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【ライブレポート】遊佐未森が作り出す"愛(あい)"と"藹(あい)"(遊佐未森 と duo MUSIC EXCHANGE 〜REMO-MIMO〜 @渋谷duo MUSIC EXCHANGE)

0.緒言

2020年9月のある日に、遊佐未森さんが10月に配信ライブをやるという話をTwitter経由で知った。

昨年、遊佐未森さんのデビュー30周年ライブを見逃した身としては(ライターとして独立していたのでスケジュール調整は容易だったというのに。アンテナ不足を呪ったものだ)


この新型ウィルス蔓延の世にあってはやはりまだ有観客でのライブは難しいか、と思ったのもつかの間。よく見ると人数限定で会場に人を入れるとな!と。

貴重な遊佐未森さんの初の配信ライブを生で見れる!これは是が非でも行かねば!!と思い即購入。結果としてライブ3日前にメールで届いた整理番号は20番台、かなり前の席での観覧が叶うこととなった。

―2020年10月21日水曜日。

その日、ぼくは気合を入れて大嫌いな渋谷の街に16時入り(3時間前)し、カラオケ店へ直行。そこで3年半ぶりに声を出してきた。しかしこれはライブとは一切関係がないのでまた別の機会にでも。

ともあれ3時間歌ったあと、メールで指定された目安の入場時間に渋谷duoへ向かったのである。

01.ライブハウスの万全の感染対策と、ライブハウスへの"愛"

渋谷のライブハウスに行くのはコロナ禍に入ってから初めてで、噂には聞いていたけれど、Crestの向かいにあったgladが建物そのままに閉店している光景などを初めて観て、この異常な事態を初めて実感した思いだった。

ライブハウスは早々にクラスターを出してしまったことや、「夜の街」と一括りにされたことで真っ先に矢面に立たされてきた業界である。

これまでも自分が何度も撮影やイベントでお世話になった新宿RUIDO K4、初めてウラニーノを観た六本木morph tokyo、自分がカメラマンとして成長させてもらったライブイベント「オルガズム」の3会場同時開催の時にも会場になった渋谷glad.とさまざまなライブハウスがこの苦境の中で次々と斃れていった。

世間からの逆風に晒され続ける中ライブハウスは生き残りを賭け、通常の業界よりも更に念には念を入れた各種対策の整備と実施を迫られた。渋谷duoの対応ではその努力の結晶を見たような気がした。

まず、指定入場時間を設ける「分散入場」である。開場の19時から開演の20時までに計4段階の指定時間を設け、全100名の入場客を効率よく入場させていく。

そして受付での検温と手指消毒は勿論、驚いたのが消毒液を浸したタオルを使った「靴底消毒」と、ドリンク引き換えと同時の連絡先確認。そして入場するまで忘れていたが「全席が番号指定席」であり、ドリンク引き換えは透明シート越しで缶や瓶といった蓋つきの飲み物のみ。更にはトイレの入場者数の制限まで。

感染リスクを最小限に抑えようとする渋谷duoの徹底ぶりを見せられ、心が震える思いだった。主要な交通手段である電車も、皆が働くオフィスも、飲食店や公共施設でさえも、ここまでしっかりと徹底された対策は見たことがない。

むしろ今ではライブハウスほど感染防止策を徹底させている場所はないんじゃないか?と思ったものである。そうしたきめ細やかな配慮が徹底された会場だからこそ、遊佐未森さんも"愛"をこめて『遊佐未森とduo MUSIC EXCHANGE』を主題に掲げたのかもしれない


02.「ユングフラウ」が織りなす音楽世界としての"藹(あい)"

遊佐未森さんといえば『檸檬』というカバーアルバムも出していて、自分が好きな曲でもある『レモンの木』という曲があるくらい、遊佐未森=レモンのイメージがある。

その為、僕は開演前のドリンクに「レモンサワー」を選び、開演まで少しずつ飲んでいた。程よい酸味とアルコールの心地よさ。南インドで泊まった「レモンツリーホテル」の石鹸のいい匂いを思い出しながら、今か今かと開演を待っていた。

