エーミール

本当にかっこいいのは誰?/エーミールと探偵たち

いいなあ、と読み終わったあと小さく呟いてしまった。

知らない街で、知らない子と仲良くなって、一日中走り回って、見張りをして、悪いやつをとっ捕まえて。

そんなわくわくするような体験わたしもしてみたかった。その場にいたら仲間に入れてもらいたかった。

だけど、残念ながら今回読んだ『エーミールと探偵たち』(エーリヒ・ケストナー:岩波書店)に出てくる探偵たちはみんな男の子たちで、女の子といえばほんのちょっぴり、エーミールのいとこが出るだけ。

ずるい。だけど、仲間には入れてもらえなくたってその場にいられるような体験をさせてくれるのが読書だもんね、と開き直ってもう一度読み直すことにした。

【あらすじ】
エーミールは、ある休暇にベルリンの祖母に会いに行く際に母から祖母あてに140マルクを渡される。しかし、汽車の中で居眠りしている間に、怪しい男にお金を盗られてしまった。追いかけて見知らぬ駅で降りたもののどうしたら良いか途方に暮れるエーミール。そこにグスタフが声をかけてきて協力を申し出てくれることに。

ひと声かけるとわらわらと集まってくる少年たちが、みんなやたらとかっこいい。

会ったばかりの少年の話をすぐに信用してくれるその心意気。すばやく役割分担をする頭の回転の速さ。それぞれの持ち場に分かれていくそのスピード感。不測の事態が起きてもすぐに対応できる臨機応変さ。

彼らの勢いにのまれてどんどんページをめくってしまう。結局、この事件は一夜にして解決することになるのだけど、犯人逮捕の瞬間のエーミールとガキ大将のグスタフ、それから頭脳ポジションの教授くんがとんでもなくかっこいいんだ。

とはいえ、表立って動き回ることだけがかっこいいんじゃない。最後の最後に協力してくれたみんなを招待して、打ち上げしているときにエーミールのおばさんの演説にはじんわり感動してしまった。

「どろぼうのあとをこっそりつけて行き、」とおばあさんは話しつづけました。「百人の男の子たちといっしょにつかまえるなんて--そんなのはたいしたことじゃありませんよ。そういわれると、同志のみなさんは気をわるくしますか。でも、みなさんといっしょにこしかけているひとりの人は、(略)その役めをいったん引き受けたからです。ええ、そうです。その役めをいったん引き受けたからです。」

読み返してみても、やっぱりいい。

いちばんかっこいいのは、いちばんがんばったのは誰だったのか。ここはぜひぜひ読んでほしいなと思う。

始まりからおしまいまでほんとうに気持ちよく物語がすすんでいくこのおはなし。時折挟まれるエーミールの母親への愛情もとてもよくて、読みながらどんどん優しい気持ちになっていく。

遊びたい盛りの男の子だから、そりゃやんちゃのひとつやふたつもするけど、心根は優しくて、愛情深い男の子なんだ。

ううん、でもやっぱりわたしも仲間になりたかった。


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