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#348 『いまがその時、その時がいま』

本日は、サグラダ・ファミリア主任彫刻家の外尾悦郎さんの「いまがその時、その時がいま」についてのお話です。建築家アントニオ・ガウディが設計したサグラダ・ファミリア教会は、着工から130年以上経って今なお、工事が続く壮大な聖堂です。その建設に日本人として長年に渡り参加してきたのが外尾さんです。建築家や彫刻家などが約200名が関わるサグラダ・ファミリアの中でもガウディの意志を最も受け継いでいると言われています。

※私個人もガウディ建築やサグラダファミリアとの出会いに衝撃を受けた一人で、Thinking Design(思考設計)という言葉も、おそらくガウディの言葉や考え方を紐解いていく内に見えてきたものだと思っています。外尾さんが書いたガウディの本も参考にしながら、現在の活動に役立てています。

"私の本当にやりたい彫刻とは、新しいものを設置した時に、地元の人たちが、あぁ、これはなぜいままでなかったんだろうか、と感じるようなものをつくることなんです。彫刻は大きくて重いものですし、一度置いてしまうとなかなか退かせられません。"
"だからそこで生活していた人が突然リズムを狂わされたり、邪魔に思うようなものではまずい。新しいけれども、前からあってほしかったと感じてもらえるようなものを必死に探していく。したがっていまのアーティストといわれる人たちと私が全く違うのは、私は創造者ではなく、探求者であるということです。"
"ガウディも「人間は何も想像していない」という言葉を残しています。では我われに何ができるかといえば「発見」しかできないんですね。彼が「私は神の創造に寄与しているだけだ」と述べたように、草木が育ち鳥が空を飛んでいく。その不可思議な、人間業では成し得ないものの美しさ。そうしたものを求めてそれに近いものをつくっていく。"
"そのためには「観察」が大切で、観察なくして発見はない。だから人間にとって一番大切なのは観察すること、つまり現実から逃避しないこと。その現実に正面から向かっていく勇気が重要だと、ガウディも説いているのだと思います。"
"我われは彫刻や建築といったように勝手にジャンルを分けていますが、本来人間というのは、その大木のところ、人間にとっての幸福ですね。そうしたものを求めて、初めていろいろなものを発見できるのではないかと思います。"
"私は長らくサグラダ・ファミリアの職員ではなく、一回一回、契約で仕事をする請負の彫刻家でした。教会を納得させる作品ができなければ契約を切られる可能性がある。命懸けという言葉は悲壮感があってあまり好きではありませんが、でも私自身としては常に命懸け。というのも命懸けでなければ面白い仕事はできないからです。"
"ただ本来は生きているということ自体、命懸けだと思うんです。戦争の真っただ中で明日の命も知れない人が、いま自分は生きていると感じる。病で余命を宣告された人が、きょうこの瞬間に最も生きていると感じる。つまり、死に近い人ほど生きていることを強く感じるわけで、要は死んでもこの仕事をやり遂げる覚悟があるかどうかだと思うんです。"
"この34年間、思い返せばいろいろなことがありましたが、私がいつも自分自身に言い聞かせてきた言葉がありましてね。

「いまがその時、その時がいま」

というんですが、本当にやりたいと思っていることがいつか来るだろう、その瞬間に大事な時が来るだろうと思っていても、いま真剣に目の前のことをやらない人には決して訪れない。憧れているその瞬間こそ、実はいまであり、だからこそ常に真剣に、命懸けで生きなければいけないと思うんです。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/12/14 『いまがその時、その時がいま』
外尾悦郎 サグラダ・ファミリア主任彫刻家
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※Photo by Ken Cheung on Unsplash