詳しくは別の機会に述べたいので割愛するが、僕は遊佐未森さんの曲を長年聞き続けていながら、ライブに行ってはいなかった。しかし少なくとも大学生になるまでには既にCDを持っていて、日本では勿論、20歳の時に行ったイタリアでも、27歳で初めて行ったインドでも、遊佐未森さんの曲を聴いていた。

そうしたいわゆる「音源厨」だった自分がようやく遊佐未森さんの曲を、しかもこのコロナ禍にあって、初めて生で聴けるのである。否応なしに胸の鼓動は高まるし、心は踊りだす。

その気持ちが伝わったわけではないだろうが、1曲目はアルバム『ブーゲンビリア』から『ユングフラウ』。遊佐未森さんらしい透明感のある潤やかなハイトーンと、パーカッション楠均さんとギター西海孝さんが織りなす優しくも躍動感のあるグルーヴ。

そこにあったのは、遊佐未森さんを初めて聞いた時もその場にあったような、「草木が盛んに茂るさま/おだやかなさま」を意味する"藹(あい
)"の文字
であった。


03.「バースデイ」に込められた、ファンへの"愛"

2曲目の前に、MCがあった。ここで遊佐未森さんの生の「話し声」を初めて聞くことができた。これで個人的には完全にこれまで守り通してきた遊佐未森童貞を捨てたことになる。

MC中、楠さんと西海さんが軽快なリズムを保っていた。その中で遊佐未森さんはいきなり

「今日誕生日の人はいますか?」

とおっしゃり、見えなかったが女性の方が手を挙げていらっしゃったようだ。

「あっいた!お誕生日おめでとう~」
「女性だからいくつになったのか…言いにくいかな?」

とはにかむ遊佐未森さんが微笑ましい。

そして始まった『バースデイ』のコーラス・アンサンブルがまた素晴らしい。このメンバーで長年cafe mimoをやってきただけあって、貫禄すら感じさせる安定感である。

『バースデイ』を聴きながら、自分はこの場にいられることの幸福感と満足感を早くも感じていたが、どこか「ここまで来たら逆に守り通してもいいのでは」と思っていた遊佐未森童貞への一抹の未練もあった。

しかしそれも、通り過ぎた花壇の花の残り香のように、冷やしたチョコレートの風と共にゆっくりと消えていった。

そして続けて配信ライブということで海外から見ているお客さんにも流暢な英語でご挨拶。

Thank you watching my "REMO-MIMO" 

「リモミモ」を見事に噛むあたりがまたかわいらしい。笑 締め括りには

Please relax & enjoy! Thank you!

海外の視聴者に対する"愛"をしっかり示したのだった。

そして続けて披露された『ネクター』『WATER』は日本国内の古参ファンをも喜ばせる選曲だったといえるだろう。曲間MCで、この日仕事の後に駆けつけてくれたファンへの感謝も忘れない。

NHK教育の番組「おかあさんといっしょ」のために書き下ろしたという新曲『きみといっしょにいると』も、聞いてくれるであろうお子さんだけでなく、お子さんを見守る親御さんにも届くような曲にしたと解説されていた。それに相違なく、とても優しく"愛"のある曲だった。

新曲の初披露で満足したのか、次曲『安里屋ユンタ(竹富島の古謡)』をすっ飛ばして休憩に入ろうとしてしまうなど、前半は最後まで見逃せない遊佐未森さんの"愛らしさ"で一杯だった。


04.cafe mimo名物?「物販ショー」で生まれた「ミモマステ活用」

さてここからはちょっと個人的にも楽しませてもらった小ネタを。

10分の換気休憩(これも隙のない万全の感染対策!)を挟んだのち、ステージに颯爽と現れたのは楠さん(お兄さん)と西海さん(番長)の2人。

「世界中の皆さんこんにちは!僕たち物販ブラザーズ!略してB.P.B!!」

これまでcafe mimoに参戦したことがないのでわからないが、おそらく名物であろう(?)「物販ショー」ともいうべき派手な物販紹介が始まった。ここで、自分も大いにツボに入った名言に出会うことになります。

