【ありがとう】井上黎生人を高みへ連れていく適応力と向上心

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 鹿児島実業高校からガイナーレ鳥取に入団した井上黎生人は6年間J3で鍛錬を積む。2年目は一度もリーグ戦のピッチに立つことはできなかったが、腐ることなく、努力を重ねると、3年目は30試合に出場し、4年目、5年目は34試合に出場。すべての試合でピッチに立った。鳥取で昇格するのが本望だったと思うが、成長を求めて、2021シーズンにファジアーノへの移籍を決断した。

 変化には時として苦しめられることがある。今までと同じようにやっていては通用しない。変化に対応して、適切な行動を取っていかないといけない。新しい環境やプレーレベルに適応しなければならない。

 はじめてのJ2でプレーするシーズン、開幕スタメンを勝ち取ると、シーズン終了まで井上の名前がスタメンから消えることはなかった。そして、一度も怪我や体調で離脱することなく、ピッチに立ち続けた。J2初年度でフルタイム出場という偉業を達成したのだ。

 なぜ、リーグから2番目に少ない失点数を誇る守備の中心としてプレーし、フルタイム出場を達成できたのか。その理由として適応能力がずば抜けているからだと思う。J2には、J3では経験できないような規格外の力を持ったストライカーや、強靭なフィジカルを持ったパワフルなストライカーがいる。初体験となるJ2屈指のストライカーに、井上は全く引けを取らない。むしろ、封じ込める。シーズン序盤こそ、複数失点を重ねて、壁にぶち当たったかのように見えたが、自分の基準をアジャストするのが迅速だった。

 相手のレベルに慣れることだけが適応ではない。チームメイトで大先輩でもある濱田水輝や田中裕介にアドバイスを求め、スポンジのごとく多くの学びを吸収した。飽くなき向上心と探求心を持ち、ライバルでもある先輩に『成長したい』という素直な気持ちで駆け寄る。どうやったら自分のレベルを上げることができるのか。成長したいという意欲が強烈で、素直さも持ち合わせていたから、学びを身につけることができたし、自分のレベルを急激に上げることで完璧にJ2に適応して見せた。

 そんな井上の強みは危機察知能力の高さ。ピンチを感知するレーダーが敏感で、タイミングの良いシュートブロックで数多のピンチからチームを救ってくれた。シュートを打たれるギリギリまでステップを踏み、足を運んで、壁のごとく立ちはだかる。絶対に失点しないという守備者の鏡のようなメンタリティで、防げる可能性があるならば最後まで諦めずに身体を投げ出す。

 また、彼はシュートに対して絶対と言っていいほど背中を向けない。必ずおへそをボールに向けた状態でブロックに入る。目線を切らずに、自分の身体で大きな面を作るため、井上の身体に当たってゴールに吸い込まれてしまうという不運な失点はほとんどなかった。彼の気迫のこもるシュートブロックはきっと新天地でも頼られるものになると思うし、最後は井上が防いでくれるという安心感をJ1でも見せてくれるはずだ。

 井上が守備者として優れているのはシュートブロックだけではない。的確なカバーリングも淡々とこなすことができる。『足が遅いことがコンプレックス』と謙遜しているが、シーズンを通して足の遅さを感じることは一度もなかった。むしろ、速いのではないかと疑うほどだった。もしかしたら、50ⅿや100ⅿなどある程度長い距離を走ると、そこまで速くないのかもしれない。しかし、5ⅿや10ⅿ、20ⅿなどの短い距離だと彼は速い。シュートブロックのタイミングが秀逸と述べたが、相手の攻撃パターンや意図をくみ取り、予測しているからこそ危険なエリアや選手を察知できているのだが、その予測力はカバーリングにも生かされている。単純な走るスピードは速くないのかもしれないが、スタートを切るのが抜群に早い。だからこそ、スピードのある選手に追いつくし、間に合うことができる。予測力と危険を察知してから最適なプレーを選択して、それを実行するスピードが頭ひとつ抜けている。井上の守備者としての特別な力が彼をまだまだ高みへと押し上げることは間違いないだろう。

 目標とする“欠点がないセンターバック”になるためには、ビルドアップ面での成長が欠かせないだろう。現時点で井上の振舞いからビルドアップへの苦手意識は感じられない。左右の足で強いパスを蹴ることができるし、相手を見ながら止めて蹴ることもできている。キック力があるため、センターバックとの強い横パスの交換で相手を揺さぶれるのは、これからも強みになっていくだろう。

 井上が持つ強烈なキック力は攻撃のスイッチを入れる役割を担うことができる可能性を秘めている。頻度や精度にはまだまだ成長の余地はありそうだが、対角線上への弾丸フィードや鋭い縦パスを出すという片鱗を見ることができた。逆サイドを走る味方の動きや、選手間に立って浮いている味方も見えている。あとは、精度を上げて、自信をつけて、積極的攻撃なパスで局面を打開することにトライして欲しい。その先に目標とする“欠点がないセンターバック”が見えてくるだろう。

 井上は12年ぶりの昇格を決めた京都サンガへの移籍を決断した。J3で力を養い、J2で自信を高め、J1へ羽ばたく。J2にはいなかった規格外のストライカーがごろごろいるのがJ1だ。圧倒的な高さに屈することがあるかもしれないし、強烈なスピードにちぎられることもあるかもしれない。あるいは、想像していないところから点を決められることもあるかもしれない。J1のレベルの高さを肌で感じ、目の前に壁が現れても、井上は必ず乗り越える。J2で示した異次元の適応力で、J1の強者とも十分に渡り合い、リーグにその名を轟かせるだろう。飽くなき向上心から成る圧倒的な適応力が井上をさらなる高みへ連れていく。



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