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無計画の旅でもいいことはある

14年前のちょうど今頃、僕はニューヨークにいた。

ヨーロッパを旅した後、飛行機でやってきた。

特に目的も理由もなくやって来た。

「そろそろアメリカに行くか」

そんな感じだった。

ニューヨークである人に会った。そしてこう言われた。

「いい時期にニューヨークに来たね!」

当時、ニューヨークに海外赴任していた親父の友人である。(この人の話はまた別の機会に書くかもしれない)

じつはこの時期、毎年恒例の感謝祭パレードやロックフェラーセンターのクリスマスツリー点灯式が行われている。

そう、僕は何も知らなかったのだ。

ガイドブックなどを持っていないとこういう情報はまるで入ってこない。当時はネットといっても、街中にあるインターネットカフェのような場所を探して利用していたと記憶している。

行き当たりばったり、気の向くまま目的もなく旅をする。もちろん、事前に行きたい国や街のことはある程度調べていくのだが、細かい情報はほとんど集めなかった。

おそらく、目の前に起こることをありのままに楽しみたかったのだと思う。

とはいえ、現地で教えてくれた貴重な情報だ。行かないわけにはいかない。

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(左上、Intel「Core2」の広告看板を見ると時代を感じる)

感謝祭の日、あいにく朝から雨だった。

ブロードウェイに着くと、歩道一帯が人で埋め尽くされていた。

「N.Y.P.D」と背中にプリントされたジャンパーを羽織る大柄な警察官たちが、至る場所に立って道路規制をしている。

「さぁ、ここで立ち止まらず歩いてくれ!」

道路にひしめく歩行者に対して必死に拡声器で呼びかけていた。

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さて、パレードとはいえこの碁盤の目の道路のどこを通るのか。何も知らずに来た僕にはさっぱり見当がつかない。そのうち、NY警察官の乗るバイク集団に目を奪われる。

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白バイ集団ならぬ、NYハーレー集団。やはり、本場の大柄な人が乗っている姿が一番クールだ。

そして、ようやくパレードの一部を垣間見ることができた。

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白い軍服と帽子を身にまとった楽器隊が、アメリカ行進曲を演奏しながら整然と道路を行進する姿だ。

やがて、ビルとビルの間で大歓声が沸き上がった。僕の目の前をスヌーピーの巨大バルーンが横切ったのだ。

「さぁ、歩いてくれ! どんどん歩いてくれ!」

声を荒げるNY警察官に素直に従う者はほとんどいない。誰もがスヌーピーの巨大バルーンに釘付けだ。もちろん、僕も。

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パレードが終わったのは確か昼頃だったと思う。この日はニューヨークの大型デパートから個人の店までが一斉に休みになる。

感謝祭パレードが終わった後、僕は街をぶらぶらと歩いた。

どの通りもほとんど人影がなく、建ち並ぶ店のシャッターはどこも閉まっている。

街はさっきまでの賑わいが嘘のように静まり返り、僕の目に映ったのは雨に打たれて道端にぺったりとくっついた「New York Times」だけだった。

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12月に入ると、今度はクリスマスツリー点灯式にも足を運んだ。

よく考えれば、男一人でクリスマスツリーを眺めに行くとは惨めなものだ。

夕方、ロックフェラーセンターの方へ歩いていくと、感謝祭の時と同じくあっという間に人混みに飲み込まれてしまった。

いったい自分がどこを歩いているのかも分からなくなり、やがて動きが止まった。

人混みの向こうに大きなスクリーンが設置されている。

点灯式とは聞こえはいいが、この狭いロックフェラーセンターのクリスマスツリーを一目見ようとそれはそれはたくさんの人が押し寄せる。

当然ながら、全ての人がツリーの目の前で点灯の瞬間を目にすることなどできない。

やがて、このセレモニーに招かれた歌手やバンドがスクリーンに映し出され、次々とクリスマスソングを歌い始めた。

ライオネルリッチーやエンヤといった有名歌手の歌声もニューヨークの街に響き渡った。

彼らのステージが終わるといよいよ点灯である。観衆のカウントダウンが始まる。

かつて、テレビで見たニューヨークの年越しの雰囲気がそこにはあった。

点灯した後が一番大変だ。スクリーン組は、点灯したクリスマスツリーを一目見ようと一斉に動き出す。僕もその流れには逆らうことはできない。

ようやく辿り着いたクリスマスツリーを目の前にした時、僕は自然とカメラを向ける。

感謝祭も点灯式も飛び入り参加だったが、ニューヨークの伝統的な行事を目にすることができたのは良かったと思っている。

ただ一つ、周囲を見回した時に感じた。

家族連れやカップルたちが、巨大なツリーを身を寄せ合いながら笑顔で眺めている。

何かが、物足りない。

僕のそばに、誰かがいない。

この時ほど、ガールフレンドの存在を欲したことはなかった。

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写真はいずれも2006年11月末から12月にかけて撮影。

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