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読書録『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』

『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』
著者 秋元 雄史

東京駅の丸の内北口を出てすぐのところにある丸善本店。言わずと知れた国内随一の本が置かれているその書店の1階にあるビジネス書コーナー、ではなく3階の美術・文化コーナーのところで発掘したビジネス書になります。

真っ赤な表紙のこの本は、アート思考を中心に、現代アーティストたちがどのような考えで作品に挑んでいるのか、そして美術作品を取り巻くのビジネスについて紹介されています。

アート思考とは

この本は「アート思考」を扱っています。

そもそもアート思考とは、どんな思考方法なのでしょうか。
この本では、「デザイン思考」と「アート思考」について紹介されています。

デザイン思考
デザインを通じて人間の困難な課題を扱う思考方法。ビジネスのシーンでは、顧客の抱える問題を解決に導くためのものとして扱われる。
アート思考
問題を提起する思考方法。「そもそも何が問題なのか」という問題を作り出し、「何が問題なのか」といった問いかけから始めるのが特徴。

アート思考の一例として、「タクラム(takram)」という集団の『Shenu: Hydrolemic System』が紹介されています。

これは、「荒廃した未来における水筒をデザインする」という課題に対する答えとして考えられた作品となります。

水筒をデザインするという課題に対して、なぜ、人工臓器という形の作品が生まれたのでしょうか。
この本によれば、「タクラム」はリサーチと分析を繰り返し、荒廃した未来=水質汚染等により供給可能な水が限られた未来では、「人体が必要とする水分を少しでも少なくする必要がある」という結論に至りました。

そうして、「人体が水分を必要としなくなるためにはどうすればよいのか」という問いを提起し、その問いに対する答えとして、本作品が生まれました。

つまり、人間の体を水筒と捉え、生存に必要な人工臓器を提案したということになります。

この人間の体を水筒と捉えるという発想にたどり着くというのが「アート思考」と「デザイン思考」の違いになります。

もし「デザイン思考」のアプローチであれば、「荒廃した未来における水筒をデザインする」という課題に対して、おそらくは汚染された水を無害化する機能を付けた水筒(私たちのイメージする水を持ち運びするための入れ物としての水筒)がデザインされるのではないのではないでしょうか。

このように与えられた課題に対して、「何が問題なのか」といった問いかけから始めるのがアート思考の特徴になります。

現代アーティストの思考


さて、そのアート思考によって創られる現代アートについて、皆さんはどうお考えでしょうか?

芸術作品の中でもゴッホやモネ、ミレーといった画家が描く、美しい絵画に興味を示す人はよくいますが、現代アートに興味を示す人はあまり多くはいません。難しい、よくわからないと感じる人が大半なのではないでしょうか。

では、現代アートはなぜ難しいと感じるのでしょうか。

この本によると、それは現代アートの芸術行為が私たちの持つ認知を疑うことから始まっていることが大きな理由としています。

人の認知や行動やその人がいる社会的環境の影響を強く受けています。
現代アートの一見奇抜に見える芸術行為は、その「人と社会的環境の間」を疑い(問いかけ)、認識を再構築していく行為になります。

そのため、その再構築された結果(作品)は私たちのもつ一般的な常識では測りきれないものになり、その結果、難しい、よくわからないと感じてしまうことになります。

一般化のための解釈・解説が整い、多くの人々に意味が伝わるようになって、初めてその作品が多くの人々に理解されるようになります。

現代アートとは、その一般化のための解釈・解説が整う前の状態であるため、鑑賞者にとっては難しく感じるのです。

では、鑑賞者はどのようにその作品の対峙すれば良いのでしょうか?それは、この本の第5章に詳しく紹介されています。

美術作品を取り巻くビジネス

この本では先ほどまでのアート思考、現代アーティストの思考というアートに関する考え方以外に、美術作品を取り巻くビジネスについても紹介されています。

そもそもアートの価値とはどのようなものなのか?

なぜ、芸術作品に数億の値段がつくことがあるのだろうか?

こういった疑問に対して、美術作品を扱うビジネスの視点からその理由を提示しています。

本書の見所

さて、本書の大筋はこれまでご紹介した通りのものになります。

それ以外にも本書の随所に現代アーティスト、作品が紹介されており、アート思考を学びながら、トップクラスの現代アーティストの作品を知ることができます。

現代アート、現代アーティストについて知りたい方には是非とも読んでいただきたい本です。

本書の紹介は以上となります。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!



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