マヨイガ

一緒に暮らしてみたいいきものたち

幽霊やお化けは大の苦手なくせに「なんかちょっと不思議なもの」に異様に憧れる子どもだった。

妖精や、妖怪に会えたらいいのに、とどこかに遊び行けばあちこち覗き込んで予期せぬ出会いを期待していた。

きっとそういう存在のものが人間に対してとは全く別問題で、その土地を守るものであるとわかっていたからだと思う。

今でもいるのかいないのかという話になったら「見えないだけで絶対いる派」のわたしは、たまたま運が悪くて会えなかっただけで、きっとそれぞれの場所を守ってくれているんだと信じている。

だから例えば、どうしようもないような大きな天災が起きてしまったとき、その場所がなくなってしまいかけたとき、彼らはどうするのだろうと考えていた。

そんな疑問に、自分が信じていた妖怪像をそのまま出してくれたこの『岬のマヨイガ』(柏葉幸子)はわたしをちょっぴり安心させてくれたのだ。

【あらすじ】
夫のDV から逃げてきたゆりえと、両親が死んで面識のない親戚に預けられることになった萌花。たまたま電車で一緒になった二人はそこで震災にあってしまう。避難所で身元を聞かれてとっさに助けてくれた不思議なおばあちゃんと三人で暮らすことになる。そこへ震災のあと、不気味なことが起こり始めて。

東日本大震災と、遠野物語が組み合わさったファンタジー物語。

読みはじめてすぐに震災の物語だとわかって、少し不安な気持ちもあったけれど、おばあちゃんの存在が、ゆりえ(結)と萌花(ひより)だけでなく読んでいるわたしまで安心させてくれた。

特におばあちゃんが話してくれる東北の民話。こういう語り口調の物語、久しぶりなはずなのにどこか嬉しい。いっしょに聞かせてもらっているみたいな。そんな優しさに包まれてしまった。

震災で崩れてしまった場所を守るために河童やお地蔵さまなど、日本に昔から存在していた妖怪たちが手助けしてくれるシーンはやはり頼もしいし、大きいし、あたたかくて、わたしが勝手に抱いていた妖怪像そのものだった。

それと同時に自分たちの場所を追われて取り戻そうとしているうちに、人間の負の気持ちを吸ってどんどん邪悪なものに変わってしまった不気味なものの正体も、わたしが想像していた妖怪像でもある。

もっと、うまく、心地よく過ごすことができるようになったらなと思ってしまう。

いろんなものがいっしょに暮らせるほうがずっと楽しいはずなのに。

その小さな第一歩として、血の繋がらない三人が仲良く暮らしているのかもしれないと思えた。

出合えてよかった一冊。



この記事が参加している募集

#推薦図書

42,566件

#コンテンツ会議

30,744件

もっともっと新しい世界を知るために本を買いたいなあと思ってます。