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欲深き罪人《つみびと》
「冗談……ですよね?」
「そんな風に見える?」
「……いいえ。しかしそれなら、どうしてルカ王子との結婚を決めたりしたんですか?」
『だって貴方といたかったから』
口に出して言えたら……と今の自分の状況を恨めしく思う。
この世界に残るためにはルカ王子と結婚するしかないのだ。けれどそれを説明するということは、同時に、私がこの世界の『ヒメカ』ではないということを告白しなければならないのだ。
こ
彼のそんな顔を姫香は知らない
もうすでに日付が変わっていた。いつもなら、すでに寝ているであろう時間だ。
私は申し訳ないと思いながらも、シグルドの部屋のドアをノックした。木の音が完全にかき消えてから、数秒の間があって、
「どなたですか?」
部屋の中から声がした。
「私、ヒメカ」
もう一度間があって、そしてキィッと小さな音とともにドアが開く。
「どうしたんですか? こんな夜更けに」
扉の向こうに立っていたシグ
犯人の手がかりを探して
ルカ王子に抱きしめられてひとしきり泣いた私は、ルカ王子を見送った後、厨房へと向かった。
泣いたせいで、喉がからからだったのだ。
幸か不幸か、厨房にはもう誰もいなかった。すでに、部屋に引き揚げてしまっているのだろう。
磨いてあったグラスを手に、金の蛇口をひねる。
水がのどを通るたびに、体と脳の熱を冷ましてくれた。
「あ、ヒメカ様」
一人の兵士が厨房へと入ってきた。その兵士は二日前に、
姫香と王子の顔合わせ
三日後。
足の怪我はだいぶ良くなっていた。腫れは引き、普通にしていれば痛みも感じない。
しかし、体の調子に反して気分は重い。
食べ物もおいしいし、ベッドもふかふかでよく眠れる。服も素敵で、嫌なことなんてない。……ただ一つ、明日が隣国の王子様との対面ということ以外には。
「だから、何度も言ってるじゃないですか! 嫌なんです」
ルカ王子との婚約を正式に結ぶのを明日に控えた私は、再び王の間
ドキドキしてる、でも言えない
薬品の匂いが充満した部屋には誰もいなかった。
「お医者さんは……?」
「あぁ、そう言えばヒメカ様は知らないのですね」
彼は棚から薬品や包帯などを取り出している。待っていればお医者さんが来てくれるだろうに……。
「ここは第三医務室ですから、医者はいないんです。第一と第二には医者が常駐していますが、ここには治療道具がおいてあるだけです。治療は自分の手で行います」
だからシグルドは道具を出