「ミモさんのマスキングテープ、略して・・・」
「ミモマステ~~」

楠さんと西海さん両名がインドの「ナマステ」を模した発音で手を合わせながら頭を下げたのである。本来インド人は手を合わせながら頭を縦ではなく横に倒すのであるがそれはもはや関係ない。

そして続いて紹介されたグッズであるマグネットを

「マグネトーゴザイマス!」

と言うなどオヤジギャグ連発、絶好調の物販紹介が繰り広げられていく。

何かと便利なマスキングテープやマグネットを軽妙な語り口で紹介するお二人が微笑ましいやら馬鹿らしいやらで(失礼)

「画面越しに見てる冷静な奴らがいるんじゃないかって」

と逆に自分でツッコミを入れる周到ぶりであった。面白かった・・・

そして今回最重要グッズとして発売され、僕も休憩中に手に入れた「アマビエ様人形」もこのB.P.Bによって紹介されていた。

これは遊佐未森さんの手書きのアマビエ様がプリントされている布製の大変ありがたい人形で、どこかの怪しい輩の売る壺を買うよりもこちらを買いましょう!と言いたいくらいの代物であるが、なんならB.P.Bこそが一番怪しいのではないかという野暮な意見は謹んで黙殺させて頂く。(白目)


05.カバー曲で伝える「アイルランド」と「ナイトノイズ」への"愛"

後半からは、物販紹介の緊張感のなさとは一変して、人魚の悲恋をテーマにしたゲール語民謡『An Mhaighdean Mhara』を披露。

ゲール語は古代アイルランド語のひとつで、かつてアイルランド・スコットランド・マン島などで話されてきた言葉である。その独特の発音で歌われる謡曲は、遠い昔のケルト人の暮らしを思い起こさせるようなロマンティシズムに満ちていて。

北ヨーロッパの澄んだ海、その深海の色を思わせる心地よい「藍」に浸る時間が訪れる。聴者は遠いアイルランドの昔を想いながら、遊佐未森さんの清澄な歌声と青い照明に誘われるように、各々が空想に浸るのである。

続けて披露された『Island of Hope and Tears』は、アイルランドが誇る世界的バンド「Nightnoise」の楽曲のカバーである。Nightnoiseは遊佐未森さんにとって非常に重要な存在で、1994年発売のミニアルバム『水色』にメンバー全員がゲスト参加してくれたそうである。

Nightnoiseの中核メンバーであるミホール・オ・ドーナルはアイルランド音楽の代表的存在であるドーナル・ラニー率いるホジー・バンドにも所属していたのだそうで。まさにアイルランドを象徴するバンドの一つと言っていいだろう。

別口でアイルランド音楽やケルトミュージックにハマってそこからドーナル・ラニーを知った僕としてはこの思わぬ結びつきに驚いたものである。

ミホール・オ・ドーナルは2006年に亡くなってしまったし、ナイトノイズ自体も2003年に解散してしまった。しかし遊佐未森さんにとってこれからもナイトノイズは重要な存在で、アイルランドは愛しい土地であることにはずっと変わりがないのだなということが歌声やMCを通して存分に伝わってきて、同じアイルランド好きとして嬉しく思った。

06.後半戦の曲選びからも感じるアイルランドへの"感謝"の気持ち

アイルランド尽くしの時間が終わりを告げると、『クロ』~『風が走る道』~『オレンジ』と遊佐未森さんらしさの詰まったナンバーが惜しげもなく披露されていく。

『風が走る道』は、1996年のアルバム『アカシア』からのナンバー。1996年は、ジョニーを除くナイトノイズの3人のメンバーが活動拠点であったアメリカから故郷であるアイルランドに帰国した年でもある。そして翌年の1997年にはアルバム『roka』にナイトノイズがゲスト参加している。

