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【連載小説】公民館職員 vol.3

今日は窓口でちょっとしたいざこざがあった。


私が対応していたのだが、コピーを頼まれた枚数と実際コピーした枚数が違うことによって、値段が違ってしまったのだ。


そもそもコピーを頼みに来た人は頼むだけ頼んで用事があるとかで帰ってしまったのだとか。

60枚コピーを依頼された私は、依頼された枚数だけコピーして、支払いと受け渡しを待っていた。

ところが支払いに来た人が言うには、30枚だけでよかったはずだという。

結局30枚ぶんお金をもらったのだが、せっかくコピーしたなら、残りの分もただで欲しいと抜かしやがった。

あら、言葉遣いが汚くてごめんなさい。

欲しいとおっしゃった、のだ。

さすがにただであげるというわけにもいかず、私が枚数分のお金を払って下さい、というが相手は折れなかった。

ただ、このままでは、どうせこのコピーはミスコピーとして処理しなければならないから、譲ってもよかったのだが、一ヶ所に許すと、他にもそういうパターンでくるのがおばちゃんたちだ。


こんな感じで軽く揉めていると、平野さんが外勤から帰ってきて、言った。

「じゃあ、割安で半額でお渡しするというのはどうでしょう?もちろん他の講座には内緒でです。」

おばちゃんたちはそれならいいといって、半額を支払って持って帰った。


「平野さん、すみませんでした。」

「いやいや、たまにいることだよ。そういうときは、『内緒の話』で処理すると案外うまくいくんだよね」

「『内緒の話』……今度その技使わせていただきます」

「基本的におばちゃんたちは自分たちだけ特別っていうのが好きだからね」

コーヒーをすすりながら平野さんが言う。

私はその通りだな、と感じた。



準備金というものがある。

講座などの部屋の使用料を支払ってもらうための釣り銭だ。

私はその管理担当で、毎日支払われた使用料と釣り銭を別にし、毎日銀行で役所に振り込む役割を果たしていた。


ある日、準備金が千円足りないことに気づいた私。

急いで事務長へ報告すると、原因究明することになった。

昨日支払われた使用料の釣り銭ミスの可能性が高く、昨日支払っていただいた人に片っ端から電話をかける。

その数は十件以上あった。

平野さんが手伝ってくれる。

電話したほとんどの人間が留守電になっていた。

そりゃそうだろう。

おばちゃんたちは昼間が活動時間だ。携帯など持っていないか持っていても気がつかない場合が多い。

また、夜に支払った人は昼間仕事をしている可能性が高く、みんな電話が伝わらなかった。

一応留守電には用件を入れて切ったのだけれど、それを聞いてもらえるのはいつになるか定かではない。


ちなみにこれが解決するまで、今日の入金分の書類は決裁に回せない。


つまりはこれがわからない限り、後の日は入金できないことになる。

一応毎日売上を入金しないと、会計室から注意勧告がくる。千円くらいならポケットマネーから出してしまいたいのだが、釣り銭ミスの可能性を考えるとそれは容易にできない。


ふと、鳴った電話に平野さんが出る。

釣り銭ミスの可能性がある講座生からだ。

平野さんは、

「はい……はい……ええ、そうなんです」

と相づちをうつ。

ふとこちらをみて、ウィンクする。

ちょっとドキッとする私。


返事の感じからして、やはり釣り銭ミスで間違いないようだ。


電話を切った平野さんは、私を呼ぶと、事務長の前で、釣り銭を千円多く渡していたことが判明したと言う。

今度の講座のときに支払うということで話がついた。

使用料とは、前納が決まっており、今日の分は今日の分で納入せねばならない。

平野さんが、

「俺が立て替えます」

と言って千円を私にくれた。

それで今日の処理を終えることができた。

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