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【連載小説】公民館職員 vol.4「四半期」

第2四半期の報告書をまとめる。

中心は平野さんで、私はそのサポート。ちずるは嘱託職員の部分を担当する。平野さんは児童館の分もまとめなければならないから、大忙しだ。

私は平野さんに頼まれて、収入部門と一般消耗品を担当することになった。

収入部門はもう上がってきている数字をまとめるだけで、あとはうちの館が入れているテナント料を明確にするだけだ。

テナント料は基本的に日数できまっているので、先月末、8月31日で一旦しめて計算すればよかった。

あとはコピー代。これも例年の数字から予想をつけて、今の数字と照らし合わせておくといい。

私は以前にもこの作業をしたことが何度かあり、そう難しい仕事ではなかった。

支出部門の一般消耗品のほうがはるかにやっかいだ。

あまり物を買いすぎていると、財政課から注意を受け、その後の臨時予算などを組むときに不利になってしまう。

今まで買い物をした内容を改めて書くような作業だ。

今期は陶芸の講座を何回もしたせいで、支出が粗い。

そこをきちんと書いておく。

あくまでも今期だけの数字ですよ、と念を押す。

こちらはだいたい終わったなぁ、と平野さんをみると、難しい顔をしていた。

児童館の支出が思ったよりも多かったらしい。

児童館では毎年夏祭りが行われている。

その際に必ずといっていいほど、各館でお化け屋敷をつくるのだが、今年は部品が壊れたものが多く、支出がかなり粗かった。

これは臨時予算をつけてもらわねばとても乗り切れない。

平野さんがそう言った。

私はみんなの分コーヒーを淹れて配って歩いた。

平野さんの分を配ると、平野さんが珍しくお砂糖をちょうだいと言ってきた。

私はスプーンとお砂糖を取ってきて平野さんに渡した。

いつもはブラックなのに……

平野さん曰く、疲れているときは甘いもの、らしかった。

私はそんな平野さんを可愛いなぁと思いつつ、スプーンを下げた。

四半期はただの報告だから、少し面倒だけど、書類をただ作ればよい。

問題はその先にある、臨時予算の獲得にある。

ただでさえ不景気な世の中で、臨時補正予算をもらうにはそれなりの事業を準備せねばならないからだ。

基本的に、どこの部署も予算は不足するように組まれている――としか思えない額で決められている。

足りないときは交渉しろ、そういうことだ。

そして、だいたいに置いて不足し、不足分を請求する、というのが通例だ。

しかし、担当者によっては不足を充填してくれないこともある。

これは庶務の力量がはかられる問題でもある。

私は平野さんに、できることはないかと聞いた。

そうすると、平野さんは

「いつも通りおいしいコーヒーをいれてくれること」と言い、にこっと微笑んだ。

私の顔がかぁあっと赤くなるのがわかる。

それ以上ここにいられなくなって、私はお盆を片手に給湯室へ戻った。

あの人はいつも私のペースを乱してくる。尊敬する先輩の一人なのだが、どうも苦手なところがある。さっきみたいに顔が赤くなることは日常茶飯事だ。他の人にはならないのに……

そう思っていると、平野さんが給湯室までやってきた。

「俺、何か怒らせるようなこと、いっちゃった?」

給湯室の入り口から覗き込みながら聞いてくる。

「べ、別に怒っていたわけじゃありません。……その、ちょっと恥ずかしかっただけです」

「恥ずかしい?」

「コーヒー、褒めていただいて」

「あー、なるほどね。怒ってないならいいや、ありがとね」

平野さんは殺人的なスマイルを放ち、その場を立ち去った。

「もう……その笑顔が苦手なんですってば」

私はふぅ、とため息をつくと、明日もおいしいコーヒーを淹れなくちゃ、と気合いをこめた。

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