアルバイトをしていた主人公は本気でやりたい事が見つからない、その辺によくいる若者だ。ひょんなきっかけで落語に誘われ、そしてそこで演じられた「時そば」に魅せられてしまい保育園を辞め弟子入り志願をしてしまうのである。
その経緯もまさに落語の登場人物さながらのエピソードであり、そして泣かせるシーンが頻出してくる。とにかく泣けるのである。
思えば落語の世界なんてのは超保守的で権威主義、朝から晩まで師匠の奴隷の如く無給で働かなければならず、体力のないものは簡単に脱落してしまう世界なのである。ブラック労働なんてレベルではない。
しかしその世界に魅せられた主人公はそれを厭わない。目標が全くなかったこれまでの生き方に比べれば好きな落語の世界で集中できるほうがよっぽどマシなのである。というより幸せの絶頂というべきか。
幸せの尺度なんてのは人それぞれだろう。給料の多寡に一喜一憂する人生よりは、好きなことに集中しているほうが幸せなことは多いはず。それは本人にしかわからないことである。
この作品はそんな基本的なことをわからせてくれるだけでなく、それを本当に上手く落語の古典にマッチさせたストーリーに落とし込んでいるのが凄い。
毎巻泣きのポイントがあり、飛行機の機内で目を腫らしながら読んでいてCAが不審そうな目で見る位であった。