また『クロ』は、2006年のアルバム『休暇小屋』からのナンバーだ。2006年といえば、ナイトノイズの中核メンバーであるミホール・オ・ドーナルが亡くなってしまった年でもある。

「君に出会えたことが宝物」

という歌詞も、どこかアイルランドとの強い絆を感じさせるようにも思えたりして。そんな楽しくて優しい時間があっという間に過ぎていく。

本編後半のライブ中

「のってるか~い!」

という遊佐未森さんらしからぬセリフに驚いた。遊佐未森さん本人もすごく楽しんでいるのが伝わってくる。

後半戦では曲間MCで現在新しいアルバムの制作準備中であることが明かされた。特に音楽にとって逆風となっている大変な世の中にあっても精力的な活動を試み、これからの展望があることをしっかり見せてくれるのが遊佐未森さんのすばらしさだ。


07.暮れてゆく空に沈む太陽、それは"またきっと会うために"

本編最後に披露された『オレンジ』と、アンコールで披露された『暮れてゆく空は』はいずれも夕陽をモチーフにした楽曲である。

『暮れてゆく空は』は、日暮れを寂しげなものとしてとらえているが、しかし暮れてゆく空を捉えきれない人間の無力さを引き合いに出しながらも、その「絶対的な美しさ」を肯定的に描いている

暮れてゆく空は
戻らない季節のようで
淋しいけれど
いつもきれい

この曲を聴きながら、僕は今日という日はもう戻ってこないんだな、という実感に襲われた。だから1音1音しっかり耳に焼き付けようという気持ちが終盤に向かうにつれて強くなっていった。それはまるで『オレンジ』で描かれた沈みゆく太陽のように色を強め、大きくなっていく。

ライブが終わる。そして一瞬、暮れてゆく空の寂しさが強くなって、胸が締め付けられる。

しかしその気持ちが、その感情がまた、次の出会いへの活力になることも事実である。

遊佐未森さんも『オレンジ』の中でこう歌っているではないか。


沈む夕陽が 大きくなる
ああ 明日のために
また きっと 会うために

08.結びに寄せて

僕はこの日、配信という選択肢もあった中で会場に直接訪れて歌を聴いたけれど、本当に直接生で歌を聴けて良かったと思えた。

これまでの音楽生活においても、ライブ直後というのは満足感の一瞬前に、途方もない寂しさと、もっと満たされたいという渇望のような気持ちに支配されてきた。

それはファンとしてライブを観た時は勿論、撮影の仕事でライブを撮らせてもらったときも、自分が出演した後も変わらない。それは当たり前のことだと思っていた。しかし新型ウィルスが猛威を振るう中で、それは当たり前のことではなくなってしまった。

今回、遊佐未森さんのライブが終わった後も、こうした寂しさが一瞬訪れたのは確かである。しかしそのすぐ後、風が走ってくるように迫り、そして僕を満たしてくれたのは、暖かな快い空気と草木の匂いに包まれるような"藹"と、"愛"であった。

コロナ禍の貴重なライブであったからこそ、より一層「またきっと会うために」という気持ちをもって、ひとつひとつのライブに"愛"をこめていこうと思わせてくれた素晴らしいコンサートだった。

また、会えますように。


2020/10/21(水)

セットリスト

ユングフラウ(ブーゲンビリア)
バースデイ(echo)
ネクター(small is beautiful)
WATER(ハルモニオデオン)
きみといっしょにいると(新曲)
安里屋ユンタ(竹富島の古謡)

[換気and休憩]

物販ショー

An Mhaighdean Mhara(ゲール語民謡)

Island of Hope and Tears(ナイトノイズのカバー 水色)

クロ(休暇小屋)
風が走る道(アカシア)
オレンジ(honoka)

-encore-

暮れてゆく空は(ハルモニオデオン)

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