【連載小説】ガンズグロウ　vol.32「本気」

「よく私ってわかったね！びっくりしたよ！」

「私がさやかさんを見間違えるはずはないです。」

「一回しか会ったことないのに、大袈裟だなぁ(笑)」

「一回会えば充分です！」

「ま、覚えててくれたのは嬉しいけどさ」

くうはもじもじしながら言った。

「ガンズグロウも、さやかさんがいたから始めたんですよ」

「そうなんだ」

「私もさやかさんのようになりたいと思いまして」

「そんなたいそうなことじゃないよ、周りから見たらただのオタクだって話」

するとくうがちょっと興奮した口調で言う。

「ガンズグロウがオタクだなんて、私、思っていません！さやかさんみたいな方もいらっしゃるじゃないですか！」

私はまあ、まあ、とくうをなだめると言った。

「それでも周りから見たらオタクなんだってば」

「う……さやかさんが言うならそうかもしれません」

この子素直すぎて話が難しいわぁ、と、正直思った。

「私、今日出掛けてよかったです」

「なんで？」

「さやかさんとこんなにおしゃべりできるなんて、夢みたいです」

「私はたいしたやつじゃないって、さっきも言ったじゃない」

「私にはたいしたことあるんですー！」

そのあと顔を見合せて、ふたりで笑った。

日も落ち暗くなり始めたのでそろそろ解散ということになる。

「えーっ、さやかさんともっといたいです……」

「また今度一緒に行こう？」

「はい……」

私は駅へ向かって歩き出した。

ガンズグロウをプレイ中、ゆらぎが変なことを言い出した。

『くうちゃんにはあまり関わらない方がいい』

『なんで？』

『昨日誹謗中傷のメッセージが来た。』

『え……なんて？』

『私のことを男だと勘違いしたらしくてな、さやかちゃんには近寄るなとさ』

確かにチーム内ではゆらぎと一番仲がいいのは事実だ。

でも、そんなこと言うようには私からは見えなかった。

『わかった、しばらく様子を見るよ』

それがまさかこんなことに発展するとは……

タツキからもメッセージが届く。

『くうちゃんから、さやかちゃんと仲良くしないでってメッセージが来てるんだけど、どうしてか知ってる？』

『それ、ゆらぎからも同じことを言われた。様子見するって言ってたけど、話してみるわ』

くうがログインしてくる。

私はタイミングを見計らってメッセージを送った。

『チームメイトに、仲良くしないでってメッセージしたのは本当？』

少し間が空いて、

『さやかさん今からあえませんか？』

とメッセージが来た。

『いいよ、会おうか』

待ち合わせはデパートの一階の化粧品売り場にした。

くうは待ち合わせ通りの時間にやって来た。

レースにフリルの可愛らしい格好だった。

私は無言でコーヒーショップへと向かう。

少し後ろからくうはついてきた。

コーヒーを注文すると、私は話を切り出した。

「チームメイトに仲良くしないでってメッセージを送ったのは本当？」

「……はい」

「なんでそんなことをしたの？」

くうはバッグをごそごそしている。

「ちゃんと質問に答えて。」

くうはあるものをバッグから取り出した。

それはバレンタインチョコだった。

「これ、さやかさんに」

そういや、今日はバレンタインだ。

「いやいや、チョコじゃなくて、話をしようよ」

そのとき、くうが口を開いた。

「そのチョコが理由です」

「いやいや、どういうこと？」

「そのチョコは」

くうははっきりした口調でいった。

「本命チョコです」

「え？本命？」

「だってわたし、女だよ？」

「関係ありません。好きなんです」

まっすぐ見つめてくるくうの視線を私ははねのけることができなかった。

「でも、私、彼氏いるし……」

「構いません。」

くうは本気だった。