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【雑記】夏の葬列を読んで

だいぶ前に、夏の葬列を読んで、山川方夫が好きになった。
以来、青空文庫で他の作品も読んでみたが、個人的には夏の葬列が一番好きだ。

この小説は、一度読んだあとでも、何度も何度も読み返してしまう。
文章を読んでいると、当時の情景が頭に浮かんでくる。ヒロ子さんの服の白さ、芋畑の鮮やかな緑、空の青さ。夏の強い日差し。そして艦載機がそれらをすべてぶち壊す。
戦時中、米軍が逃げ惑う一般人を目標に機銃を撃っているビデオを、以前なにかで観たことがある。
まさにその時の様子も、この「夏の葬列」と同じだったのだろう。

だれも主人公は責められないと思う。
最後の一文。
「もはや逃げ場所はないのだという意識が、彼の足どりをひどく確実なものにしていた。」
足どりが「確実」というのがすごいと思う。普通だと「足どりを重く」とか書きそうなものだけど「確実」と。
本当にいろいろ考えさせられる好きな小説。

そもそも私は純文学というものが苦手で、偉い先生方が名作と言われる作品を読んでも、そのよさがまったくわからない。
小さなころからずっと同じことを思っていて、「きっと自分には文学的センスがないのだろう」といまではすっかり諦めている。

山川方夫は探偵小説を書いていたと思うが、夏の葬列には純文学とミステリーの両面があると思う。

ショートショートでは星新一も好きだけど、この人もかなり好き。
私の生まれた年に、交通事故で亡くなったらしいのだが(享年三十四歳)、もっとたくさんの作品を書いて欲しかった。
絶対に大ファンになっていると思う。

本当に惜しい。


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