【連載小説】ガンズグロウ vol.23「9月」
泣いて泣いて、ひとしきり泣くと私は開き直った。
介抱してもらったのは事実だけど、それだけのこと。
それはそうと、せせらぎが、
「俺と付き合わない?」
と言い出した。
「ぶっちゃけ、さやかちゃんは俺のもろにタイプなんだよ。タツキくんとこれで別れたら、俺のところにおいでよ」
私は少しカチンと来たが、冷静に、
「別れる気なんてホントにないっすから。それにせせらぎさんは仲間としてしか見れない」
しかし、せせらぎは引かなかった。
「俺の方が絶対幸せにしてみせるって!あんなオタクなやつじゃ、さやかちゃんもったいないよ」
話ながら店の外に出た。
「オタクで何が悪いって言うんですか?私、別れてもせせらぎさんとは付き合いませんから」
そう言い残して別れた。
今日はバイトだ。
タツキと顔を合わせづらいけど、仕方ない。
「ぅはよーございまーす」
タツキは先に入っている。
一瞬身構えたが、いつも通りに笑顔で
「おはよう!今日もがんばろうね!」
と返してきた。
あれ……怒ってないのかな?
仕事中も至って普通。
ホントに怒ってないのかも♪
超ポジティブな私。
ところが、仕事をあがって帰るとき、いつもなら送ってくれるのに、送ってくれなかった。
やっぱり怒ってるんじゃん!!
帰宅してすぐに電話をする。
何コール鳴らしてもでないタツキ。
何回かかけなおすけれど、一向に出ない。
そのうち、着信拒否されたのか、全くつながらなくなった。
ガンズグロウにもログインしていない。私は自転車にまたがると、タツキの家へ急いだ。
タツキの家までは12、3キロといったところか。
途中でへばりながらも無事到着。
チャイムを鳴らす。
お父さんが出る。
私はちょっと緊張した。
タツキのお父さんは優しそう。タツキにそっくりだ。タツキも年をとったらこうなるのかな、という感じ。
「おーい、タツキ、可愛いお嬢さんがみえたぞ」
そう言うとお父さんは私をあげ、リビングへ通した。
タツキは降りてこない。
「イヤホンでもしてるのかね」
お父さんは二階にあがっていった。
しばらくして、お父さんは降りてくると、
「申し訳ないが、帰ってくれと言っている。どうするかい?」
「あ……じゃあまた出直して来ます」
「悪いねぇ、ああなるとしばらくは言うこと聞かないから……」
「いえ、突然夜分に失礼しました」
私はまたひーこら自転車を漕いで帰った。
次の日。
タツキはラストまで仕事だ。
今日は私は仕事ではない。
バイト先に行って、待ち伏せすることにする。
バイト先が見えるカフェでのんびり終わるのを待つ。
10時半だ。
そろそろ行っておくかな……
バイト先につくと、ちょうど田中先輩が出てきた。
「さやかちゃん!タツキ?」
「あ、はい」
「レジ締してるから、もう少しかかると思うよ」
「ありがとうございます」
私は裏口から店に入った。
タツキがレジ締をしている。
横に行く。
タツキは何も言わない。
「タツキ、こないだはごめん」
タツキはまだ黙っている。
「ちゃんと言えばよかったね……やましいことは何もないけど、心配かけたり、不安にさせたりしたくなかったの。だから」
「だから?俺というものがありながら平気でラブホいったのは誰なんだよ」
「ごめんなさい。でもあの時は記憶がなくて……」
「記憶がなくなるまで飲む方が悪いだろ」
「ごめんなさい……」
「俺だってこんなことで怒りたくはないんだよ!だけど、無防備すぎないか?」
「ごめんなさい……」
途中からごめんなさいしか言えなくなってる私。
「他に言うことは?」
「ごめんなさい……」
「いっとき口をきくつもりはないから」
「それって別れるってこと?」
「その可能性も含めだ。」
「嫌だ、別れたくないよ」
「自業自得だろ」
タツキは冷たく言うと事務所へ行ってしまった。
「嫌だ、嫌だよ……タツキ……」
目からポロッと涙がこぼれ出た。
それをきっかけに、ぼろぼろ涙が出てきて止まらなくなった。
自業自得……まさにこういうことなのだ、と私は悟る。
どうしよう……どうしたら許してもらえるの?
私は授業中もそればかりを考えていた。
バイトに行けば、仕事中は普通に接してくれるタツキ。
けど、帰るときにはもう冷たくなってる。
かれこれ二週間が経過した。
私もタツキには出来る限り接触しないようにしていた。
辛い……けど、自業自得か……
9月の風は、ほんのり切なさを感じさせた。
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